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3.全身青タイツ

 

 青い体に棍棒を持っている巨人ギガンテスの雄叫びが大広間に響く。それは空気をビリビリと震えさせ、肌でも感じられる程のものだった。

「ちょっと……なんで、こんなに大きくなってるの?」

 オレは前のサイズを知らないから基準が分からないが、確かにギガンテスはでかい。洞窟の天井まで二十㍍程あるが、目測で十五㍍は下らないだろう。頭の角がもう少し長かったら届きそうだ。

 腰を抜かしているマートルに聞くと、以前戦った時は三㍍程しかなかったらしい。

「でかくなりすぎだろ……。マートル、スコープ、できるか?」

「う、うん……やってみる」

 動く腕を使って、なんとかカードを取り出したマートルは、それをギガンテスに向けた。

 ギルドカードには、魔物のランクを計測する機能が備わっており、それは「スコープ」と呼ばれている。まあ、余程強大な魔物にでも遭遇しない限り使うことは無い機能だが、こういう時は役に立つ。

「…………うそ」

 ポツリと、この距離でも聞こえるか聞こえないかと言うほどの小さな声でマートルが呟いた。

「『測定……不能。推定Lv・不明』」

「……マートル、それは記録しておけよ?」

 呆然と呟かれたその内容。マートルの表情を見る限り嘘などは付いていないだろう。そもそも、そんなことをしても無意味だが……。

「う、うん。『レポート』」

 まだ信じられないと言った様子だが、言われたことは理解しているらしく今のデータを記録した。

 それを確認したオレは理事長室に繋がる空間を開き、マートルの首根っこを掴んでそこに放り込んだ。何か聞こえたが構っている暇は無い。

「ゴァアアアアアアアァァアアア!!」

「うるせえな……吠えてんじゃねえよ、全身青タイツが」

 普段は大して気にしない周りの言葉でも、明らかに自分に向けて放たれた言葉の中で一番反応するのは悪口や陰口。もちろん、同じ生物である以上、この青タイツも同じ様で、まるで……いや、間違いなく今気付いたのだろう。オレを上空から見下ろした。

 その目はまるで「いたのか、小僧? 小さすぎて全く気付かんかったわ」とでも言っている様で……あれだ、自分で言っておいて何だがな?


 まあ、要するに。



「――スッゲー、ムカツク」



 正宗と「鬼殺し」を空間から取り出して装備し、未だ何もせずオレを見下ろしている青タイツの眼前に跳躍する。

「ゴア!?」

「ナメンな!」

 叫ぶと同時に、二本を同時に抜刀することで顔に斜め十字の傷を付けると、血を吹き出しながら若干後退し、右手で顔を押さえ、黄色い目でオレを睨んできた。

「ハッ! でかいのは見かけ倒しか? この全身青タイツが」

 風の魔術で空中に足場を作りその上に立ちながら言うと、余計怒りが増したのか棍棒を横凪に振るってきた。跳躍し、体を捻ってそれを躱すが、やはり棍棒もかなりの大きさを持っている為、その風圧もかなりの物だった。吹き飛ばされそうになるのを風で和らげる。

 そして、青タイツの左腕を見ると、もう一度なぎ払いを行うつもりの様で腕が戻ってきていた。

 どこまで効果があるか分からないが、幾分はマシだろうと思い、バリアとその上にリフレクションを掛け正宗と鬼殺しを交差させて防御の姿勢を取る。それが終わると同時に棍棒が直撃する。

「ぐ……!」

 ピシと棍棒に小さなヒビが入る音が聞こえただけで、なんとか二人は無事だったが、オレは吹き飛ばされ岩壁に背中から激突した。バリアが一瞬解けるのが早かったら、やばかったな……。どうやら、でかいのは見かけ倒しでは無いようだ。

 さてと、どうしたもんかな? 完全に防ぐことは出来そうにないし……まずは棍棒を破壊するか。

 ヒールを掛けながら考えを纏め、巨体に似合わぬ速度で棍棒を横に構えながら接近してくる青タイツ。どうやらこのまま岩壁と棍棒でオレをサンドウィッチにするつもりらしい。と、のんびり考えてる場合じゃないな。

「よっと」

 足を一度上げ、振り下ろし、生じた反動を使って壁から抜け出し、丁度振られた棍棒に足をかけ跳躍する。

 後ろで壁が大破する音が聞こえた。

「とりあえず、アレだ。さっきのお返しはしておく」

 尤も、青タイツにとってはオレに攻撃されたことへのお返しだったんだろうが、ンなこと知るか。

戦い終わるのはどっちかが倒れた時だ。

 なんて持論を頭ン中で言いながら、魔力を込めた正宗を左側の角に向けて振ると、特に抵抗を感じること無く斬ることが出来た。

 落下地点に空間を開き、そこに角が入るのを確認し、作った足場を使って跳躍し距離を取る。

 微妙にバランスが崩れたことで、少々違和感を感じるのか、青タイツは棍棒を持っていない方の手を頭に持って行き、角がないことに気付くと

「――グゥウオオオオオオオオオオオオオオ!!」

と、盛大な雄叫びを上げた。

 最初の雄叫びもそうだったが、今度のは洞窟を抜けて外まで響きそうだな。とりあえず耳は塞いでおいたが、もう空気がビリビリ震えていて大変だ。

「レストって、うるさい! なにこれ!?」

 雄叫びが収まるを待っていると、隣に空間の裂け目が生じそこから我等が理事長が出て来た。のは良いが、あまりのうるささに耳を塞ぎすぐに引っ込んだ。

 何しに来たんだ? アンタ。

「と、終わったな……おー」

 正面を見ると、青タイツの全身に何か炎の様な物が見えた。それは「メラメラ」どころか「ゴオオオオ!」という効果音が似合いそうな程に燃え盛っている。

 ふむ、角はお気に入りだったと見た。スマンな、青タイツ。角は責任を持って見事な武器に加工するとしよう。

「ゴアアア!」

「あぶね」

 いつの間にか接近していた青タイツが、雄叫びを上げながら棍棒を振り下ろし、つい今し方までオレが立っていた地点は見事に抉られ吹き飛ばされた。うん、喰らったら終わりだな。気を付けよう。

「さて、もう一本も貰うとしよう」

 良い具合に屈んだ体勢になってくれた青タイツの頭部に向けて跳躍し、今度は鬼殺しに魔力を込めてもう一本の角を斬り、同じように空間に収め着地する。振り向いた青タイツの目には、明らかな殺意と憤怒が込められており、胆力の弱い奴ならそれだけで腰を抜かしたかも知れん。

 つうことは、マートルがこの目で見られたら気絶するってことだな。

 棍棒が振り下ろされ、またしても地面が抉られる。めり込んだ棍棒を駆け上がり、勢いを殺さずに顎を蹴り抜く。

「ゴガッ!」

 作った足場に、振り上げた足を振り下ろし更に跳び、体を捻って額の上空に出た所でそこに踵落としを決めると、青タイツは後頭部から地面にめり込んだ。その顔面に重力魔法を自身に掛け、落下速度を倍以上にした膝蹴りで駄目押しする。

「ゴア……」

 着地して青タイツを見ると、暫くぴくぴくとしていたが、やがて止まった。気絶したみたいだな。

「とりあえず、暫くダンジョンに誰も入れない様にしないとな……あいつらが聞くことは無いだろうが、まあ、関係ないしな。じゃあな、青タイツ? 暫く眠ってろ」

 それだけ言い残して、オレは理事長室に帰った。

 朝から色々あって疲れたオレは、着いて直ぐにソファで寝た。

 なんか聞こえたが無視だ無視。



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