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15.兵士

「おお、こいつがハズレと評判の勇者サマか! 女みてえな顔してるな!」


 剣の訓練が始まって二日目。俺は兵士長の下に挨拶に行った。

 兵士長は顎髭を生やしたこれぞ兵士! といった感じの偉丈夫だった。四角い顔に二メートル近くありそうな長身、ガタイがよくて横幅もかなりある。見た瞬間にでけえ! と思わされた。実際かなり大柄だが、数字以上に大きく見える。

 なんというか、熊みたいだ。


 バスクさんに案内されて辿りついたのは訓練場の片隅だ。

 どうせこれから訓練をするからと兵士長に指定されたらしい。訓練用の木剣と盾も持ってきている。

 それにしても遠慮とかないのか。いきなりハズレとか言われたのは初めてだ。

 頭の冷静な部分は怒ってもいいだろうと思っていたけど、全然怒りは湧いてこなかった。

 嫌味のない明朗な言い方をされたからだろうか。


 あれ、ていうかもう評判になってんの?

 体力も平凡だと判明したのは昨日のことだぞ。

 それに普通、勇者にハズレがいるとか評判になったら兵士の士気も下がりそうだし隠すもんじゃないのか?


「おれはこのフォルトの兵士長を任されてるゴルドルってもんだ。ニイちゃん、名前は?」

「うす、村山貴久っす!」


 見た目から体育会系全開なゴルドルさんの前に立つと、こっちもそれっぽいノリになった。


「は、元気いいじゃねえか! これからは一緒に訓練するワケだからよ、よろしく頼むぜ? ところでよ、ムラヤマとタカヒサ、どっちが家名だ?」

「うす、村山が家の名前っす!」

「おし、じゃあタカヒサ、これから他の連中にも紹介すっからついてこい!」


 どうやら第一印象は悪くなかったらしい。見た目通り体育会系だ、多分。


―――


「ご存知ハズレの勇者の村山貴久です。今日からこちらでお世話になります。よろしくお願いします」


 ゴルドルさんに連れられて朝の稽古から加わることになった。他の兵士たちの前で自己紹介をして、軽く会釈する。

 先手を打って自虐ったのが意外だったのか、みんな面食らっているようだ。

 静かな数秒が過ぎた後、ぱちぱちとまばらに拍手され「おーう」とか「よろしくなー」とか声をかけられた。

 よかった、役立たずのハズレは帰れとか言われなくて。


 少し余裕ができたので集まった兵士たちを眺める。

 青い頭やオレンジ色の頭がちらほら見える。こういうのを見るとここが異世界だと改めて実感する。

 兵士たちの雰囲気はイメージと少し違っていた。

 職業兵士というと荒くれ者か無表情に命令最優先なカタブツか、というイメージがあったが、そうでもないらしい。


 まず、若い。

 職業軍人なのだから、現場でも二十代後半とか三十歳くらいが平均と思っていたが、ここにいる中では三十歳を過ぎていそうな人はほとんどいない。

 それどころか十台らしい少年兵が結構いる。何人かは俺よりも年下に見える。黒っぽい茶髪の少年や、顔は貴族っぽくふんわりした金髪の少年などだ。


 また、あまり軍隊っぽい雰囲気ではない。

 街を守る軍隊であるはずなのに、あまり規律に厳格なわけでもなく、かといって荒くれ兵士が幅をきかせているというわけでもない。

 イメージとしては学校の部活程度。部活もピンキリだけど、比較的緩めな運動部みたいだ。


「うし、紹介も終わったし訓練はじめんぞ!」

『はい!』


 ゴルドルさんが号令をかけると、彼らは整列して一斉に木剣を構えた。

 俺も慌てて剣を抜いて適当に空いてる場所に入れてもらった。

 こうして訓練の日々が始まった。


―――


「ぶはぁ、水がうまい」

 井戸の傍らで水をあおる。


 たくさん汗をかいた体に冷たい井戸水が心地よい。喉を通り、胸に広がり、いい具合に体を冷ましてくれる。

 午前の訓練はおおむね消化した。

 特別なメニューがあったわけではない。素振りに筋トレ、型の稽古をしただけだ。

 それでも運動不足な身としてはとてもキツイ。思いきり汗をかいた。水を飲むまで景色が軽くぼやけていた。


 残るメニューはただひとつ――試合だ。

 こちらに来て一週間も経たない、剣術の稽古を受け始めてまだ二日の俺になんという無茶を言うのか。

 同じく水を飲みに来ていたゴルドルさんに俺は無意味なケガはしたくない、勇者としての力なんてまるでないし剣術もド素人だと告げる。すると、


「んなこたァわかってる。あんなへっぴり腰で経験者とか言われたらそっちのがびっくりだ」


 当たり前だと言わんばかりに呆れられた。


「ならなんでいきなり試合なんかさせるんですか。あれですか、お姫様からの命令で俺をボコっていじめろと?」

「そんな命令されてねえよ。仮にされてもおれはしねえ」


 カマをかけてみるとあっさり否定された。

 しかも命令違反をするとはっきり堂々宣言された。

 どうやら邪推が過ぎたようだ。反省。

 被害妄想はいくない。


「ちゃんと組み合わせは考えてる。試合の中で指導させるつもりなら格上と組ませるが、今回は自分がどれだけ動けるか自覚させるための試合だ。実力が近い同士で組ませる」

「俺と同程度の兵士がいるんですか?」


 兵士と言えば戦闘訓練を受けたプロだ。

 ゲームやマンガだと大抵ひと山いくらのザコ扱いだけど、何の訓練も受けてこなかった凡人が渡り合えるとは思えない。


「お前、兵士をえらく強いもんだと思ってないか?」

「そりゃそうでしょう。訓練を受けているんですから」

「その理屈だとお前も強くなきゃおかしくねえか?」

「はい?」

「お前は二日とはいえ訓練を受けたんだ。なら訓練を受けたお前は訓練を受けていない一般人より強い。お前の理屈だとこうならねえか?」


 確かにそうかもしれない。

 訓練を受けることと強いことはイコールじゃない。

 飲み込みの早さは人それぞれ。訓練以外に自主トレするかしないかじゃあ大違い。単純に訓練を受けた時間の長さだって、人によって違う。


「てことは、俺は入隊したての人と組むんですか」

「ああ。それでもお前より一か月くらい長く訓練を受けてるが、お前のが上背もあるからな。ちょうどいいハンデだろ」


 俺の方が上背がある?

 てことはだいぶ年下じゃないか?

 あまり言いたくないが俺は身長が高い方ではない。あくまでも普通の範囲内だが、四ノ宮と並んだらチビに見えること請け合いだ。

 対してこちらの男たちは総じて長身だ。

 ゴルドルさんほど大きい印象を受ける人は今のところいないが、四ノ宮が埋もれる程度には長身が多い。

 人種的には大柄なんだろう。なのに俺より小さいとなると、数は限られてくる。


「……うし、休憩終了! 各々対戦相手と組め! ウェズリーとシュラットはこっちに来い!」


 やってきたのは、先ほど目に留まった茶髪と金髪の二人だった。


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