幻
「ねえねえ、どこにも行かないでね」
「うん」
不安な彼女を慰めるのが僕の役目。僕だけが出来ること。
「…明日は何して遊ぶの?」
「うーん、そうだなぁー」
泣き笑いみたいな表情になった彼女が、血色の良くない唇から僕との計画をこぼす。
「まずはー、一緒に起きるの」
綺麗な指が折り曲げられる。
「次に朝ごはんを一緒に食べて」
もう一本。
「一緒に寝っころがって」
さらにもう一本。
「手を繋いで、お昼寝して」
彼女の頬を涙がつたう。そんなことは気にも止めず、にこっと笑った。
「ずっと一緒にいようね」
「そうだね、ずっと一緒だ」
彼女が望むのなら、僕はどんなことでもする。それが僕のしたいこと。彼女が幸せになるなら何だってしよう。皆はそれじゃ駄目だと言うけど、そうでなければ生きてる意味なんてないんだ。
嘘じゃないよ。
「約束ね…………」
「…うん」
安心して眠ってしまった彼女。その姿を見て、僕も安心する。この子はまだ僕のこと必要としてくれているんだな。
僕は嬉しいのだ。彼女は僕を好きになってくれた。
ふたりきりの、ふたりだけの世界は良くない。わかってるよ。
でも、もう、戻れない。
僕と彼女は一生一緒なのだ……。