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2.試練の洞窟


 少女の名は〈ユイ・アキハ〉と言うそうだ。何でも、五十年前にメリアによって「チキュウ」とか言う異世界から東洋を根城にしていた魔王を倒す為に召喚されたらしい。顔は見えないから分からないが、本人が言うには五十年前から姿は変わっていないらしく、それはメリアが面白半分ふざけ半分で与えた力の中に、不老超長寿という能力があるかららしい。

 なにやってんだアイツ……まあ、いいか。

 何にせよ、その力の影響で、コイツは殆ど不死に近い存在らしい。他にも、なんか色々力を貰った様で、その力とチキュウにいた頃から剣術を学んでいたことにより、道中一切傷を負わずに魔王を倒したとかなんとか(実際今も襲ってくる魔獣達を一撃で斬り伏せているしな)。んで、東洋、ジパングにいるのはもう飽きたから海底を渡ってきたらしい。

 徒歩で。

「よく息が続いたな?」

「創造神から貰った力の中に、どんな環境でもいつもと同じように動ける力があった。それのお陰」

「成る程、そりゃ便利だ。アイツにしちゃ、少しはマシだな」

 そう言うと、アキハは足を止めて振り向きながら「アイツ?」と言ってきた。

「ああ。その創造神、学園の理事長してるからな」

「神様なのに?」

「ああ。と、そういや厄介な奴が来てたんだったな……」

「誰が厄介よ。いいから、大人しく学校に来なさい……って、その子は?」

 上から振ってきたキリエは、綺麗に着地すると立ち上がりながらオレに言い、アキハを見て尋ねてきた。

 とりあえず聞いた話をそのまま伝えると、キリエはどうにも信じた様子は無く「訳の分からないこと言ってないで、早く行くわよ」と言ってきた。

「待てって、良く見ろ。アキハも制服着てるだろ? 事情は知らんが、こいつも学園に行くみたいなんだ」

 そこでキリエはやっとアキハが学園の制服を着ていることに気付いたらしく、小さく声を上げた。



 銀竜に会わず森を抜け学園に着き、理事長室に入ると同時にメリアの手刀が振り下ろされたが、それを避けると、不満なのか腕を振り回しながら文句を言ってきた。左手で頭を抑えながら室内を見回すと、珍しく綺麗に整理されていた。

「…………」

 と思ったが、どうもオレ達が来ることが分かっていた様で、無理矢理クローゼットに詰め込んだらしい。隙間から少し出ている。

 この学園は規模が大きく、外装・内装共に白を基調としているからなのか、上等な学校として見られがちだが、そうでないことはオルディスに居る者なら皆知っている。単に理事長を務めるコイツが「この色が良いからこれで造る」と、駄々を捏ねただけだ。

 まあ、そんなことはどうでも良いが……。

「久しぶり」

「「え?」」

 不意に呟かれたアキハの言葉に、メリアとキリエが同時に疑問の声を洩らした。

 暴れるのを止めたメリアの頭から手を離し、目でどういうことか尋ねてくるメリアに説明しようとした所で、アキハがローブを取った。

 肩より少しした辺りまで伸びた黒い髪に、同色の瞳。オレも黒髪だが、瞳は紅だ。黒と言うのは初めて見た。

 まあ、森の中でチキュウについて少し聞いた話では、その世界の人間にとって黒は珍しい、等ということはなく至極一般的なのだそうだ。って、どうでもいいな。

「じゃ、オレは教室に行くわ。会長もさっさと授業に戻れよ?」

 それだけ言って、部屋を出るとキリエの「あ、待ちなさいレスト!」というキリエの声と「こら、レスト! ちゃんと説明しなさい!」というメリアの声が聞こえたが、無視して自分の教室である「普通科・一年二組」に向かい、キリエにまた何か言われる前に中に逃亡した。

「遅れてすんませーん」

 一応謝罪しながら自分の席である、窓際一番後ろの席に向かう短い時間でクラス中の視線を浴びたが、気にせず席に着き、一応ペンとノートを出し黒板を見たが、全く内容は分からなかった。いや、分かろうとも思ってないんだがな? まあ、いいか。寝よう。


 鐘の音で目を覚まし、前を見ると、丁度教師が出て行く所だった。さっきの奴と違ったから、どうもあの後の授業も寝ていたみたいだ。

 一つ欠伸をし、窓を開け外を見ると桜の木が風に揺れていた。メリアの奴がわざわざ東洋から種を取り寄せたらしく、異国の地でありながらも立派な大樹に成長し鮮やかな花を咲かせており、ひらひらと花びらが舞っている様は綺麗な物だ。

「なに見てるの?」

「サクラ、しかないだろ?」

 質問に答えながら顔を右に向けると、そこには赤い髪を右側で結びサイドテールにしている女子生徒、〈コネリット・マートル〉がいた。まだ少し幼さの残る顔立ちをしているソイツは午後、探索にでも行くのか、腰に鞭を装備していた。棘が付いていて非常に痛そうだ。

「確かにそうだね……。ねえ、午後、〈試練の洞穴〉に行くんだけど、レストくんも一緒に行かない?」

「行くのは別に良いけどな……なんで今更試練の洞穴なんだ?」

 試練の洞穴は、メノリアに存在する幾百幾千のダンジョンの中でも、最低ランクの一ツ星級ダンジョンだ。ダンジョンは、そこに棲息している魔物の強さからランク付けがされ、一ツ星~五ツ星、測定不能の六段階に分かれている。

 測定不能と言うのは、そのダンジョンに入って生き残った者がいないからだ。

 そして、ギルドに登録している者でダンジョンを攻略する者は、自分より一つ上のランクのダンジョンまでしか攻略出来ない。登録していない、フリーと呼ばれる奴ら(オレ含む)はその限りでは無いが……とりあえず、聞いた話では、マートルのランクは二ツ星。今更一ツ星なんて行ったって、腕試しにもならないだろう。

 そう思って聞いたオレに、マートルは、一本の剣の周りを炎が囲んでいる刺繍が施された胸ポケットから一枚の紙を取り出して見せてきた。

「『個人課題・〈試練の洞穴〉にてボスを倒し、証明部位を持ち帰ること。同行者を付ける場合は、一人に限り許可する。尚、出発前に必ず聖堂にて魂の持ち数を確認しておくこと』」

 個人課題と言うのは、その名の通りで学園側から生徒個人に出される課題のことだ。

「分かった?」

「ああ。で、すぐ出発するのか?」

「ううん。まだお昼ごはん食べてないから、その後行こうと思ってる」

 という訳で、オレはマートルと共に試練の洞穴に行くことになり、腹が減ってはなんとやらの精神でまずは昼飯を食うことにした。



 食堂でキリエにエンカウントし、少し面倒なことがあったがなんとか無事に飯を食い終え、理事長室にて外出許可の書類に適当に記名し外に出て「メリア大聖堂」に向かう。

 アキハは既に帰ったみたいだ。

 学園と同じ様に白を基調として造られた聖堂の奥に安置されている水晶。それに近づいたマートルが掌に少しマナを集めながら触れると、ボッという音が十回連続して水晶に蒼い炎が灯った。

 これが、この世界に存在する生物・物体に宿る魂の数を知る方法。

 この世界メノリアに存在する全ての生物・物体は、一人ないしは一つに付き魂を十個持っており、一回死ぬ又は壊れた場合、時間をおいて転生する。人が魔物に転生したり、物体に転生したり、物体が生物に転生したりと、色々あるらしい。つまり、十回目に死を以て本当の死を迎えるってことだ。

 ついでに前世の記憶は全て引き継ぎ、いらない記憶は自由に捨てることが出来る。

 勿論、捨てた記憶は戻らないから、その時は慎重に選ばないといけないみたいだが、オレには全く関係ない。

 そして今、マートルが水晶に触れて灯った炎の数は「十」であり、コイツはまだ一度も死んでいないということになる。

「よし、確認も終わったし、行こうか?」

「ああ。あ、そういや、最近魔物達が凶暴化してるって話、聞いたか?」

 最近メリアに聞いた話を思い出して言うと、マートルは首を傾げ、「凶暴化?」と復唱した。どうやら、あの理事長はそういう重要なことを生徒達に伝えていないらしい。

 たく。

「ああ。ギルドで一ツ星にランク付けされている魔物が、三ツ星ランクになっているらしい」

「……ってことは、試練の洞穴の魔獣も?」

「多分そうなる。ただ、今朝近くの森で戦った魔獣と、バリエイトに続く街道で戦ったガルムの群れはまだ凶暴化してなかったみたいだ。簡単に倒せたからな」

「それは多分、レストくんが強いからだと思うけど……とにかく、舐めちゃいけないってこと?」

 マートルの質問にオレは無言で頷いた。

「そっか。じゃ、念入りに準備しないと……買い物、付き合ってくれる?」

「ダンジョンに一緒に行く時点で、断る訳ないだろ? 金はちゃんとあるか?」

「うん。大丈夫」

「じゃ、いくぞ」

 体を反転させながら言うと、丁度扉を正面に捉えた所で元気な返事が聞こえ、次いでパタパタと足音が聞こえてきた。

 一ツ星が三ツ星。試練の洞穴のボス・ギガンテスは二ツ星。二段階上になってるってことは、四ツ星ってことか……とても一ツ星ダンジョンのランクじゃないな……。



 マートルと会ったのは二年前、三ツ星ダンジョンである〈氷の迷宮〉を攻略している時だった。

 〈ルルニア〉と言う、この大陸の南端にある田舎の魔獣では物足りなくなったという理由で上京してきたは良いが、ルルニアの魔獣に余裕で勝っていたからだろう……一ツ星だと言うのに、いきなり三ツ星ダンジョンに挑み、途中でぶっ倒れていた。見た所傷よりも寒さにやられた、という感じだった。

 まあ、見るからに軽装だったからな……。

 その後、攻略は後回しにしてとりあえずマートルを自宅に連れて行き、メリアに押しつけ攻略に戻り、ボスである〈アイスタイタン〉を粉砕して帰った。

 にしても、寒かったな……オレは暑いのも寒いのも苦手なんだよ。

「レストくん! そっち行ったよ!」

「ガア!」

 マートルの声に閉じていた目を開くと〈グランガルム〉が吠えながら噛みつこうとしていた。その口をしたから掴んで塞ぐと、「グア!」と息が詰まったような声を出したが、それには構わず地面に叩きつけ意識を刈り取る。その間に空間から取り出した「正宗」を頭部に突き刺し息の根を止める。

 次第に、グランガルムの体が光りの粒子となって散っていき、数秒後、そこにいたグランガルムは消えた。もし、これがコイツの十回目の死なのだとしたら、次の生を受けるまで百年掛かる。

「これで終わり!」

 バシンという大きな音と、グランガルムの鳴き声が洞窟内に響き、ソイツも光の粒子となって消えていった。

 どうやらソイツが最後の一体だった様で、付近には他に魔獣は居ないみたいだ。気配も無い。

 ヒュヒュンと音を立てて鞭を手元に引き寄せ、綺麗に纏め腰に直すマートルの一連の動作には全く無駄がない。

「ふう、終わった。あれ、レストくん、剣なんて持ってたっけ?」

 一息ついてオレの方を振り返ったマートルが、オレのもっている正宗を見ながら言った。

「さっき出したんだよ。それと、コイツは剣じゃなくて刀」

「カタナ?」

 聞き慣れない単語に首を傾げるマートル。それによってサイドテールも揺れる。猫がいたら……って、これは今朝やったか。

「東洋の『サムライ』とか言う奴らが主に使う武器らしい。コイツの他に、後三人と銃が二人いる」

「『人』? 武器なのに?」

「コイツらには、もう魂が宿ってるからな。単なる武器として扱うことは出来ねえよ」

 鞘に収めながら言い、右手を軽く振って空間を小さく裂く。労いの言葉を掛けながら正宗をそこに入れると、気の所為かも知れないが何か声が聞こえた。もしかしたら正宗かも知れない。

 森の時は寝ていたのだろうか?

 物体。つまり、武器・防具・装飾品などは、使い込むことで魂を宿していく。その状態で更に使い込むことで、魂の数が増えていき最終的には十個の魂を宿す。確かめたい時には、聖堂でマートルがした様に、武器に自分の持つ力を少し流しながら水晶に当てればいい。

 ついでに、付加効果として魂を宿していればいるだけ威力も上がっていく。

「さて、さっさと行こうぜ?」

「うん。あ、そういえば、さっき言ってた通り、グランガルム……強くなってた」

「そうか? 変わってなかったぞ?」

「ううん。だって、一ツ星ならこんなに経験値入らないよ」

 横を歩いているマートルは、そう言いながらスカートのポケットに手を突っ込み、無造作に取り出したカードを見せてきた。

「グランガルムの経験値は『十~十六』だよ。でも、今たった二体しか倒してないのに『六十』も入った。明らかに一ツ星魔獣の経験値じゃない」

 経験値と言うのは、魔物を倒したり、クエストをこなすと得られるポイントのことで、これが一定値まで貯まるとレベルが上がったり、次のランクに上がることが出来る。

 それが適用されるのはギルドに登録している攻略者だけだから、オレみたいなフリーの奴には無縁だが……。

「成る程、確かに確認するにはこれが一番手っ取り早いな。それで、三ツ星魔獣の経験値は基本どれくらいなんだ?」

「大体『七十~八十』前後。強い奴で『百~百七十』前後」

 カードを受け取りながら言うと、マートルはそう教えてくれた。ちなみに、現在のマートルのレベルは『三十』。二ツ星攻略者としては、妥当な所だろう。

「てことは、ギガンテスを倒せば、かなりの経験値が入るかも知れないな。もし、アイツも凶暴化の影響を受けているとしたら、今のランクは四ツ星だし」

「あ……そっか、そうなるのか。大丈夫かな?」

 返したカードを仕舞いながら、たった今知ったことに若干自信をなくすマートル。

「まあ、なんとかなるさ。前は倒したんだろ?」

「……うん、そうだね。頑張ろう! レストくん!」

「ああ」

 握った拳を打ち付け合うと、コツンと小さな音が響いた。



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