15.極東の国
「ニンジャ? って、なに?」
全員で住むことについては、メリアの「家族になるんだから一緒に住むのは当たり前でしょ?」と言う、説得力のありすぎる一言にオレ達全員納得せざるを得ず、言う通り全員の両親に了解が取れた時点で一緒に住むことになった。
その後、オレが作ってきた昼食を食べている途中、ネリットがユイにジパングはどんな所か聞いた所、「一言で言えば、和風」と言った。その後何か思い出したようにジュリアを見て「ジュリアの動きは忍者っぽい」と言った所、それに対してネリットが質問した訳だ。
「暗殺を得意とする、特殊な訓練を受けた戦闘集団。家にあった本には、そんな風に書かれていましたけど」
「サリカちゃんの家ってそんな本まであるの?」
「はい。お父さんが、そういうのを集めるのが趣味で、取り寄せたり、お友達から譲ってもらったりしているんです」
「へ~」
サリカの説明に、キリエは感心の声を上げた。
「話しを戻して、サリカの説明で大体合ってる。まあ、最近は暗殺じゃなくて、専らダンジョン攻略か妖獣討伐が主になってるけど」
「成る程な……そういや、ジュリア、お前ギルドはどうするんだ?」
オレを殺すまで他の奴は殺さないと言っていたが、一ギルドのリーダーだからな。これから先は、暗殺に関わることはあまり無いだろうから、何かしら決着を着けなければならないだろう。
「え? ああ、多分みんなが続けさせてくれないと思う。あたしの気持ち知ってて、色々応援してくれたから。ソレが叶った今となっては、足を洗う様に言われるかな? まあ、今も実質辞めている様な物だし」
「そうか。今度挨拶に行かないとな」
「うん。えへへ、やっぱり、ちょっと恥ずかしいかな?」
そう言って顔を赤らめ、少し困った様に笑うジュリアは、年相応の少女に見える。そして、これから先は紛れもなく普通の少女。
まあ、色々狙われる可能性なんかはあるから、ソイツらはオレが蹴散らすとしよう。家族の手を汚させる訳にはいかんからな。
「忍者以前の話しに戻るのだけれど、レストの家に住むことはもう決定事項だから良いとして、部屋はどうするの? あたし達全員が寝泊まり出来る数の部屋は無かったと思うのだけれど?」
紅茶を一口飲んだ後、放たれたミネアの言葉に、皆の視線がオレに集中する。
いや、そんな見られてもな……こんな展開になるなんて今朝目を覚ました時は考えもしなかったし。
と少々困惑していると、メリアが笑いながら言った。
「ああ、そこはわたしが空間を弄ってチョチョイとするから、何も心配しなくて良いよ。それから、レストと一緒に寝る人なんだけど、これは一日交替か、一週間交替か、その辺はみんなで話し合って決めてね? あ、でも、フーリアはまだレストと一緒に寝るから」
メリアが今の状況を楽しんでいるとしか思えないのはオレだけだろうか?
まあ、今は放っておいて、確かにそういう問題もあるか。
フーリアは、以前アキハと話し合った結果、五歳になるまでは一緒に寝るってことで決まったからな。その本人は今オレの膝の上でサンドウィッチを夢中になって食べている。
玉子が付いてるぞ?
「フーリア、玉子が付いてるわよ?」
なんて観察していると、隣のキリエも同じことに気付きそう言った。
「ん? どこ?」
「ふふ、そっちじゃなくて、こっち。はい、とれた」
「ありがと、キリエ」
「どういたしまして」
笑い合うフーリアとキリエ。何とも微笑ましい光景だな。そしてキリエの笑顔の可愛さ半端ねぇ。
「寝る順番は後で決めるとして、今度みんなで何処か行ってみない? 学園祭が終われば、すぐに夏休みが来るし、少しくらい遠出しても大丈夫でしょ?」
そう言ったのはネリットだった。
だが、確かにそれは良い案だ。早速ネリットとジュリア、サリカはどこに行くか話し合っているし、ミネアもどこが良いか考えている様で思案顔をしている。隣ではユイも同じ様な感じだ。
「レストは、何処か行きたい所ってある?」
キリエに問われて少し考える。
「そうだな…………ジパングには、まだ行ったことが無いから行ってみたい気はするな。ダンジョンの調査もあるし、ニンジャと、あとサムライって奴に興味がある。そう言うキリエは?」
「私は……どうせ夏休みを利用して行くなら、海に行きたいかな? 小さい頃はよくレスト達と行ってたけど、中学生になってからは学園の行事くらいでしか行ってなかったし。それに、フーリアの水着を選びたいって言うのもあるかな? そういうの、あんまりないでしょ?」
「そういやそうだな。確かに水着は無かった。メリア、買ってなかったよな?」
「うん。まあ、日常生活で使うことはそんなに無い訳だしね?」
未だ夢中にサンドウィッチを食べているフーリアの頭撫でながら聞くと、メリアはそう答えた。
それはオレも同じだったけどな……そんなに海に行きたいと思うことはないし。あ、海の中にもダンジョンはあったな。アレも一ツ星だし、来週辺り行ってみよう。
その後、今度水着を買いに行くことに決め、「折角だからキリエ達の水着もオレで良ければ選ぶぞ?」と言うと隣にいるキリエと、どこに行くかを話し合っていたネリット、ジュリア、サリカ、ユイ、ミネアの全員が全く同じタイミングで本当かどうかを聞いてきた。
その勢いに少し驚き、もう一度「オレで良ければだが」と言うと、またも同時に「是非」と言われ、全員同時で選んでしまうと途中から頭が回らなくなってしまう可能性があるため、分けてくれないか聞くとあみだで決めることになった。
テーブルに備え付けられているティッシュを使って行った結果は以下の通りだ。
一番から、ジュリア・サリカ・キリエ・ネリット・ミネア。
そして……。
「六……一番最後」
と言うものだが、ユイの落ち込み様が半端じゃない。
「フーリア、ちょっとごめんな?」
フーリアを降ろし、項垂れているユイに近付き頭に手を置く。
「れすとぉ……」
「そう落ち込むな。順番には関係なく、ちゃんと選ぶから。な?」
「……うん」
以前空の道に行く前にした程では無いが、頭を撫で回すと幾らか元気を取り戻した様だ。笑ってくれた。
「ハハ。お前がこういうことで落ち込むってのは、何か新鮮だよ。メリアの言ってたつんでれについては、まだよく分からんが、素直じゃないってのは、決して欠点じゃないからな? 寧ろ可愛いと思うぞ?」
「ッ……レストは、ズルイ」
紅くなりそっぽを向くユイ。その仕草も、やはり今は可愛く見える。
何がズルイのかは分からんが。
「ホント、ズルイわよね。今まで何人落として来たのかしら?」
「さっきそのことを聞いたら、『オレは十六年間一度も殺人を犯したことは無いぞ?』なんて、鈍感過ぎる一言が返ってきたわよ?」
「流石だね、レストくん。学内鈍い人ランキングでぶっちぎりの一位になるだけあるよ」
「…………待て、いつそんなランキングがあった?」
別に困ることは無いが、本人の与り知らぬ所でそんなことされてたのか?
「そう言えば……」
「サリカ? 何か知ってるのか?」
「はい。中等部三年生の頃の学園祭で、体育館の端っこにそんなのが張ってあった様な気が……それで、集計結果があったので見てみたんですけど、確かに一位はレストさんでしたよ? と言うか、レストさんしか載っていませんでしたが? ついでにわたしも参加しました」
は? ランキングなのに? つうか参加したのかよ。
と、他にも「学園祭で何やってんだ?」とか「実行委員はそんな物を許したのか?」とか「そもそも何故そこにオレが入るんだ?」など色々言いたいことはあったが、まずそこが気になった。ランキングと言うからには少なくとも二人はいないと順位が付けられない為成り立たないだろう。
なのに「オレ一人」とはどういうことだ?
「だって、投票した人みんな迷いなくレストくんに入れたからね。勿論わたしも。と言うか主催者はわたしだよ?」
暇だったのかと聞くと、
「失敬な! 好きな人が他の娘達にどう思われているのか知りたいと思うのは、乙女として当然のことです!」
そう返され、そのあまりの気迫に思わず後退りしてしまった。
その後、ジュリアとキリエ、ミネアも参加したと言い、キリエの所に来た時はオレに千票は入っていたらしい。だが、その数は実に学園全校生徒の半数を占めている。そこに疑問を持ち初等部の奴も参加していたのか聞くと主催者であるネリットは平然と「うん」と答えた。
初等部の奴と関わることなんて無かったぞ? 精々遠足くらいだが、まさかあの短時間で相手が鈍いかどうかなど、小学生には分からないだろう。
…………とりあえず考えても分からない為、止めることにした。
旅行の話しに戻そうと思い、皆に聞いてみた所、キリエとユイ以外の皆はオレと同じジパングを希望していた。
キリエは「ジパングにも海はあるだろう」と言うことで賛成し、ユイもすんなり承諾してくれた。
もし変なことを言ったりしたりした場合は、どんな奴だろうと吹っ飛ばそう。
「ご主人、ボクも行っていいの?」
そう決意していると、オレの所に来たフーリアが制服を引っ張りながら聞いてきた。その小さな体を抱きかかえる。
「当たり前だろ? みんなで行くんだからな。誰か一人を除け者になんてしないさ」
「……うん!」
元気に頷いたフーリアに、オレ達は皆温かい気持ちになり、夏休みの旅行先は――
「メノリア極東の国・ジパングだね! 楽しむぞー!」
『おー!!』
ユイが魔王を倒したジパングに決定した。
ちなみに締めたのはメリアだ。
それから暫くして昼休み終了の鐘が鳴り、詳しいことは放課後話し合うことにしてオレ達はそれぞれの準備に戻った。
そしてその途中、フーリア、ユイ、ネリット、サリカ、ミネアと共に教室へ歩き、中庭に差し掛かった所で突然サリカが歩みを止めた。
疑問に思い、オレ達も歩みを止める。
「皆さん、少しだけ相談に乗って頂いても良いですか?」
オレ達は少し顔を見合わせ頷いた。
「ありがとうございます。相談と言うのは、前世――わたしが〈聖獣・ユニコール〉だった時のことについてです」
サリカは、ポツポツと己の前世のことを語り出した。




