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12.授業

 朝食を食べた後、俺はチファを通じてお姫様に呼び出された。


 俺は使用人たちが使う食堂で朝食を食べた。あいにく他の人はもう食べ終わって仕事に移っていたので交流を深める機会にはならなかったが。

 日本の食事に比べれば粗末なものだったけれど、丁寧に作られたとわかる食事は十分に温かく、おいしかった。


 集合場所は昨日も集まった部屋だ。俺が入るとすでにそこには他の四人がいた。

 全員、お姫様が着ているのと同じような仕立てのいい服を着ている。正装としてはいいのかもしれないが、正直動きづらそうだ。差別待遇で俺だけ安そうな服なのだとしてもあれを着るよりまだマシかもしれない。


「……遅い」


 浅野にぼそっと文句を言われた。

 これでも呼ばれてからすぐに来たんだけど。ずいぶん嫌われているらしい。

 まあいいや。仲良くしたくもないし。


「はいはい、私が悪うござんした」

「――っ!」


 適当に返すとエライ目で睨まれた。気にしないでおこう。

 席順も昨日と同じでいいらしい。空いていた日野さんの隣の席に座る。


「おはよう、村山くん」

「おはよ、日野さん。なんか居心地悪そうだね」

「悪いのは居心地というか、着心地というか。いや、着心地はいいんだけど、汚しそうで怖くていけない。私ももっとラフな格好をしたかったな」


 日野さんは苦笑いしていた。やはり高級な服もいいことばかりではないらしい。

 なんて軽く雑談していると浅野に加えて四ノ宮にも睨まれた。なんなんだお前ら。

 お姫様がこほんと咳払いして注目を集める。


「おはようございます、勇者様方。……とムラヤマ様。このように朝早くから集まっていただいたのは他でもありません。勇者様方に、勇者としての力を付けていただくためです。昨日明らかになったように、あなた方四人の魔力は人間の域を超えているほどです。しかし、それも使えなければ意味がありません」

「なるほど……魔力を使いこなすための訓練が始まるってことかな?」


 おい四ノ宮、そんな子どもでもわかることをドヤ顔で言って恥ずかしくないのか。


「その通りです! さすがユキヤ様!」


 お姫様は手を叩いて四ノ宮をたたえた。こうして四ノ宮は増長していくんだろうなあ。

 そういえば呼び方も変わっている。一日でずいぶん仲良くなったもんだ。さすがイケメン。


「今日から皆様には訓練を受けていただきます。まず午前にはこの国を取り巻く状況と、簡単に歴史と地理について説明いたします。午後からは魔法と剣術の訓練を予定しております」


 そこまで笑顔で言って、お姫様は俺に冷たい視線をくれた。


「……ムラヤマ様はどうします?」


 いかにもついで、といった様子だ。ここまで態度に差を付けられるとかえってすがすがしい。

 これが噂のツンデレってやつですね!

 初めツンツン後半デレ、ではなくイケメンにデレデレしてフツメン以下にツンツンする方の。


「座学も訓練も受けさせてもらいます」


 どうにかして生き残る術は身に着けておきたい。こんなバカが上級貴族なら、いつこの国が亡ぶか知れない。身を守れる程度にはなっておきたいところだ。


「ムラヤマ様は魔力がないので授業を受けても魔法は使えませんよ」

「それでも理屈を覚えときゃなんかの役に立つかもしれないでしょう。心配しなくても黙って話を聞くだけですから邪魔はしませんよ」

「……そうですか」


 暗に邪険にしていたことを指摘されたのが嫌だったのか、苦い物でも食べたような顔をする。


「では、さっそく授業を始めようと思います。ダイム先生、よろしくお願いします」


 お姫様がそう言って退出すると、ひょろ長い白髪交じりのおっさんが入ってきた。




 授業は退屈だった。

 ファンタジー丸出しの歴史はそのものが物語のようで面白いのだが、ダイム教師はこの国、アストリアスやアストリアス出身の英雄がどれだけ活躍したかばかり淡々と語る。愛国心教育基本法でもあるのか。

 教本もアストリアス視点の歴史しか載っていないのでやはり偏っているように思える。話半分に聞いておこう。


 歴史の後は地理の授業が始まった。

 地理は歴史ほど主観が入るものではないので聞く気になれた。

 とはいえ世界地図はシンプルだ。地球と違い人工衛星がないため未踏の地は白紙、他国は自国の地図を公開していないので、その領地の境界もあいまいになっている。

 アストリアスの地図も大まかに形がわかる程度で、地形についてはほとんど載っていない。

 詳細な地図なんて重要機密だ。秘匿するのは当然か。


 この国、アストリアスは島国である。

 南北に長くはないが、小さな島がいくつも属している点では日本に似ている。西側に比較的大きな島があり、東側にはいくつか島が散らばっている。

 俺たちがいるのは西の島の東端付近、大きな島から飛び出した半島にある城塞都市フォルトだ。

 北西側には大蒼海と呼ばれる非常に大きな海がある。果てにたどり着き、戻ってきた船がないので西の海の先はまだ地図に載っていない。

 南西と東には大陸がある。西にいくつかの小国、南西に大国レンディオル。東に問題の魔族大陸がある。

 ……ちょっと待て。この配置だとここは最前線、ないしその近くじゃねえか。


 魔族大陸は俗に魔界と呼ばれている。もとは魔界とアストリアスの間にあった島もアストリアス領だったらしいが、先の戦いで奪われてしまった。今では魔王軍はこの島々を本拠地として西へ侵攻を始めている。


 南西にはいくつか小国があり、そちらとも交易があるとか。


 アストリアスの特産品の説明を受けた後、昼食となった。

 四ノ宮組四人にはたった今説明されたばかりの特産品をふんだんに使った料理が振る舞われた。

 俺はといえば昼食も使用人の人たちと食べた。

 授業ではぼかされていた情報や噂を教えてもらえたので有意義だったと思う。

 ……う、うらやましくなんかないんだからね!

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