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むかしばなし

最初が全部ひらがななのはバグとかではないです。

読み飛ばしても大丈夫だと思います。

 むかしむかしのことです。

 このせかいは いまよりずっとおおくのまほうがありました。

 そらまでとどきそうなたてもの。

 そらをおよぐふね。

 どんなけがやびょうきもなおすまほう。

 なんでもありました。


 けれど、わるいかみさまがいました。

 わるいかみさまはときどきあらわれるとたくさんのまちをほろぼしました。

 たくさんのひとがけがをして すむばしょをなくしました。

 ひとびとは それをしかたないことだとあきらめていました。


 あるひ ひとりのおんなのひとが『みんなをたすけたい』といいました。

 そのきもちは よいかみさまにとどきました。

 よいかみさまは おんなのひとに ちがうせかいから ゆうしゃさまをよぶまほうを さずけたのです。


 おんなのひとはゆうしゃさまをよびました。

 ゆうしゃさまと たくさんのひとびとをたすけるうちに おんなのひとは せいじょさまと よばれるようになりました。

 せいじょさまはゆうしゃさまといっしょに わるいかみさまをたおすための なかまをあつめました。


 みんなで わらっていきていけるせかいにしましょう。

 せいじょさまのことばに せかいじゅうのひとびとが ちからをあわせるようになりました。


 ゆうしゃさまと せいじょさまは せかいじゅうのひとびととちからをあわせて わるいかみさまとたたかいました。


 たたかいはながいあいだつづきました。

 せかいじゅうのひとびとは きずつきながらも ちからをあわせて せいじょさまたちとたたかいました。

 そして とうとう わるいかみさまをたおしたのです。


―――


「……これが初代勇者の伝説と。なんか、勇者より聖女が主人公って感じだな」

「そうだね。これは絵本だからいろいろ省略されてるんだ。この本だと聖女様はすぐに勇者様を呼んでいるみたいだけど、実際に聖女様は勇者様を呼ぶ前からずっと旅をしていたらしいよ」

「へえ。その本もちょっと読んでみたいな。……ちなみにだけどさ、この『わるいかみさま』っていうのはどうなったのか知ってるか?」

「どうなったって?」

「こう、封印されましたとか、滅ぼされました、とか」


 封印だとするとすごく嫌だ。物語における封印というのは解かれるために存在しているのである。


「勇者様が滅ぼして、聖女様が復活しないよう魔法をかけているよ」

「そうか。なら安心だ」


 復活しないよう魔法をかけないと復活しうるという点がものすごく不安だが、まあいいだろう。

 封印ではなく、復活も対策されているなら『わるいかみさま』に出くわすことはなさそうだ。あるな。


「封印されているのは魔王だね」

「えっ」


 絵本の中には魔王なんてひとことだって出てこなかった。敵として現れているのは『わるいかみさま』だけだ。

 今の話のどこから魔王なんて物騒なものが出てくるのか。


「絵本だからここで終わっているけど、まだ続きがあるんだ」


 ウェズリーは目を閉じて語り出す。


 『わるいかみさま』を倒したあとに魔族が裏切り、人族の領土に攻撃を仕掛けたこと。

 魔族を率いたものが魔王と呼ばれたこと。

 『わるいかみさま』との戦いよりはるかに激しい戦いが続いたこと。

 勇者と魔王が衝突したこと。

 人族も魔族の領土に攻め入ったこと。

 度重なる戦闘に人族は疲弊したが、魔族の勢いは衰えず、山ほど人が死んだこと。

 最終的に勇者は魔王と差し違える形で魔法を使い、魔王を滅ぼしたこと。

 その亡骸は封印されたこと。

 戦争により大規模な都市の多くが壊滅。極端に人口が減少したことで文明が後退したこと。


「……ていう感じ。まあ伝説だけどね」

「なるほど。どっちかっていうと『わるいかみさま』より魔王の方が被害出してるのな」

「一説によると、当時の人族の半分が魔族との戦争で死んだらしいよ」

「いやそれヤバいってレベルじゃない」


 世界人口が半減するとか、そりゃあ文明も後退するだろう。むしろわずかでも千年前の技術や遺産が残っているだけこの世界の人々は大したものなのかもしれない。


「……まあ、まあまあ。話を聞く限り魔王も仕留めてはいるらしいし。封印されているのも遺体ってことなら復活するとも考えづらいし」

「心配しすぎだと思うよ」

「だよな。いきなり魔王復活なんてそんな……そんな……こと、起きてるじゃん」


 黒鎧は俺に「魔王を殺せ」と言った。

 生きていなければ殺せない。

 つまり魔王はしっかりばっちり復活しているということじゃないか。

 くそやばい。


「あ、違うよ。最初の魔王は復活してないよ。これまでの何度か魔王を名乗るやつらは現れたけど、最初の魔王ほど強くないから。王様って普通に代替わりするじゃないか。それと同じじゃないかな」

「身分としての魔王ってことか」


 固有名詞ではなく『魔族の王』を示す一般名詞。

 どのみちいない方がいいのは確かだが、世界の半分を滅ぼした魔王に比べれば幾分マシだ。


「それにしてもウェズリー、詳しいな」

「村にあった数少ない本が勇者物語だったんだ。村長の趣味もあって絵本以外もあってさ、挿絵を見てるうちにいろいろ覚えてた」


 ウェズリーは頭をかいた。

 絵描きになるのが夢と言うだけあって、絵が載っている本は食い入るように眺めていたらしい。


「……そうだ、ウェズリーさ、模写が得意だったよな」

「うん。自慢じゃないけど、きちんとした筆と紙があれば本物そっくりに描けるよ」

「そしたらこれ、模写してくれないか? できれば何枚か」


 ケータイの電源を入れる。フォルトから逃げる際に撮った勇者召喚の魔法陣の写真を表示する。


「……なにこれ。色までついて、模写なんてものじゃないじゃないか。これ、ヒサが描いたの? いやでも絵の具もないし。水晶に絵が映ってる……?」

「この道具、もうすぐ使えなくなるんだよ。絵も見れなくなる。だから今のうちに紙に写してもらえないか」

「分かった。任せて。これだけ鮮明なお手本があるならすぐだ。もう覚えたし。その代わりこの道具について詳しく教えて」

「了解。頼むわ」


 ある日の野営。ウェズリーは食い入るようにケータイをのぞき込み、猛烈な勢いで筆を動かしていった。


ハズレ勇者の放浪記に続く。

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