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14.オレの気持ち。皆の気持ち。


「それで、レスト。さっき言ったことは本気?」

 真っ直ぐに、真剣な色を讃えた瞳で見て尋ねてくるメリア。自然とオレも真剣になる。

 メリアが聞いているのは、十中八九闘技場でオレが言ったことだろう。

『キリエはオレの女』

 ハッキリとオレは言った。

 決して伊達や酔狂ではないし、あの時のノリで言ったなんてことでも無い。

 あの金髪がキリエのことを婚約者と言った時には、「馬鹿だコイツ」としか思わなかったが、アイツの口から今オレ隣で顔を紅くしたままずっと下を向いている、けれど制服の裾を摘んでいる少女。キリエの名を口にした時、言いようの無い苛立ちが生まれた。

 それが何だったのか?

 さっきの戦いの中で、不意に自覚した。

 ――オレはキリエが好きだ。

 だからあの感情は、単なるオレの独占欲だったのだと思う。

 惚れた女の全て――名前すらも自分だけの物にしたいと言う、何とも自分勝手な、勝手過ぎて、笑ってしまう程の。

 だが、自覚してしまえば、却って開き直れる。だからオレは答えよう。

「ああ。本気だ」

 メリアとフーリア以外、全員の肩がピクリと、小さく撥ねた。

「オレはキリエが好きだよ。他の誰にも渡したくないと思ってる」

 裾を掴んでいる手に、少し力が込められた。

「…………嘘はないね?」

「ああ」

「………………」

「………………」

 暫し無言で見つめ合い、やがてメリアはふっと力を抜いて言った。

「分かった。でもね、レスト。ここにいるみんなは貴方に好意を抱いてる。その想いはどうするの? もし、その想いを踏みにじる気なら、私は母親としてレスト、貴方を叱るよ?」

「母親として何かを言われたのは久しぶりだな。……そのことについてだが、お前達は『キリエが好きだ』と言うオレでもいいのか?」

「言ったわよね? 『あたし達は、貴方を好きでい続ける』って。その言葉通り、あたしは今でも貴方が好きよ? それから、貴方『でも』じゃなく、貴方『が』いいの。例え好きな人がいてもね」

 ハッキリと言ったミネアは、紅茶を一口飲みそれきり何も言わなくなった。言いたいことは全て言った様だ。

 外見は幼女その物だが、銀龍として彼女が生きてきた時間はオレ達人間とは比べものにならない。だからなのか、どこか老成した雰囲気を漂わせている。なんて、口に出すと怒られそうだから言わないが。

 おっと、何かが刺さっている気がするよ? どうしてだろうな?

「あたしもレストが好きよ? だから、キリエを奪いたいと言うよりは、レストを奪いたい。そして殺りたい。って……もう素直になっても良いか。ずっと甘えていたいの。安心できるのよ、貴方の側にいると。心の底から、温かくなって。…………恥ずかしいこと言わせないでよ!?」

「ジュリアが勝手に自爆しただけ」

「うぐっ!」

 紅くなった顔を誤魔化すように、勢いよく立ち上がりながら言われたハーベストの台詞をアキハが言葉のナイフでバッサリと斬り、彼女は何も言い返すことが出来ずそのまま座り直した。まだ顔は紅いままだ。

「メリアはああ言ったけど、わたしは貴方をただの同居人としか思ってないから。誤解しないように」

 ただ、の部分を偉く強調してアキハは言った。

 心なしか顔が紅いのはどうしてだろうか?

「レスト、今のは単なる照れ隠し。ユイちゃんの世界で言う所の『ツンデレ』よ」

「は? つ「ちょ! メリア、何言ってるの!?」だから最後まで言わせてくれって……」

 つんでれについて聞こうと思ったら、またアキハに遮られた。

「照れない照れない。ユイちゃん、初めて会った時は感情があるのか疑う位だったのに、こっちに来て、正確にはレストと会ってからはとても感情豊かになったもの。本当に見違える程にね」

 今度はアキハが何も言えなくなった。

 そしてオレを睨んでくる。

 ……何故?

「で、結局つんでれって、何なんだ?」

「本当は好きなのに素直になれないから、逆の態度を取ってしまう。って所かな。ほら、思春期特有の『好きな人ほどいじめたくなる』ってやつだよ。青春だねぇ」

「オレそんなこと無かったぞ?」

「ホントだよ。母親としては心配したんだよ? 年頃なのに好きな娘一人いないんだもん。でも、レストにもやっと春が来たね。もうこのまま子供作っちゃえば?」

 めっちゃ良い笑顔で言ったよ、コイツ。

「!! メリア!? 何言ってるの!?」

 ここが学園内だと言うことも忘れ、キリエは素で返した。その顔は他二人同様真っ赤だ。いや、コイツの場合はさっきから紅かったな。今ので更に紅くなったが。見てみると指まで紅くなっているし……。

 いやはや、好きだと自覚するとこういう所まで可愛く見えるから不思議だ。

 と、確認しないと行けないな。

「キリエ」

「え? あ、えと、なに?」

「? オレはお前が好きだが、お前はオレをどう思ってる?」

 何処か戸惑った様な反応に疑問が生じたが、ハッキリさせておきたいので聞いてみることにした。

「あ、そう言えばキリエの返事聞いてなかったね。ああは言ったけど、やっぱり本人の口から聞きたいし」

「ちょ、メリア……ぁぅ」

 うわぁ……なんだこの生き物。なんか、愛で回したい衝動に駆られるんだが。

 赤面しといてチラチラこっち見たり、モジモジしたり、あとあれだな。なんと言っても涙目な所がいいな。愛で回したい衝動とは別にいじめたい衝動にも駆られてくる。

「それで、どうなんだ?」

 出来れば早く答えて欲しい。これでも結構緊張しているからな。

「レストが緊張するなんてね……面白い物が見れたよ」

 流石に十六年いると分かるのか、また笑顔でそんなことを言いやがった。今は無視しておこう。

「………………す、き」

 長い沈黙の後、キリエは小さな声で言った。

「わ、私、は……貴方が、レストが、好き、です」

 もう一度。今度は、真っ直ぐオレを見ながら。

「だから…………だから!」

「結婚しよう」

「っ!」

「ふふ」

 まるで信じられないと言う様に、碧い瞳を見開きオレを見るキリエ。フーリア以外の他のメンバーも同様だ。一人メリアが何か笑っているが、今は気にしていられない。

 ついさっき、キリエを好きだと分かり、まだ正式に交際すら始めていないのに結婚なんて、幾らなんでも話しが吹っ飛びすぎているが、どうにも気持ちの制御が効かない。偶に街を歩いている時や、別の街で交際している者を見ることはあったが、確かにくっついていたい気持ちも分かる。勝手な憶測だが、好きな者の存在を一番近くで感じたいからそうしているのだろう。

 今のオレも、キリエを抱き締めたい気持ちで一杯だ。その存在全てを零距離で感じたい。

 体温も、肌の感触も、綺麗な髪も、匂いも、彼女のありとあらゆる全てを感じたい。

「だから、まずはオレと付き合ってくれるか?」

「――…………ぃ、はい! キリエ・ローデディンスとしての生涯、その全てを貴方に捧げます!」

「ありがとう。改めてよろしくな? キリエ」

「はい!」

「おっと……はは、そう言えば、昔はしょっちゅう抱きついて来てたよな?」

 椅子に座っている状態から抱きつかれ為、危うく転けそうになったが一番端だったお陰でなんとかそうならずに済んだ。

 そして同時に思い出したことがある。

 いつだったか、キリエは以前はもっと素直だったと言ったことがあったが、出会った当初のコイツはオレに懐いており街で見かけただけでも飛びついてくる程だった。その時はオレも何も知らないガキだったから意識なんてしなかったが、今思い返してみるとコイツはガキの頃からかなり可愛かったんだな。

 その度にメリアとキリエのお袋さんは笑っていたが、親父さんは血涙を流していた様な気がする。

「キリエを嫁にくれ」なんて言ったら、絶対発狂するぞ、あのオッサン。

 今でこそ引退しているが、若い頃はお袋さんと二人で世界中のダンジョンを荒らし回ったみたいだからな。戦うことになると場所は考えねぇと。

「レスト、キリエ。晴れて両思いになったのは良いけど、まだ気持ちを聞いてない娘がいるでしょ? まあ、途中からわたしの所為でもあったけど……ごめんね? ネリット、サリカちゃん」

「あ、いえ、そんな」

 言われて二人に目を遣ると、マートルは手を前で振っており、オルディスは下を向いていた。キリエも静かになり、皆の視線も二人に集中する。

「う~ん……そんなに見られても……キリエさんには申し訳無いと思うけど、やっぱりわたしもレストくんが好きだから、諦めきれないかな?」

 どこか自嘲気味にマートルは言い、不意にオレの方を見た。

「好きだよ、レストくん。これから先も、ずっと」

「ああ。嬉しいよ」

 素直にそう思うことが出来る。

 マートルの告白は、それだけ真っ直ぐ心に届いた。

「ほら、次はサリカちゃんだよ?」

 柔らかく笑ったマートルは、その目を隣のオルディスに向けた。

 そんなに関わることが無かったオルディスだが、この場にいると言うことは、少なからずオレに好意を抱いていると言うことなのだろうか?

 なんてことを考えていると、オルディスが立ち上がり、いつものどこか内気な雰囲気を振り払った、真っ直ぐな眼差しを向けてきた。

「切欠は本当に些細な……まだ初等部の頃、わたしの調子が悪い時、すぐに気付いて保健室に連れて行ってくれたことで、それからずっと貴方を見てきました。でも、ずっと声を掛ける勇気が持てず、周りには綺麗な人達ばかりだから、どうせわたしなんて見てもらえないだろうなって、最初から言い訳をして諦めていました。でも、やっぱりわたしは貴方が好きです。この想いだけは、これからもずっと変わりません」

 そう言ったオルディスは、憑き物が落ちた様な、清々しい笑顔を浮かべていた。

「ありがとう。まあ、実行員っていう同じ仕事をしている訳だからな。これからもよろしく頼む」

「はい。こちらこそ、改めてよろしくお願いします」

「はい! 話しも纏まった所でわたしから提案があります!」

 オルディスが頭を下げながら言い、上げた後、メリアが手を叩きながら声を張り上げた。せめてもう少し静かにして欲しかったな。今ので話しについて行けず眠りそうになっていたフーリアが目を覚ましてしまった。

 同じ様にビックリアキハが、すぐに取り繕ったのは少し可愛かったな。

 あ、痛い。痛いですキリエさん。すいませんでした。

「もう」

 やば、可愛い。

「はいそこ、イチャつくのは後にしてね? それで、提案っていうのは、まあぶっちゃけて言うと、キリエは本妻、みんなは愛人になればいいんじゃない? ってことなんだけど、どう?」

「……いや、『どう?』って言われてもな……そんなんでいいのか? それに、キリエは?」

「私はレストといられるなら……ジュリア達ならいてもいい。と言うより、いてくれると楽しいかな?」

「そうね。どんな形であれ、レストといられる訳だし、母親である理事長が認めてるんだから、後ろめたいことも無い。うん、あたしはレストの愛人になることに賛成よ」

 ハーベストの言葉を皮切りに、マートル、ミネア、オルディスも賛成の声を上げる。

「わたしも賛成。この年で愛人になるなんて思わなかったけどね」

「あたしも。みんな対等ってことだし」

「あわわ……お父さんとお母さんになんて言えば良いんだろう?」

「うんうん。一気に大家族だね。それで、後はユイちゃんだけなんだけど、どう?」

 アキハの肩が撥ね、オレを見た。

「…………みんな、平等に愛してくれる?」

「当たり前だろ? じゃねぇと、それこそキリエだけじゃなくハーベスト……いや、名前で呼ぶべきだな。ジュリア達の想いを踏みにじることになる」

 そんなことはしたくない。

 好きな奴がいると知りながらも、真剣にオレを想ってくれているんだからな。もし自分が女だと考えるなら、とても耐えられる気はしないが、ジュリア達はそれでもオレを想ってくれている。

 只でさえ、ミネアには散々鈍いと言われ、その実ジュリアの気持ちにも、コネリットの気持ちにも、サリカの気持ちにも気付かなかった。その所為で傷つけてしまったこともあるかも知れない。

「だから一夫多妻となる以上は、全員平等に愛する。些細な所で差は出てしまうかも知れないが、できるだけそうならないようにする」

「絶対に? 裏切ったりしない?」

「しない――いや、絶対にしたくない」

「……信じるよ?」

「ああ」

「……じゃあ、わたしも、賛成。まだ、この気持ちが恋愛感情なのかどうかは、ハッキリ分からないけど、貴方に好意を抱いているのは確かだから」

「分かった。よろしくな? ユイ」

「うん」

 何度か見た中でも、最高の笑顔を浮かべて、ユイは頷いた。

「みんな、さっきから何言ってるのか分からない」

「フーリアは、もう少し大きくなったら分かるよ?」

「ん~……そうなの?」

「うん。だから、それまでゆっくり待とうね?」

「……うん、分かった」

 膝に座るフーリアの頭を優しく撫でながら優しい声で言うユイは、まるで母親の様で、とても綺麗だった。

「じゃ、みんな了解ってことでいいんだね?」

 タイミングはバラバラだったが、オレ含め全員頷いた。

「うん! それじゃ、みんなのご両親に了解が取れ次第、みんなで家に住むからね!」

『……………………はい?』

「?」

 さも当然の様に言い放つメリアに、フーリアを除きまたオレ含む全員が、しかし今度は同時に疑問の声を上げた。


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