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5.失敗

 思わずテーブルをブッ叩いて立ち上がった。

 ここらで苛立ちが限界だ。


「どうしても何もテンプレすぎるんだよお前らは! いきなり日本の高校生が異世界に召喚されたって時点で使い古された展開なのにその上魔王を倒さなきゃ帰れないとかさらにテンプレ上塗りやがって! しかも異世界と聞いたらバカの一つ覚えみたいに中世中世中世! それしか頭にねーのか! 今んとこテンプレじゃねえのなんて言葉が日本語ってトコだけだぞ!」


 いきなり大声を出した俺にお姫様も異世界組四人もポカンとしてる。

 いいや、この際だ。さっさとぶっちゃけることはぶっちゃけて失望してもらおう。そうすりゃ虎の子の魔法アイテムかなんかで帰してもらえるかもしれないし。

 ……まあ無理だろうけど。

 せめて腹立ちをぶちまけておかなきゃ気が済まん。


「俺は、この世界の人間じゃない! 完ッ全に無関係だ。なのになんで俺がお前らのために戦ってやらなきゃならん! このままじゃあ滅ぶってんなら潔く戦って滅べ! 他の世界にまで迷惑かけんな!」


 このお姫様はきっと怒られたことなんてないのだろう。

 だから呼ばれる側の迷惑も考えず召喚なんてできた。

 呼ばれる側だって生きている人間だ。それぞれに生きていく都合や事情というものがあるのに、拒否権なしの強制徴収をかけた。

 そんなことをされたこちらが好意的な反応をするはずがない。帰れないというならなおさらだ。

 真っ当な想像力があれば今の状況くらい予想できたはずなのにこうして面喰っている。お姫様の間抜け面がこちらの都合を斟酌していないことの何よりの証拠だ。


「おい、どうなんだよお姫様。俺にお前らのために命を懸ける理由があんのか? そんな義務があんのか? 黙ってないでなんとか言えよ、アルスティア・メル・アストリデア!」


 お姫様は名前を呼ばれて顔を上げたが、睨みつけるとすぐに視線を落とした。

 このアマ……黙ってりゃなんとかなるとでも思ってんのか?


「おいこら、こっち見やがれ。ちゃんと答えろよ」


 お姫様は動かない。下を向いたまま黙っている。

 ふざけてんのか。黙っていればこっちがおとなしく従うようになるとでも思ってるのか。バカにするにも程がある。

 いいや、なら力ずくでもこっちを向かせてやる。


「――そのへんにしておけよ」


 椅子を蹴飛ばしお姫様の方へ歩み寄る。がたんと大きな音がしていっそうお姫様は縮こまる。

 このくらいで動じるなら召喚なんてしてんじゃねえよ。拒絶されることくらい予想しておけ。

 そう言ってやろうと思ってお姫様の方に向き直ると、左腕を掴まれた。

 四ノ宮だ。

 音もなく立ち上がり、強い目でこちらを睨んでいる。

 静かにではあるが、怒っていた。

 この勇者サマはイジメられてるオンナノコを助けてあげるつもりらしい。

 鬱陶しい。俺はあのお姫様から帰る方法を聞き出さなきゃならんのだ。

 左腕を掴む手を振りほどこうとする。

 無理だった。

 異世界補正か本人の地力によるものか、四ノ宮は異様に力が強かった。


「痛いんだけど。放せよ」

「放さないよ。放してほしければおとなしく座るんだ」

「お前はむかつかないのかよ。いきなり召喚なんかされて、帰るには魔王を倒さなきゃならないなんて無茶言われて、挙句の果てにこうして目を逸らしてだんまりときた。おかしいだろ、こんなの」

「そうかもしれない。けど、そんなふうに怒鳴り散らしても何も解決しない。アルスティア様だって何も言えないだろ」


 正論だ。

 だが、正論で苛立ちは収まってくれない。

 俺だってこうして当り散らして事態が好転するなんて思っていない。

 それでも言うべき文句を言わずに黙っていたら、この先どうされるかわからない。

 ……まあ、俺が怒鳴ってもどうせお姫様は木偶になってるだけか。


「手、放せよ」

「きみが落ち着いて席についてくれるならすぐにでも」


 俺は右手で自分の後ろを指さした。


「椅子、倒したからな。おとなしく座るから手ぇ離せ」


 そう言うと、四ノ宮は手を放した。




 椅子を直して座ると、雰囲気が変わったことに気付いた。

 浅野とお姫様は四ノ宮をキラキラした目で見ている。

 きょろきょろしてる坂上は俺と目が合うと慌てて顔を背けた。


 ……しくじった。

 空気はまさに四ノ宮マンセー。

 四ノ宮さんマジ勇者って感じで尊敬が集まっている。

 対する俺に向けられたのは怯えた視線がひとつと敵意に満ちた視線がふたつ。怯えているのは坂上で、こっちを睨んでいるのが浅野とお姫様だ。ふたりは俺を一瞥すると四ノ宮へ視線を戻した。

 さっきは必死に目を逸らしてたくせに、援軍が入るとすぐに調子にのる。このお姫様、大嫌いなタイプだ。

 四ノ宮は俺のことは眼中にないようだ。静かに腕を組んでいる。どことなくドヤ顔っぽい。うざい。


 さて、この先どうするか。怒鳴ったのは軽率ではあったが無意味ではない。はず。

 お姫様は俺に苦手意識を持っただろうし、他の勇者も俺に対して悪い印象を持っただろう。

 加えてお姫様は四ノ宮を相当気に入ったらしい。もう俺のことはもうどうでもよくなっているだろう。

 隠してる送還方法があれば、今なら俺だけ帰らせろ、と言っても応じるはず。他の勇者からも『邪魔だから帰らせれば』などと援護射撃をもらえる可能性もある。

 あとは俺の立ち回り次第だ。


「……日野さん、どうしたんですか」


 ふと視線を感じてそちらを向くと、ぽかんと俺を見ている日野さんと目が合った。

 意外だ。読書に戻ってると思ってた。


「あ、いや、なんでもないよ、うん」


 そう言って日野さんは読書に戻った。

 周りには俺に対して好意的な人は一人もいない。いきなりキレてぎゃあすか喚いたんだから当たり前か。

 短気はよくない。

 ……そういえばこの部屋にはもう一人いたはずだ。

 俺はその人の方を向く。

 姫様お付きのメイドさんは、好意的とは言えないまでも、申し訳なさそうな目でこちらを見ていた。

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