102.あとしまつーb
似た話だと似たような描写と成り行きになってしまう……
「……お話は、お済みですか?」
浅野の背を見送っていると、お姫様がこちらに来て口を開いた。
俺はお姫様の方に体を向ける。
そっと長剣の柄に手をかけ、体をひねる勢いのまま――
「ムラヤマ様」
抜き放とうとして、やんわりと止められた。いつのまにかすぐそばに来ていたジアさんに肘を抑えられていた。
お姫様のそばには護衛の騎士であるバスクも控えており、こちらに警戒の視線を向けている。
……これは無理だな。ていうかこれだけ人目があるところでやったら狂人扱い待ったなし。踏みとどまらねば。
剣の柄から手を放し、穏便にお姫様に向き直る。
「ああ、浅野とも話が付いたよ。お姫様は何の用だ? ああ、フォルトの状況の説明か?」
「何の用、ではありません……! 今のやりとりは、ユキヤ様への扱いはなんですか!? わたしくが出ようとした時にあなたが止めなければ、わたくしはユキヤ様を手に入れられたかもしれないのに――っ!」
「手に入れられたかもしれないから、だよ」
言って俺はジアさんとバスクに向けて殺意を込めた錬気を放つ。
同時に腰に提げていた短剣を逆手に引き抜き、お姫様に斬りかかる。
ジアさんは殺気を受けてとっさに自分の身を守った。
バスクは短剣を止めようと俺とお姫様の間に割って入る。
俺は短剣を空中で手放す。バスクの注意が俺と短剣とに分かれ、どちらを止めるか一瞬迷った。
その隙に空いた手でバスクを押しのけお姫様に急接近。つま先で腹を強かに蹴り抜いた。
「ぁッ――!」
声にならない悲鳴をあげ、お姫様は軽く宙に浮き、背中から地面に落ちた。腹を抱えてげふげふとうずくまっている。
これがお姫様ではなくユーフォリアだったならジアさんも身を挺して守ったんだろうが、忠誠を誓ってもいない相手のためにはできなかったようだ。
ジアさんが防御に加わっていたら俺くらい簡単に取り押さえられていた。
つまり、この結果はお姫様の人望のなさが為したもの。
良いザマだ。
「貴様――!」
「そう怒るなよ。殺しちゃいないんだから」
顔を憤怒で真っ赤に染めて剣を抜こうとするバスクに詰め寄り、剣の柄を抑える。
バスクを殺そうと思ったら面倒だが、この距離ならお互いに手出しできない状況に持ち込める。
憎々しげにこちらを睨みながらバスクは剣から手を放す。
俺もバスクから一歩離れる。即座に剣の間合いより内側に入れる距離を維持する。錬気を操り先ほど落とした短剣を回収する。
その間にジアさんに介抱され、へたり込みながらもお姫様は身を起こしていた。
苦悶の表情を浮かべながらも食い殺すような目つきでこちらを睨んでいる。
恐怖は感じない。むしろ地面にうずくまるような姿勢で悔しげな目をしているお姫様を見下すのは気分がいい。頭を踏みつけてぐりぐりしたらどんな顔をするのだろう。
「この、裏切り者……ッ」
「裏切ってないさ。一瞬たりともお前の味方だったことなんてないからな。ていうかまさか、お前の友達になるなんて本気で思ってたの?」
手を組もうとは言ったが友達になるつもりなんて毛頭ない。お姫様が俺の行動に不信感を持ちうることを前提にいろいろ動いていたのだ。
もしも本当の友達になれると思っていたとしたら笑わざるをえない。在り得ないを通り越してもはやギャグだ。
「なぜ、ですか。わたくしたちは同じ痛みを知るもの同士、友人になれると思っていたのに……」
「俺はお前と同じ痛みなんか知らない。似た痛みを知ってるだけだ。それに、裏切ってたって言うなら俺よりお前だろ?」
「わたくしはあなたを裏切ってなんて――」
「じゃあ騙してたって言う方がいいか? 俺を帰らせる目途なんてついてないくせに」
「ッ!?」
言うと、お姫様は目を見開きカッと頬を染める。
その様を見下す。
お姫様の企みは詰めが甘い。細部がおざなりで考えの底が浅いので簡単に見透かせる。
「送還魔法があるのは本当だろう。王都にフォルトのものより上等な魔法陣があるのも確認した。けど、お前はそれを自由に使えない。使えるよう申請を出しただけ。――却下される前提の申請を。違うか」
「先輩、それって……?」
日野さんがお姫様と結んだ契約のことを聞いていたのだろう。坂上が不思議そうにこちらを見る。
その疑問にお答えしよう。といっても簡単な話だ。
「王都にある魔法陣の管理者はお姫様じゃない。たぶん王様か王都の防衛を担う人だ。そんな人たちが魔族の攻撃を受けてる現状で、俺の送還なんてアストリアスに得がないことのために貯めた魔力を使ってくれるはずがないんだよ」
「でも、リコさんとの契約は命をかけたものなんですよね? それをないがしろにするようなこと、できるんですか?」
「ないがしろにはしてないんだ。契約内容はあくまでも『可及的速やかに』で、契約を結んだのがお姫様だからな。お姫様にできることをやっていれば契約違反にならない」
お姫様に魔法陣の使用権がない以上、できることは使用権を持つ人に嘆願することくらいだろう。
嘆願すればお姫様は自分の義務を果たしたことになる。
たとえ使用許可が下りる可能性がなかったとしてもだ。
日野さんとの契約に具体的な期限がないならお姫様が負うのは努力義務に過ぎない。努力すれば結果が伴わなくても契約違反にはならないわけだ。
こうしてお姫様が存命であることが何よりの証拠。だって契約に違反したら死ぬとか言ってたから。
本当に送還のため尽力している可能性はないと見ていい。
もしも俺がお姫様の立場なら日野さんを扱うツールを手放しはしない。お姫様が本当に俺を、切望していた友人と思っていたならなおさらだ。俺やお姫様みたいな人種は、欲していたものが手に入ったらそれを手放したりできない。
「俺が帰りたいってのは知ってるよな? 希望があるみたいに見せて自分の手元に置こうとした。友達になろうなんて言って味方のふりをした、裏切り者のうそつきはお前だろ」
視線をお姫様に戻す。お姫様は歯を食いしばって立ち上がろうとしていた。
「まあ、俺のことよりお前は自分の心配をした方がいいぞ、お姫様」
「何を……」
「今、どういう状況か。教えてやらなきゃ分からない?」
くつくつ笑いながらお姫様に歩み寄る。
俺の剣が届く間合いに入った瞬間にコワい顔したバスクに斬り捨てられそうだったので、その一歩手前くらいまで。
現状というやつを、羞恥や怒りで頭も表情もぐちゃぐちゃになったお姫様に、懇切丁寧に教えてやろう。
「お前が管理者を務めていたフォルトの街は陥落した」
視線をフォルトの方に向ければ今では巨大な氷塊が見えるだけ。防衛拠点としての運用どころか人が立ち入ることすら困難。魔族に奪われたわけではないので最悪とも違うが、街が機能停止したことは間違いない事実。
魔族との戦いの前線であることを承知の上で赴任し、街を守りきれないのでは大失態と言うほかない。
お姫様の権勢は確実に失墜する。加えて結界を解除する一番手軽で確実でローリスクな方法は俺を使うこと。不敬罪とかでとっ捕まってもお姫様のために俺が殺されることはないはず。
「身分を証明するための宝珠をなくした」
四ノ宮に聖剣を渡す式典の時に着けていた宝珠。アレはアストリアス王族それぞれに与えられる特注の逸品で、王族としての身分を証明するものである。
王族の権威の象徴であると同時に、成りすましを予防するための身分証。
大事なものだ。ゆえに城の宝物庫に厳重な封印を施した状態で安置されていた。
ウェズリーがフォルトにたどり着いた時にはフォルト内部に黒鎧が侵入していたという。
黒鎧単体でも街を陥落させうる脅威。手早く逃げる必要があった。
結界の解除方法を知っていても厳重ゆえに解除には時間がかかる。宝珠を持ち出す暇はなかった。
城に残った人の中に宝珠の封印を解く方法を知るものはいない。宝珠は城に置き去りにされていた。
実際にこの目で確認したから間違いない。
「そして、求めていた特別はお前に背を向けて逃げ去った」
四ノ宮はただの役立たずと成り下がって逃げてしまった。
ようやく手に入るはずだった特別は、掴む前に露と消えてしまった。
露と、なんて表現が似合うような去り際だったかは置いておくとして。
お姫様が失ったものを数えるたびに赤くなっていた顔から血の気が引いていく。
功績も、地位も、手に入るはずだった特別も。
お姫様の手の中から零れ落ちていく。
失ったものを数えることは自分が持っていたものを確認することだ。
持っていないものは失えない。失ったということはそれまで気に留めていなくても、持っていたということ。
当たり前だから気付けなかった自分の手の中にあったモノ。それを喪失感が気付かせてくれる。
わざわざ気付きたくないことを。
まざまざと見せつける。
「さあお姫様。たくさんのものを失いながら、お前は何を得た? 手元には何が残っている? 教えてくれよ」
「なに、が……。なにが……?」
ぱくぱくと口を開くお姫様を見て悟る。
今頃お姫様は頭の中で自分が失ったものを、失ってきたものを、俺が知らないものまで数えている。
手元に残っているものを即答できない時点で駄目なのだ。誇れる何かを持たない、俺の同類なのだ。
お姫様は四ノ宮を手に入れられなくなったことで『特別』を手に入れるという最大の目的を達成できなくなった。
自分の力では特別に至れないと悟ったお姫様は他人を自分の特別にしようと考えた。そして見出したのが勇者だったのに。
お姫様は最後の寄る辺を失った。
目的達成を目指す過程で、努力をすることで得たものはあるはずだ。
たとえば勇者を召喚するために学んだ魔法の知識。設備を使うために身に着けた技術。
得た技能はなくならず、お姫様の中に残っている。
だが、当初の目的はもう果たせない。
力を身に着けた目的が消滅する。
目的を、理由をなくした力は意義を失う。
意義を失った力に価値なんてない。
もはやお姫様は何ひとつとして価値あるものを持っていない。
客観的にどれだけ価値があるものを持っていようが、お姫様はそれに気付けない。お姫様の中では無価値になる。
失ったものが大きすぎて、ごっそりとできた空白ばかりに目が行って、強い喪失感がそれ以外を見ることを許さない。
心底から笑みがこみ上げてくる。
――ああ、お姫様。今のお前なら本当に俺を理解できるかもしれないな。
俺はお姫様の心情を理解できる。どうされたらどう感じるか予想できる。
お姫様がいるのは俺も通った場所だからだ。
心折れて諦めた俺は精神の在りようとしてはお姫様より低い場所に。経験としてはお姫様の一歩先にいる。
これで心が折れたなら。俺と似た屈折の仕方をしているお姫様なら本当に俺の理解者になれるかもしれない。
もっとも、俺は理解者なんて求めていないし、お姫様も俺の理解者になりたいなんて思わないだろうが。
「答えは分かりきってるんだけどな。お前の手元には何も残っていない。そうだろう?」
「っ、ッ…………!」
念押しすると怯えたようにお姫様が首を横に振る。
否定したいのだろう。
だが、言葉が出てこない。
何年も何年も、お茶会で聞いたお姫様の身の上話によればおよそ十年も。ずっと特別を追い求めていたのだ。
その結末がなんにもならない空っぽなんて、思いたくないに決まっている。
――でもさ、お姫様。
『何も残ってないんじゃないか』って一度でも思ってしまったら。その疑念はずっとお前の頭から離れないよ。
誰かがお前の持ち物を教えてくれても、自分で何かを見出しても、ふとした瞬間に思い出すんだ。
失った時間のこと。手に入らなかったもののこと。手元から消えてしまったもののこと。
忘れるなんてできやしない。それだけ多くを費やしたんだから。
「物心ついた時からずっと比べられて、自分だけの特別を探してたって言ってたっけ。ほんと、よく頑張ったと思うよ。それも今日で終わりだ」
よく似た痛みを知る人間としては失ったものから意識を逸らしてやるべきなんだろう。
鮮明にしないまま風化させて、違うものを目指せるようにしてやるべきなのだろう。
けれどお姫様は自分の求めるもののために他人を巻き込んだ。
優しくしてもらえると思うべきじゃない。
自分の目的のため、俺や他の人にも痛みを押し付けた。
誰かに頼って何かを得たのなら。得ようとしたのなら。誰かの手により何かを失っても理不尽ではない。
巻き込んだのだから、巻き込んだ相手に奪われることも覚悟しておくべきだ。
俺は、二年ほど前の自分が最も言われたくなかったことを、
「無駄な努力、お疲れ様でした」
笑顔で穏やかに言ってやる。
「 ぅ あ 」
「――姫様ッ!?」
お姫様の顔から表情が失われる。血の気がなくなり肌は真っ白。目も虚ろになる。
呆然としたまま、喉の奥からか細い声を漏らして、動きを止める。足から力が抜けて崩れ落ちそうになったところをバスクが支えた。
俺は最後に一度微笑みかける。
仮にお姫様が立ち直り、新しく何かを得たとしても、この喪失感は忘れないだろう。
勇者なんかを召喚してしまったことを悔いて生きるといい。誰かに微笑みかけられるたびに失ったもののことを思い出せばいい。
当初はお姫様が四ノ宮を手に入れる直前で浅野あたりとくっつけるか、お姫様と親密になった四ノ宮の首を目前で切り落としてやろうかと。
あるいは送還される瞬間にお姫様をとっ捕まえてお姫様にとっての異世界に拉致ってやるのもいいかもしれないと。
お姫様が四ノ宮を口説くのが早ければ前者を。送還の準備が整うのが先であれば後者を採用しようと考えていた。
方法は変われどコンセプトは同じ。積み重ねた全てを台無しにすること。
思惑とは違ったが、これも悪くない。
お姫様のひどい面を拝んで、輝かしいはずだった前途に泥水をぶちまけて、それなりに満足した。
ここらが引き際だ。あまり粘っているとまた面倒事に巻き込まれかねない。
「貴様――――!」
お姫様をジアさんに預けたバスクが抜剣して向かってくる。
戦うつもりはない。さっとかわして距離をとる。
「よくも、姫様に、なんということを!」
「ただ事実を言っただけだろ?」
「ぬけぬけと! 事実であるものか! 姫様は全てを失ってなどいない!」
「はは、そうだな。宝珠が無くても身分を証明する方法はあるかもしれないな。それを持って城に帰って、どこかの貴族に贈られ弄ばれる人生を歩むといい!」
「姫様を愚弄するか!」
お茶会でお姫様の身の上話を聞くこともあった。
お姫様は一国の姫だ。恋愛結婚なんて当然許されず、功績をあげた貴族に下賜されるか、王族が縁を結びたい貴族や他国の王族に嫁ぐのが当たり前。
だがお姫様の姉妹は違う。
姉のユーフォリアはその能力の高さゆえ王家が手放さない。結婚するにしてもユーフォリアが気に入った婿を取ることが決まっていた。さまざまな条件を付けられながらも出奔を許されたという。無理に押し込めておく方が危険だと判断されたかららしい。
妹もまた神の声を聞くとかいう稀有な能力を持っており王家に所属し続けることになる。
何ら特別な事情を持たない次女、お姫様だけが普通の貴族の娘として扱われることになっていたのだ。
あるいはそれが嫌で特別を求めたのかもしれない。
「愚弄も何も、貴族の娘はそれが当たり前なんだろ? じゃあ特別じゃないそいつは当たり前に生きるのが当たり前だ」
「違う、姫様は特別な――!」
激昂するバスク。どう逃げようか考えながら適当に返していると、
「……うるさい」
小さな声が聞こえた。
中身のない、薄いガラス瓶を指で弾いたような声はじわりと響き、周囲は静まり返る。
声の主はお姫様だった。
「姫様、だいじょう――」
「うるさい」
慌てて駆け寄るバスクにお姫様はにべもなく返す。
力のない声。空っぽでよく通る声。かったるそうな声。
その虚ろな調子に危機感を覚えたのか、バスクはかしずき必死に声をかける。
「ムラヤマタカヒサの言うことを気にする必要はありません! 姫様は特別です、私は姫様こそ――!」
「……うるさいって、言ってるでしょ」
お姫様が声を絞り出した。
ぎり、と歯を食いしばりぶっ殺すような視線をバスクに送る。
さっきの「うるさい」は俺に向けられたものでなかったらしい。
「お前はなんでも持っている、特別な人間じゃない……。そんなお前に特別と言われたところで、嫌味にしか聞こえないのよ」
お姫様から鬱屈した感情がどろりとこぼれる。
空っぽなのに、底には重く濁った何かがある。
ああ、なんという修羅場。
バスクもまた、お姫様のストレッサ―だったのか。
「嫌味など!? 私は努力を重ねるあなたこそ尊いと、いつも」
「努力しなければ何もできないから努力していただけよ。……努力したって何にもならなかったけれど」
「そんなことはありません! 努力する姿に惹かれた者もおります!」
うわあ、やめておけ。
バスクに言ってやりたくなる。それはダメ、絶対ダメ。このままの方が面白そうだから言ってやらないけど。
今、お姫様が『特別』だと思っている人間は声をかけるべきじゃない。それもお姫様を褒めるようなことなんて論外だ。
嫌味どころの騒ぎじゃない。心に響くどころか、傷口に塩というか、死人に鞭というか、ああ、なんかもう最悪だ。
「嘘」
「嘘ではありません! 私は、姫様が特別に見えたからこそお仕えしたいと思ったのです!」
かしずくバスクには見えないのだろうが、今、お姫様の雰囲気が変わった。
どこが変わった、とは言えない。だが、明確に変化した。
バスクの言葉で立ち直ったわけではない。むしろ真逆だ。
「バスク・ゼルネーゼ!」
察したジアさんが鋭く制止するが、もう遅い。
「黙れ、黙れ、うるさい、だまれ――っ」
「姫、様?」
「お前なんか、いなくなれ」
怒鳴ったわけじゃない。
大きな声じゃない。
だが、空っぽな声は恐ろしく響いた。
顔をあげたバスクは、完全無欠の拒絶を示すお姫様と対面する。
「いらない、もう、ぜんぶ、なにも、いやだ」
ぼそぼそと呟きながらお姫様はバスクに背を向けた。ふらふら頼りない足取りで歩き始める。
目指す先が決まっているようには見えない。
ただ歩いているだけ。どこにも進んでいない。
全身で拒絶を表すお姫様にはバスクも、ジアさんも近づけない。
ふと、お姫様の足が地面に落ちていた枝を踏む。
それなりに太い枝で、踏んだお姫様はバランスを崩して転んでしまった。
「姫様!」
ジアさんが駆け寄り、手を差し伸べる。
お姫様はその手を取らなかった。
倒れ伏したまま、かすかに身を震わせていた。
そんなお姫様に注目が集まったところで俺はお姫様に背を向ける。
頃合いだ。ここに長居してもいいことはない。
ふり返った時にお姫様が踏んだ木の枝が俺の足元にあることに気付いた。
踏んだ拍子にこちらに飛んできたのだろう。
ちょうど邪魔な位置にあったので、力いっぱい踏みつけた。
虫食いや乾燥でもろくなっていたらしく、枝はあっけなく潰れて割れた。
あと1話+エピローグ……でいいと思います。