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24.やぶへび

 四ノ宮とバスクさんの戦いを見て考えた。

 どうしたらあんなふうに動けるのだろうか、と。

 俺が四ノ宮に負けないためにはどうしたらいいか、と。


 今さら四ノ宮に対抗心が出てきたわけではないが。

 急にこんなことを考え出したのには理由がある。

 ひとつは単純な好奇心だ。四ノ宮とバスクさんの動きはおそらく地球の誰よりも速い。せっかく異世界補正で地球最速以上の動きができるのならぜひその世界を見てみたい。

 ふたつめは危機感だ。俺はおそらく四ノ宮に嫌われている。少なくとも好感は持たれていないだろう。その状況で俺が四ノ宮に対抗できる戦力を持っていないのは危険だ。何かの拍子で怒らせたらばっさり行きかねない。

 みっつめはバスクさんが魔力を使っていなかったこと。魔力なしでもあれほど動けるのならば、俺にも希望はある。

 大きな理由はこんなところ。

 オトコノコとして強さに憧れたり、などはごくわずかな動機である。


「そんなわけでダイム先生、ゴルドルさん。強くなるにはどうすればいいでしょうか」


 ぽかんとする二人の目を見て問いただした。

 嫌がらせのせいで俺は他の人が昼食をとる時間がまるまるヒマになってしまった。

 その時間に先ほどのような疑問が浮かんで、せっかくだし普段から訓練してくれているふたりを探してみた。

 食堂を除くとちょうど都合よくふたりで昼食を食べていたのでこっそり侵入。尋ねてみた。


「……なんだよ藪から棒に」

「同感です。いきなりどうしたんですか?」

「いやあ、なんか四ノ宮の急な上達っぷりを見て触発されたっていうか」

「普通、素人がひと月足らずであんなレベルまでなれねえよ。ありゃ能力の賜物だ。比較するだけバカ見るぞ」

「ですね。ムラヤマ君、きみにもそれなりに戦う才能はありそうですが、彼は別格です。勇者としての身体能力に加え莫大な魔力を宿している。勇者シノミヤは基本性能があなたと違いすぎる」


 帰って来たのはにべもない返答だった。

 やはりこちらでも四ノ宮はチートじみた存在らしい。

 とはいえ打倒が不可能というわけでもないだろう。


「バスクさんは四ノ宮と戦って、押していましたよね。あれはなんでなんです?」


 新しい問いを放つ。おおむね予想はついているが、せっかくの機会だし聞くだけ聞いてみる。


「あれは錬気と経験によるものですね。特に経験によるものが大きい。いくらスキルで技量を補おうと、シノミヤ様は戦いに関しては素人です。技を出すまでの判断速度で大きくバスク殿に後れをとっている」

「……え、錬気ってなに?」

「そうだな。それと思考速度か。余裕がないせいかその場しのぎの行動しかとれてねえ。あれじゃあ確実に倒すための流れを作っているバスクには勝てんだろうなあ」

「いやだから錬気について詳しく」


 だいたい予想通りの答えだが、なんか新しい単語が出てきた。聞くからに有効そうな能力っぽいのですが。体力を強化する的なアレですか?


「聞いたところでどうにもできませんよ。錬気は長い訓練の結果として引き出されるものですから」

「四ノ宮に勝ちたいなら実戦経験を積んで思考を戦闘慣れさせるのが一番だな。……よし、いっちょう稽古をつけてやるか!」

「ちょうど昼食も終わりましたし、ムラヤマ君の昼食まで付き合いますか」

「え、早! 食うの早っ!」


 まだ昼食の時間が始まって間もない。俺と会話しながらだったにも関わらず、確かに二人の前の皿は全て空になっていた。


―――


 ところ変わって訓練場。前回はウェズリー、シュラットと共に戦った相手と一対一で向き合っている。


「とはいえこんな短時間じゃあ脳ミソを戦う状態に持ってくのも難しいだろうからな」

「今回は相手の動きを先読みするコツを伝授するとしましょう」


 熊のようなゴルドルさんは体格に見合った大きさの木大剣を持っている。

 慣用句的な意味だけでなく絵面的にも鬼に金棒――めっちゃおっかない。木製だから金棒ではないけれど、あの大きさなら十分鈍器として扱えるんじゃないだろうか。

 ダイム先生は少し離れたところに腰を下ろしている。食後は消化が終わるまで激しい運動をしたくないらしい。


「……それにしてもムサいよなあ」


 熊のようなおっさんに、白髪のじいちゃん。そこに男子高校生。

 自分から声をかけておいてあれだが、致命的に潤いが足りない組み合わせだと思う。

 

「何か言いましたか」

「先生とか教師と言ったら眼鏡をかけたクールな美人かちょっと頼りないけど親身になってくれる綺麗なお姉さんがいいなあ、と思っただけです、はい」

「まあ、気持ちはわかる」


 正面に立つゴルドルさんは苦笑しながらも同意してくれた。


「バカなことを言っていないで訓練を始めましょう。あまり時間もないのですし」

「はい! よろしくお願いします!」


 頭を切り替えて目の前のタスクに集中する。

 気合いが入っているというのもあるが、目の前には鈍器を装備した剛腕の兵士がいるのだ。いくら手加減されているとはいえ気を抜いていたら大けがする。可能な限り集中していないと命が危ない。


「ムラヤマ君、魔力視はもうそれなりの精度でできますね?」

「はい。集中すれば相手の体に流れる魔力を見ることもできるようになりました」

「よろしい。今回教えるのは近接戦における魔力視の活用法です。では、ゴルドルの魔力の流れを注視して。ゴルドル、やりなさい」

「おうさ!」


 呼びかけられたゴルドルさんがゆっくりした動作で木大剣を振り上げ、振り下ろす。

 言われた通りに魔力視を使った状態でゴルドルさんを観察する。

 踏ん張る足と木大剣を持ち上げる腕に多くの魔力が集まっている。

 ただ見ているだけでは木大剣に潰される。大きめにバックステップを踏んで距離をとる。

 振り下ろされた木大剣が地面を打つと、魔力はさらに腕に集中した。振り下ろしたダメージを逃がさないように抑え付けている感じだ。

 木大剣自体は無理なく避けられたが、地面を打った時の振動が足から伝わり腰が抜けそうになる。近くに震度計があったら反応するレベルの衝撃だった。


「分かりましたか? このように熟練の兵士ほど力が必要な部位に魔力を集めて強化し、通常よりもはるかに大きな結果を残すようになります。これを意識せず、かつ適切に行えるようになれば戦士として一人前でしょう。ですが、これを逆手に取れば相手の行動を先読みする手助けになります」


 戦いに慣れた人間は魔力を必要な箇所に集めるようになる。

 それはつまり、魔力の流れを見れば次の運動をする上で力が必要な箇所を見極めることができるということだ。

 前々から動作に合わせて魔力が動いていることには気づいていたが、魔力視に集中してしまえば動きがおろそかになる。そんなわけでとりあえず封印していたけれど。

 より強い人ほど魔力を動かす量が多くなるなら。

 魔力の動きが大きいほど流れを追いやすいことには気づいていなかった。これほど大げさな流れなら魔力視にそこまで集中しなくても十分追える。

 ウェズリーたち相手に使いづらかったのは、ふたりが魔力の操作に熟達してなかったからだろう。


「重要なのは魔力の流れから相手の攻撃の流れを読み取ることです。ゴルドル、もう一度」


 ダイム先生からの指示で、先ほどより少し速くゴルドルさんが攻撃を仕掛けてくる。

 初めは軽く魔力視を使いながら動くことに手間取ったが、慣れてしまえば問題ない。

 次の攻撃を察知して、一足早く回避する。これなら反撃も簡単にできそうだ。


「ふむ、なかなか飲み込みが早いですね」

「とうとう俺の勇者パワーが目覚めた感じですかぁ痛ッ!?」


 調子こいてドヤ顔してたら頭を木大剣で小突かれた。

 そんな……ちゃんと魔力の流れを読んでいたのに!


「すまん、なんか今の顔を見たら無性にむかついて、つい」

「つい、でこんな打撃食らわせられたら身が持ちません! 頭蓋骨が陥没しそうな音がしましたよ今!?」

「……と、このように魔力視は先読みに使える能力ですが、絶対ではありません」

「おれほどの熟練者にもなると魔力を使ったダマシもかけられるようになるからな。今の一発は授業料ってことで水に流せ」

「ひでえ!」

「タカヒサ君。戦場では相手が予想外のことをしてくるなんて日常茶飯事ですよ。相手が自分に合わせてくれるなんて甘いことを考えてはいけません。心構えを作ることも訓練のうちです」


 気軽につついた藪からは魔力視の活用法とどでかいタンコブが出てきた。

 タンコブはとても痛いけれど、有用な技能を手に入れる代償だったと諦めよう。

 余談ではあるが、全力で動きすぎたせいでお昼ごはんはあんまり食べれませんでした。


 

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