17.幼馴染
「んでさー、ヒサはなんか気付いたこととかあるか? 初めて戦ったんだし、なんかあるだろ?」
「そうだね。何でもいいから気付いたことがあれば言ってほしい。最近は二人だとあんまり進歩がないんだ」
そりゃそうだろう。一か月ほど俺より長く訓練を受けているらしいが、見た限りまだ体ができていない。
格闘技の経験があるわけでもないけど、木剣で殴れば簡単に折れてしまいそうな腕を見ればそれくらいわかる。
ファンタジー的に考えると、食べ物が足りないせいで成長期なのに栄養が摂れなかったとかそんな感じだろうか。
訓練を受け初めてまだ一か月だという。二人もろくに剣の訓練を受けていないのだろう。
なのに素人二人で切磋琢磨とか無茶ぶりにも程がある。そこにさらに素人を混ぜるとか正気の沙汰じゃない。
「そうだなあ……あ、シュラットは何で盾を使わないんだ?」
とはいえ与えられた環境に文句を言うばかりでは仕方がないので疑問を口にする。
いちばん気になったことだ。
せっかく左手に盾を持っているのに全然使っていなかった。
ウェズリーのように受け流すことができなくても、素人の突きくらい盾を使えば簡単に防げただろう。
盾を使わず左手を遊ばせておくくらいなら両手で剣を持った方がいいのではなかろうか。
訊いてみるとシュラットは甘いものと間違えて苦いもの食べてしまったみたいな顔をした。
「そりゃ盾を使った方がいいのはわかるんだけどさあ、防御に回るのはどうにも性に合わないっつーか。防御に関してはウェズに勝てないし」
「じゃあいっそ盾を持たない方がいいんじゃないか? 使わない盾なんて持ってるだけ邪魔だろ?」
「そーなんだけどさあ、いちおー騎士剣技を習ってる身としちゃ盾は捨てらんないっていうか」
「……なあウェズリー、俺は騎士剣技って防御主体でじっくり打ち合うもんだと思ったんだけどさ、間違ってる?」
「騎士剣技は何かを守るための剣技だから、防御が主体で間違ってないと思う」
「シュラットはそもそも騎士剣技に向かないってことじゃないのか、それ。もっと攻撃的な剣技の方が向いてるような」
そもそも守りに入ることが前提の剣技を、防御が性に合わない人が学ぶ方がおかしいのでは。
「あと、ふたりとも体格は小柄な方だよな」
「う、うるせー! これから大きくなるんだよ!」
「そうだよ! 僕らの可能性はまだ終わっちゃいない!」
「かもしんないけど今は小さいよな」
「「…………」」
二人は沈黙した。
自覚はあるらしい。
周囲に比べれば若い――というか幼いのだから当たり前だけど、身長百八十センチ級がゴロゴロいる中で160センチ以下では相当に小柄だ。
いちおう160センチある俺でも自分が小さくなったみたいな印象を受けているのだから、俺より十センチ近く小さい二人はなおさらだろう。
「だったら、剣は叩きつけるより突きを使った方がいいと思うんだけど」
「騎士剣技だと基本は斬ることだよ? 突きだとレイピアを使う剣術の方がいいんじゃないかな」
確かに昨日習った型には突き技はほとんどなかった。
なのに俺が突きを使ったのには理由がある。
俺の腕力じゃあ剣で殴っても大したダメージは与えられないからだ。
剣なら殴るじゃなくて斬るだろ、と思うかもしれないが、鎧を斬れるような技術がなければ剣も鎧を殴るだけだ。
シュラットに俺の打撃が有効だったのは武器を狙った攻撃だったこと、シュラットの体力がまだまだ未熟だったことが原因だ。
肉体強化の魔法や四ノ宮級の壊れ体力があれば別かもしれないけれど。
多分、俺が盾や鎧を殴ったら跳ね返されて終わる。その点突きなら鎧の隙間を狙いやすいし、弾かれても薙いだ時よりはさらす隙も小さくて済みそうだ。
突くなら突き用の武器を使えばいいという指摘はもっともだけど。
それとどこかのマンガで得た知識によると、西洋剣は斬るというより剣の重みで叩き割る武器らしい。武器の重みを活かすなら高い場所から振り下ろすのがいい。小柄な時点で攻撃力は下がる。
「じゃあレイピアを持てばいいんじゃね? それよりウェズリー、試合の時にやった攻撃を流すやつ、やり方教えて!」
―――
そんな具合に、ウェズリーやシュラットと話したり技を教えてもらっていた時のことだ。
「タカヒサ様、訓練中申し訳ないのですけど、昼食のことでお話しが――、あれ?」
チファが訓練場にやって来た。
こちらを見て不思議そうに首をかしげる。
その視線の先には俺ではなく、ウェズリーとシュラットがいた。
「……チファ? あれー? なんでチファがヒサを呼びにくんの?」
「まだ雇われて一か月も経ってないのに、勇者様のお世話を任されたのかい?」
「うん、まあそうなんだけど。どうしてウェズとシュラがタカヒサ様と訓練をしているの?」
「ゴルドルさんが実力の近い同士で訓練しろって言ったから組むことになったんだよー」
どうにも親しげな雰囲気だ。
とっても疎外感。
俺がわかりやすく拗ねてますよアピールをしていると、チファが気付いてくれた。
うんチファ、やっぱりきみはいい子だ。
「ええとですね、わたしとこの二人は同じ村の出身なんです。わたしが城で働くと決めたのと同じ頃に守備隊に入隊していたんです」
「おお、ファンタジー的幼なじみ」
なんか異世界から来た俺よりもウェズリーとシュラットの方が主人公っぽいんだけど。
見たところチファの方が二人より年下っぽい。
城で働くことになった妹分が心配になって、近くにいられるように兵士になったら王族や貴族との出会いが待っているんですねわかります。
……待っているのがあの腐れ王女ならうらやましくもないけど。
「二人とも訓練についていけてるの? シュラは飽きっぽいし集団行動は苦手でしょ? ウェズも荒事はあんまり得意じゃないし。周りに迷惑かけてない?」
「ちゃ、ちゃんと周りに合わせてやってらー!」
「そ、そうだよ、僕もシュラも結構頑張ってるよ!」
「ならいいけど……タカヒサ様、この二人に迷惑をかけられたら私に言ってくださいね? よく言い含めておきますので」
「お、おう。その時は頼みます」
前言撤回。
チファは妹分じゃなくて、姉貴分だ。