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EX.第二戦終了後

 貴久を背負ったレナードを安全圏に連れて行ったゴルドルはすぐに戦場に戻った。

 十分に士気が高く、相手は烏合の衆。残してきた兵士の中には指揮をとれる者もいる。さほど焦る必要はない。

 とはいえあの黒鎧のように強力な魔族はいる。油断はできなかった。

 愛馬に早足で駆けさせ部隊に合流し、魔族を蹴散らすことしばし。目に見えて魔族の数は減っていった。


「魔族が退いていく……?」


 ひとりの兵士が呟いた。

 声につられ周囲の魔族を一掃したゴルドルが東をみやると、逃げる魔族がちらほら。考えなしに突撃してきた魔族はあらかた倒し終え、理性がある魔族は撤退しているらしい。


「……勝った、か?」


 最前線で何度か黄金の光が瞬いた。それを最後に戦場に静寂が訪れた。

 それを見たゴルドルは一息つき、腹に力を入れ、剣を掲げて叫ぶ。


「――おれたちの、勝ちだ!」


 端的な言葉が戦場に響く。

 それに呼応した兵士たちも剣を掲げ、鬨の声をあげる。

 歓喜の声は地鳴りのごとく。びりびりと大地を揺るがす。

 戦勝ムードが広がり、各々負傷兵の運搬などに取り掛かったことを確認し、ゴルドルは馬を駆けさせる。

 目的地は聖剣の勇者様が立つ最前線だ。


「よう、シノミヤ様。調子はどうだ?」

「……問題ない。それよりも早く追撃をかけないと。勝った気分に浸るのは早いんじゃないか」

「いいや、追撃はしない」

「っ! なんで! 今なら魔王軍を根絶やしにできるかもしれないのに!」

「そうかもしれんが、手負いの敵と侮るなよ? 下手に追い詰めれば死を覚悟で戦うやつも出てくるぞ。死兵は厄介だ。下手に追い打ちをかければ少なくない犠牲を出すことになる。何より、こちらにも疲労が溜まっている。お前さんだって今は興奮して疲れを感じないかもしれんが、初めての戦闘なんだろう? 確実に疲れは溜まっている。無理をして返り討ちにあったら元も子もない」


 もしも追い打ちをかけたとして。黒鎧の魔族は健在である。もしも征也がかち合ってしまった場合、確実に死ぬ。

 そうでなくともフォルトにはそう遠くないうちに中央から援軍が来るのだ。今は防戦に徹し、援軍が到着した後に攻撃を始めた方が効果的。


「……分かった」


 いかにも不承不承といったていで征也はうなずき踵を返した。その背を夏輝が追う。

 放っておいたら逃げる魔族に攻撃を仕掛けていたかもしれない。やはり止めて正解だったか、とゴルドルは胸をなでおろす。


「……と、あとはヨギか」


 そういえば見かけていなかった友人を探す。

 殺そうとしたって殺せるやつじゃない。さほど心配せずにゆっくりと馬を歩かせる。

 とっくに本陣まで戻っているかもしれない。ざっと探して見つからなければ本陣に戻ろう。

 そう考えているうちにとぼとぼ歩く妙齢の女性を見つけた。


「……ヨギ?」

「……ああ、ゴルドル」


 珍しい様子に本当に本人か不安になりながらも声をかける。

 振り向いた女性は確かにヨギだった。服はあちこちほつれているが、傷らしい傷はひとつもない。

 しかし表情が優れない。妙に疲れた顔をしている。


「お前がそんなに疲れてるなんて珍しいな。黒鎧の魔族にも逃げられてたしよ、変な魔族にでも捕まったか?」

「……とびきり鬱陶しいのに。逃げられない空間を作って、その中で防御を固めて圧殺していく戦法ね。異様に固くて仕留めるのに手間取ったわ。詳しくは後で話すから」

「でも、仕留めたんだろ? ならさほど警戒しなくてよくないか」

「確かに仕留めたんだけどね。バラバラにしたんだけどね。なんだか殺せた気がしないのよ。もともと白骨死体みたいなやつだったし」

「……それまた珍妙な敵と当たったもんだな」

「ええ、本当に珍妙よ。それよりゴルドル、どうして黒鎧に逃げられたことをあんたが知ってたの? まさか、戦ったの?」

「……いや。会ったが戦っていない。戦ったのはタカヒサだ」

「!? なんて無茶を」


 気は乗らないものの、隠してどうにかなることではない。

 ゴルドルは自分が見聞きしたことを隠さず伝える。

 ヨギも、タカヒサが黒鎧と戦ったと聞いた時から感づいてはいたのか、驚いた様子はなかった。


「……そう、タカヒサは殺されたのね」

「すまん。もうちょい早ければ助けられたかもしれんのに」

「いいわよ。どうせあんたが割って入ったところで死人が増えただけだもの。それに、一番悔しがってるのはあんたでしょ? 前から勇者を前線に出すのは反対って言ってじゃない」


 ゴルドルは勇者召喚そのものに反対していた。召喚された勇者を見てからはなおさら、彼らを戦わせるべきじゃないと考えていた。

 呼び出されたのは子供だ。それも殺し合いなんて一度もしたことがないような。

 戦わせるべきではない。死なせず、もとの世界に送り返すべきだと考えていた。

 そのゴルドルが一番目をかけていた勇者が死んだ。

 悔しさは察して余りある。


「……すまん。おれと同じくらい悔しがってるお前にそんなことを言わせたことも」

「……うっさい」


 ヨギは半べそかいていた。

 悔しいのは同じ。一か月強の付き合いしかなかったとはいえ、一か月の間はさんざん顔を合わせた相手。それも初めての弟子だ。

 もっといろいろ教えておけば貴久は死なずに済んだかもしれない。そう考えてしまうとやるせない気持ちが溢れてきた。

 とはいえ、ヨギもゴルドルも普通の人より死に近い場所で生きてきた人間である。一度深呼吸して気分を切り替えた。

 そんな二人でも、あるいはそんな二人だからこそ。フォルトに戻った後にウェズリーから聞く知らせに驚愕することになるのだが。


「とりあえずあたしが見かけた厄介そうな魔族の情報をまとめて渡すわ。そっちにも情報があったら頂戴」

「分かった。だがまあ、今日のところは休んどけ。お前も疲れてるだろ」

「……そうね。明日も魔族が来るってわけじゃないし。何かつまんで、すぐ寝るわ」

「おう、そうしとけ」


 自分より弱い相手を蹴散らしていたゴルドルと違い、ヨギは実力伯仲の黒鎧と長時間戦い、相性の悪い白骨騎士と戦い続けていたのだ。疲労度は高い。

 二人はさっさとフォルトまで引き返していった。


 その背には多くの遺体があった。

 フォルトの兵士のものがある。魔族のものもある。

 兵士の遺体は体力に余裕のある兵士が運んでいく。個人を識別できないほどにやられた遺体からは遺品だけでも持っていく。魔族の遺体はひとところにまとめられ、伝染病予防のために火魔法で燃やされた。

 しかし。

 一番多く死んだはずの、黒い木偶人形のような魔族の死体は、ただのひとつも残っていなかった。


あとでもう一話くらい投稿するかもしれません。

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