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8.学園祭について

 ただいまオレの目の前には学園の制服を着て、頭にこぶを作り正座している一人の女がいる。その女は長い黒髪に、紫の瞳。メリアやキリエやマートルやアキハとは比べ物にならない程の大きさの二つの果実を持っている。で、何故このような状況になっているのかと言うと、今回は解説しようと思う。

 まず、目を覚ましたオレが上を見た際、張り付いていたハーベストを発見する。それに驚いたハーベストは一瞬体の緊張が解けてしまい、落下してくる。眠っているフーリアを優しく且つ迅速且つ起こさない様に抱えベッドから飛び退き、そのベッドにハーベストが落下する。その時ついでにベッドも動かして置けば良かったと思ったが、気付くのが遅かった為それは出来なかった。

 その後部屋の窓を開け放ち、恐らくそこまでの痛みは無いだろうが、生物と言うのは生存本能からか打った部分などを無意識的にさすったりしてしまい、例に漏れず額などをさすっているハーベストの首根っこを掴み、

『あ、あれ? ちょっと、レストくん? 一体何を――』

窓から思いっきりぶん投げた。

 筈だったのだが、ハーベストは投げた数秒後に壁をよじ登って来ていた。

 その時「もしやコイツは人間を止めているのではないだろうか?」と思ったが、細かい事は気にせずスルーすることにした。

『危ないじゃない! 死んだらどうするのよ!?』

 ぶん投げた窓から再び部屋に侵入してきたハーベスト。とりあえず、また投げても結果は同じだろうと予測出来た為、制裁として頭にげんこつを一発入れながら言った。

『いつも隙あらば殺そうとしているのは、どこのドイツだっけな?』

 頭を抑えて呻き声を上げる暗殺者にそう言えば、アハハ……と乾いた笑い声を上げ、目を反らした。

 その後正座させ今に至る。

 とりあえず、フーリアが目を覚まさなくて良かった。こんだけ気持ちよさそうに寝ているからな、起こしてしまうと罪悪感が生まれることは容易に想像出来る。

「おい、ドジっ娘暗殺者」

「ん?」

 ベッドを整え、フーリアをまた寝かせながら後ろで正座をしている暗殺者に声を掛けると、短い返事が返ってくる。ベッドに腰掛け、見下ろす形となり、やっとまともに視線が合った所で話を始められる状況になった。

「何の用で来たんだ?」

「キリエに頼まれのよ。『同じ実行委員だからレストを連れてきて』って……あたしも最近レストを殺りたいと思ってたから、丁度良いって思ってね、来たの」

「まあ、そんなことだろうとは思ったが……他の実行委員はキリエと誰がいるんだ?」

 恐らく理事長室前でキリエと鉢合わせしたのも、実行委員絡みの事でメリアに話しがあったからだろう。メリアと個人的にも仲の良いアイツのことだからな、オレが実行委員になることは、多分オレより先に知っていた筈だ。

 逃げて正解だったな。

「あたしと、あんたのクラスの〈サリカ・オルディス〉。この四人」

 サリカ・オルディス? 誰だったか……?

 そんな奴がいたかどうか大してクラスの事については使っていない脳を使い、思い出そうとする。数分悩んだ所で思い出すことを放棄しようと思った所で、思い出した。あるよな、思い出したい時に思い出せないのにどうでも良い時に思い出すこと。

 サリカ・オルディスは、この街の領主、オルディス家の一人娘で、確かに同じクラスにいた。前の方にいるから、殆ど前を見ないオレの視界に彼女が入ることはなく、容姿も殆ど覚えていないが、亜麻色の髪をしていた事はなんとなく覚えている。

 まあ、それだけで、関わりなんて全く無いがな。

「たった四人で大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。キリエもその娘も人気あるから勝手に誰かが手伝ってくれるし、既にキリエには全校生徒の約三割が付いてるから。正座崩して良い?」

「だめだ。にしても、三割か……全校生徒が二千人くらいだから、何人くらいだ? まあ、いいか」

 細かい計算は面倒だから途中で止めた。

「そろそろ足の感覚無くなってきたよ……それはそうと、レストは大会には出るの? 出たら間違いなく優勝するだろうけど。ていうか出てくれると、騒ぎに乗じて殺りやすいから出てくれると嬉しい」

 大会と言うのは、学園祭二日目に行われる自由参加の物だ。毎年多くの生徒が参加し大いに賑わい、学園祭一の目玉イベントとして有名ではあるが、毎年優勝するのが決まって無名クラスの誰かの為、殆どの者は優勝を諦めている。そして優勝した無名クラスの誰かは何かとソレを辺りに振りまくと言う何とも迷惑なオマケが付く。

 そんな大会に、目の暗殺者はオレに出場しろと言っている訳だ。

「ンな素直に言われてもオレは出ないし、お前に殺されるつもりもないし、なにより元から出るつもりはない。つうか、お前に殺された奴らは余程間抜けなのか?」

「そんな訳ないでしょ? これでも結構有名なんだよ、あたしは? 『黒き執行人』なんて呼ばれる程度には」

「うん、別にどうでも良い」

「酷くない!?」

「うるせえ、フーリアが起きるだろ。その口塞ぐぞ?」

「ぇ――?」

 言うとハーベストは何故か顔を赤くして静かになったので、これからの事について考えることにする。赤くなったことについては気にしない。

「あ、正座解いて良いぞ?」

 それだけ言って再び考えに思考を持って行こうとしたが、良く考えたら得に考えることが無いことに気付き、フーリアの頭を撫でることにした。うん、癒される。

 さっきはハーベストを投げ飛ばすことに意識が行っていて気付かなかったが、眠ってからあまり時間は経っていなかったらしく空はまだ明るい。

 そういや、アキハはどこ行ったんだ?

 寝る前にベッドで本を読んでいたアキハは、今はいない。

 さっきの本も見る限りではどこにも無いから、別の場所で呼んでいるのか、もしくは飲み物が欲しくなってリビングに行こうと思い、移動中も読みたいからそのままリビングに居座って呼んでいるという可能性もある。というかその可能性が非常に大きい気がする。

「おい暗殺者。アキハ、見なかったか?」

「…………え? あ、何?」

 なにやらぶつぶつ言っていた暗殺者に聞くと、どうやら独り言に夢中になっていたらしく(自分で言っといてなんだが、独り言に夢中て何だ?)二拍程置いて反応を示した。もう一度聞くと、まず「アキハって誰のこと?」と聞かれた。簡単に容姿を説明する。

「その娘なら、あたしが入った時リビングで本読んでたけど? 一応『お邪魔します』って言ったけど、凄い集中力だったわ。全然気付いてなかったもの」

 やっぱりか……。まあ、暫くすれば来るだろう。

「話しは戻るが、お前は大会に出ないのか? そうすれば、オレと当たって殺す機会も多くなるし、他の要人だって殺せるぞ? 馬鹿なこと考える奴はいくらでもいるからな」

「レスト以外の奴と戦ってもつまんない。レストを殺すまでは誰も殺さない。レストを殺すことがあたしの生きる意味。略して『たった今できたあたしの三R』。だからこの場でらせて?」

「そんな良い笑顔で言われるとつい承諾しそうだな。だが断る」

 ハーベストの笑顔は、はちきれんばかりに輝いていた。容姿はかなり整っているからな……無名クラスではキリエと並んでトップを維持しているし、一部の女子からは熱烈な支持を受けている。

 なんと言っていたか……確か〈お姉様〉と言われていた気がする。

 コイツのどこにそう呼ぶ要素があるのか分からないな。コイツはどっちかと言うと、姉気質ではなく妹気質だ。二人っきりの時はよく甘えてくるし。その間に短剣を刺すなりなんなりすれば良かった物を、と何度思ったことか。そして、最後には決まってオレの腕の中で夢の世界に旅立ち、目を覚ますと「今度会ったら殺るからね! 絶対だからね!」と言って去っていく。殺られるのはいつになることやら。

 容姿からそう言う風に呼ばれているのかも知れないが、それは結局〈外側〉でしか無い。

「人を見た目で判断するな」とは良く言った物だ、ファンの奴らもコイツの内側を全く見ようとしていないのだろう。

 まあ、他ならぬ本人が特に気にしていないみたいだから、オレが気にすることでもないんだけどな。

「え~……良いじゃん、別に殺らせてくれても。まだ魂の持ち数は十分あるでしょ?」

「あってもお前に殺られてたまるか」

「ケチ」

「ケチじゃねえ」と言い返そうとした時。

「ん……ふあ…………ごしゅじん?」

 声が聞こえ、振り向くと、まだ眠そうな目をこしこしと擦りながら、少しだけ上体を起こしぼんやりとした目でオレを見ているフーリアがいた。耳が少し垂れていていつもより愛らしく見える。

 今の欠伸で生じたのであろう涙が、目の端に堪っており、窓から差し込む光を受けて煌めくその様は綺麗の一言に尽きるな。

「悪い、起こしたか?」

「ううん……」

 ベッドの上にぺたんと座り、すこしぽぉ~っとした後もぞもぞと動き、腰掛けているオレの膝に到達した所で両腕を前に伸ばしぺたと倒れ込み動かなくなった。どうやらまた眠ったらしい。

「そう言えば、その娘は?」

「この前から一緒に住んでるんだ。名前は『フーリア』。明日から学園に通うことになるから、もしオレがコイツの側に居られない時は頼む」

 頭をそっと撫でながら言うと、さっき崩して良いと言ったにも関わらずまだ正座を続けているハーベストは一つ頷いた。

「それは構わないわ。でも、一週間後には学園祭の準備が始まる訳だし、色々危ないんじゃない?」

「問題はそこだよなぁ……メリアに頼もうにも、理事長だから忙しいし……」

「他に頼れそうな人はいないの?」

「他にね……」

 はて、そんな奴いただろうか?

 ハーベストの問いに、オレは暫く頭を悩ませ、やがて一人の人物が浮かび上がった。


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