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27.VS勇者

「勇者シノミヤユキヤとムラヤマタカヒサの、剣術の試合を始めます! 勝敗はどちらかが戦闘不能となるまでつきません!」


 大見得切ったはいいけど人生最大のピンチなう。


 真正面から四ノ宮を睨みつけ、切っ先を向ける。

 しかし内心では軽くパニック状態だ。

 フィールドは完全なるアウェー。周りの全てが敵。

 正面に据えた敵は俺よりはるかに強い。


「村山貴久……今日は俺が稽古をつけてやる」


 敵、四ノ宮はどういう訳か怒気をはらんだ目をこちらに向けている。

 なんでお前が怒ってんだよ。怒りたいのはこっちだよ。いやもう怒ってるけどさ。


 俺と敵の戦力比較をしてみる。

 体力。ほぼ全ての面において四ノ宮の方が上。長座体前屈なら負けない。

 体格。身長体重共に四ノ宮が上回っている。

 剣術。完全ド素人の俺と訓練期間の短さをフォローするスキルを持っている四ノ宮。

 魔力。比較になんねえ。魔力による補正を考えれば身体能力の差は絶望そのものになるだろう。


 うん、勝つとかムリゲー。どうにか怪我を少なく切り抜ける方法を考えた方がよさそうだ。

 四ノ宮は正義の味方を気取っている。そこを突けば鈍るか?


「何を怒ってるのか知らないけどさあ、こんなリンチに加担して恥ずかしくないのか?」

「知らない、だと……? とぼけやがって!」


 火に油を注いだ!?

 こいつの逆鱗がわからねえ!


 背筋が冷える。直感がこのままでは危険だと叫んでいる。

 全力で左へ逃げる。

 一瞬前まで俺が立っていた場所に四ノ宮がすさまじい勢いで突撃。木剣を振り下ろしていた。

 あっぶねえ……! 脳天直撃コースで剣を振るとか殺す気かよ!? しかも試合開始の声がかかる前に攻撃とか不意打ちにも程がある!

 回復魔法とかあるからすぐに治ると思ってるんのかもしれないけど、殴られたら当然痛いんだぞ!


「おい四ノ宮! お前は何をそんなに怒ってるんだよ!」

「この期に及んでまだしらを切るのかお前は!」


 くそ、会話にならねえ。

 こうなれば多少の怪我は覚悟して、さっさと試合を終わらせてしまうべきだ。

 俺にできる最大の抵抗は、何の見せ場も盛り上がりも作らず、即座に敗北してしまうこと。

 試合が盛り上がらなければ民衆は苛立ちを発散しきれないだろう。

 何もせずに俺が負ければ、俺が勇者ではないことが明らかとなるだろう。

 一発もらって気絶したふりをすれば、さすがに四ノ宮も追撃はしてこないはず。


 初撃をかわされた四ノ宮が剣を振るう。

 よし、これに当たって吹っ飛んで、気を失ったふりをしよう!


 と、思ったけれど。

 猛烈に嫌な予感がしてやめる。直感の赴くままに軽く後ろに跳んでかわす。

 

 目の前で木剣が空を切る「ごう」という音を聞いた。

 ――うん、わかった、無理だ。


 魔力視を発動する。

 四ノ宮は魔力が無駄に大きい。ゴルドルさんほど魔力の操作に熟達しているとは思えないが、動く魔力が多ければそれだけ流れを視やすくなるはず。

 剣技をマスターしたとはいえ実戦では素人。動きを先読みすれば避けきれないこともない。


 一撃もらって試合終了? はは、何を思ってたんだ、俺は。

 終了するのは俺の人生じゃねーか!

 四ノ宮の野郎、首を狙った一撃を振りぬきやがった。

 無理、木剣超怖い! こんなもん当たったら気絶したふりをする余裕なんて絶対なくなる!

 どれだけ木剣が危険かわかって、かろうじて直感でかわせるのに黙って当たるとか、そんな怖い真似ができるか!


―――


 振り下ろされる木剣を盾で逸らす。

 金属製の盾で防いだにも関わらず腕が痺れる。

 突き出された木剣を、体をひねってかわす。

 胸当てに掠り嫌な音を立てた。


 こんなことを何度繰り返しただろうか。

 退いたら追撃を食らう。それを避けるために四ノ宮の方へ飛び込むように動き攻撃をしのぎ続ける。

 初めは攻撃に向かうように動くことが怖かったが、そうする以外に四ノ宮の攻撃をしのぐイメージが湧かなかった。

 四ノ宮が木剣を振り切った時には必ず四ノ宮の背後か側面に回るように動く。

 正面に居続けたら対処しきれない連続攻撃が来る気がしてならないのだ。

 幸い、四ノ宮よりゴルドルさんの方が速い。対応しきれない速度ではない。


 始めはさっさと当たって気絶してしまおうと思っていたが、そんな考えは頭の中から消えている。

 あんなもん、食らったら死ぬ。死なないまでも最低で骨折だ。避けられるうちはつい避けてしまう。

 こうして四ノ宮の攻撃をかわすほどに試合は盛り上がり、あの腐れ姫の目的に加担することになるのはわかっている。

 けれど、怖いものは怖いのだ。

 四ノ宮を倒せればベストだが、基礎能力が違いすぎる。全神経を防御に割いているからしのげているだけで反撃なんて欲を出したら即潰されるだろう。

 直感のおかげで思いのほか戦えているがそれもいつまでもつか。


 俺が完全に守りに入ったことにじれたのか、四ノ宮の動きに変化が出た。

 乱暴な力技。力任せに振り回される木剣の勢いは、重みは先ほどまでと比べ物にならない。

 おそらく熟練の戦士なら簡単に隙を突けるのだろうが、俺には無理だ。

 今だって木剣と魔力の動きを注視して場当たりに対応しているだけ。いまだに視線から動きを読むとかできない。


 これは、まずい。本当に一撃受けたら死にかねない。

 かといってこの茶番を終わらせるには攻撃を食らうしかない。

 ……いや、違う。


 四ノ宮を倒せば、終わる!


 横薙ぎに振り抜かれる木剣。

 今までずっと回り込むようにして回避してきた。今なら正面に残っても連続攻撃は来ないはず!

 俺は、軽く後ろにステップして木剣をかわす。

 目の前で木剣が空気を裂く。鋭い音が耳に響いた。

 

 ――ここだ!


 四ノ宮の首めがけて、全力で木剣を振るう。

 いくら魔力で身体能力が上がっていても、急所を打たれればダメージがあるはず!


 そう思っての一撃だった。四ノ宮の剣が俺の攻撃より速くても、振りぬいた姿勢から戻すのは間に合わない。

 そのはずだった。

 四ノ宮の口角が上がるのを見た。

 小さく一言、呟いた。


「『パワーブースト』」


 瞬間。四ノ宮の体を流れる魔力が活性化――四ノ宮の木剣が戻り、俺の木剣と衝突した。


「……は?」


 俺の木剣はあっけなく折れた。

 破裂した、という方が正しいかもしれない。ぱあん、といっそ心地いいほど高らかな音を残して木剣は柄だけ残して無くなった。


 意味がわからない。

 今までの四ノ宮の動きを見てもこんなに速く動けるわけがない。

 こんな動きができるなら俺は逃げることもできずに一方的に殴られていたはずだ。

 一瞬、意識に空白ができた。

 わけがわからない現実を前に、脳ミソが一瞬停止してしまった。四ノ宮が魔法を使ったことに気付いたのは空白の直後。

 意識が戻ると同時に見たのは迫りくる木剣。かわすこともできずに首を強かに打ち付けられた。


「――っ、がぁッ!」


 死んだと思った。

 おそらく俺の木剣を粉砕できたのは四ノ宮のスキル・ウエポンマスターにより木剣が強化されていたからだろう。

 強度を増した木剣で、木剣を砕くような一撃が首を直撃したのだ。無事な方がおかしい。


 痛い、苦しい、熱い。喉を潰されたようで悲鳴をあげることすらできない。

 どうやら手加減はされたらしい。俺の首が木剣より丈夫なはずがない。本気で打たれたなら少なくとも首の骨は砕けているだろう。

 反射的に跳んで衝撃は軽減したが、それでも苦しい。全力で跳び、打たれたことでバランスを崩して無様に地面を転がる。

 ぐるぐる回る視界。あえて受け身はとらずに転がっていく。肌がむき出しの手と顔がこすれて熱い。

 やがて回転が収まり地面に倒れ伏す。


 俺は起き上がらない。

 幸い、喉仏を真正面から潰されたのではない。ひどく苦しいがなんとか耐えられる。呻き声も上げないように息を潜め、気絶したふりをする。

 何を怒っているか知らないが、さすがに気を失った人間に追撃したりはしないだろう。


 ――この期に及んで、まだ俺の見通しは甘かった。


 ぞわ、と。

 嫌な予感がした。

 耳の間近でざりっと砂を踏む音した。

聞こえると同時に跳ね起きて、全力で跳んだ。

 一瞬前まで自分が寝ていた場所を見ると四ノ宮が振り下ろした木剣により地面が抉られていた。

 まさか、こんなにあっさり気絶したふりを見破られたのか?


「なんだ、まだ動けたのか」


 俺の考えを否定するような言葉が、四ノ宮の口からこぼれた。

 その言葉から恐ろしい仮定が組みあがる。

 息は苦しいが声は出る。焼け付くような喉から疑問を投げかける。


「……おい四ノ宮、まさかお前、気絶したふりを見破ったんじゃなくて、気絶した俺を殴るつもりだったのか?」

「それがどうかしたか?」

「……なんだ、それ」


 普段は正義の味方ぶっていますが気分次第で戦えなくなった相手でもいたぶりますってか? 偽善者ってレベルじゃねーぞ。


「弱い奴が理不尽にいたぶられてるって聞いてお前は怒ってたよな? ならお前が今していることはなんだよ。無理やり試合に引きずり出された魔力も持たない一般人を、魔法まで使って殴り倒して、気絶してるのをさらに殴る? 一方的で理不尽な暴力そのものじゃねえか」

「ふん、お前は自分が魔法を使えないからって魔王たちが魔法を使わないでくれてると思っているのか? そんな都合のいい話があるわけないだろう。これは実戦形式の試合なんだ。魔法くらい使って当然だ」


 ……自分が逆の立場になった時にもこいつが同じことを言えるかどうか、ぜひ試してみたいな。


「バスクは剣術の試合って言ってただろ。魔法も剣術って言うんだな、初めて知ったよ」

「お前の戯言を聞いてやる義理はない!」


 自分に都合が悪い言葉は全て戯言ですか。都合のいい耳をお持ちで。

 それにしても四ノ宮は何でこんなに怒っているんだろうか。

 付き合いはあまりなかったが、結構な主人公気質に見えた。英雄願望があると言ってもいいかもしれない。

 その四ノ宮が一方的な弱いものイジメに加担するとか、普通には考えづらい。

 こいつが弱いものイジメに加担するほど怒ることと言ったら、浅野や坂上、日野さんにひどいことをした、とかだろうか。

 もちろん身に覚えはない。


「なあ、どうしてそこまで俺を目の敵にするんだよ。お前を怒らせるようなことをしたか、俺は? せいぜいこっちに来た初日にお姫様をボロクソ言ったくらいだろ」

「――ッ! いい加減その被害者ヅラをやめたらどうだ! 目障りだ!」

「事実俺は被害者だろうが! いきなりこんな公開処刑みたいな場所に引きずり出されて! 自分より明らかに強い奴に理不尽な怒りをぶつけられて! 何か、俺は加害者なのか!? なら何をしたのか言ってみろよ!」

「自分に付けられたメイドを虐待しただろう!」

「はあ!?」


 四ノ宮がこちらに木刀の切っ先を向けて叫んだ。

 虐待? 俺が? チファを?

 ありえないだろう。むしろその虐待をやめさせようと思って式典にまで参加したんだぞ。

 何を、どう勘違いすれば俺がチファを虐待していることになるんだ。


「お前はあの子に酷い食事以外を許さなかったそうじゃないか! あんな野菜くずのスープに黒パンだけの、貧相な食事しか!」

「あれは俺が用意したわけじゃない。他のメイドたちがそれ以外の食材を使わせなかっただけだぞ?」

「そうやってまた俺を騙そうとするのか、卑怯者め! また彼女たちに濡れ衣を着せようっていうのか!」


 ……? 会話が噛み合っていない?

 四ノ宮は完全に俺が悪いものと決めつけている。それは何故だ?

 四ノ宮は言った。酷い食事しか許さなかった『そう』じゃないか、と。『また』俺を騙そうとするのか、と。

 つまり四ノ宮はチファの食事が酷いものであると誰かから聞いて、俺が四ノ宮を騙したと思い込んでいるわけだ。

 誰が四ノ宮にチファの食事のことを吹き込んだのか。どうして俺が四ノ宮を騙そうとしていると思い込むようなことを言ったのか。


 四ノ宮は言っていた。また彼女たちに濡れ衣を、と。

 ……あの腐れメイドどもが元凶か。

 浅野が俺をクズ呼ばわりした理由も理解できた。

 理解できたが、もう少し考えろよ、お前ら。


「おい四ノ宮、落ち着いて聞け。俺はチファを虐待なんかしちゃいない。チファの食事が酷かったのはメイド連中の嫌がらせのせいだし、あいつらに濡れ衣を着せようともしていない。俺だってお前の言う酷い食事しかしてなかったんだぞ」

「うるさい、問答無用だ!」


 くっそこいつ話も聞きやがらねえ!

 やっぱり俺の四ノ宮への評価は間違っていなかった。こいつは英雄願望のバカだ!

 そうだよな、メイドが悪役よりも黒幕の俺をみんなの前で叩き伏せる展開の方がそれっぽいもんな!


 強化魔法は健在なのか、普通の人間では考えられないような速度で四ノ宮が突進してくる。

 苦し紛れに折れた木剣の柄を投げつけるが、四ノ宮の木剣にあっさり弾かれた。

 くそ、逃げ切れん! どうにか受けるしかない!

 重心を落として盾を構える。いくら盾が金属製とはいえ真正面から受けたら衝撃で腕が折れかねない。威力を逸らして受け流す!

 轟然と振り下ろされる木剣に角度を付けて構えた盾で相対する。ウェズリーから習った通りに衝撃を逸らし、流す。


 木剣が盾に当たる鈍い音がした。

 木剣が盾の表面を削る音がした。

 木剣が金属の盾を割る音がした。

 木剣が盾もろともに俺の左腕を砕く音を聞いた。


「――は?」


 俺は間抜けな自分の声をどこか離れた場所から聞いていた。

 だが、いつまでも他人事ではいられない。

 腕が砕けた。

 そのことを認識した瞬間、すさまじい痛みに襲われた。


「ッ、があぁぁあぁ!」


 砕けた。腕が。受け流そうと構えた盾ごと、あっさりと。

 おかしいだろ、盾は金属製だぞ? 強化魔法がかかっているからってこんなにあっさり壊れるもんなのかよ!


 痛みで頭が真っ白になる。直後、さらなる痛みで視界が真っ赤に染まった。

 呻く俺に四ノ宮がもう一撃加えたのだ。左足の太腿を無造作に殴られた。

 熱い。殴られた痛みだけではない。まるで血が熱湯になったような熱さに襲われる。


 骨折まではしていないようだが打たれた部分の感覚がなくなった。左足全体に力が入らない。

 崩れ落ちる俺の腹を、四ノ宮はおまけとばかりに殴りつけた。

 水っぽい衝撃。水風船を握り潰したような感触と、例えようのない不快感。

 殴られた腹に焼け付くような痛みが残る。

 踏ん張ることすらできなくて、俺は地面に転がった。今度は演技じゃない。酷い痛みと倦怠感で指一本動かすことすら難しい。


 こうして俺は四ノ宮に惨敗した。


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