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13.体が滑るって知ってるか?


 今オレはキリエ達と共に食堂にいるのだが、空気が重い。とりあえず何故こうなったのかを思い出してみようと思う。

 あ、その前に一応並びを言っておこう。

 長テーブルの一番左端から、オレ、キリエ、ミネア、アキハと膝にフーリア、ハーベスト。対面に左からメリア、オルディス、マートルだ。

 つう訳で、以下回想。



 朝、ミネアも交え五人で登校し、教室でマートルと何か仲が良くなっていたらしいオルディスも交えておしゃべりをしていた。

 やがて始業を告げる鐘が鳴り、SHRにて担任が今日から学園祭の準備が始まるから実行委員の言うことをちゃんと聞けよ~、と言うその一言だけで終わってしまい、後はオレとオルディスに丸投げして出て行った。

 アキハにフーリアの事を頼み、オレとオルディスは教壇に立ち役割の確認をする為手元の用紙を見て名前を呼んでいく。

「えっと、次は……『衣装制作隊』か。ミルシェ・フラース、コネリット・マートル、サリカ・オルディス。三人リーダーにするが、これで大丈夫なんだな?」

「裁縫は、小さい頃から、やってましたから」

「そうか。なら頼む」

「は、はい」

 隣のオルディスがそう言ったのを確認し、次の「木材加工員」の所を見る。

「えっと……ログス・キルスト、ファンド・オビィラ、ジョン・ニトル、ギル・ジエラ。四人がリーダーか」

「おう。木材くらい簡単に倒してやるさ」

「倒す必要は無いが、まあ怪我はしないように気を付けろ。お前の場合フラースに心配を掛けることになるからな」

「「な!?」」

 とりあえず、今ので役割の確認は終わり、後はそれぞれが材料を持ってきて作業に取り掛かるだけだが、準備期間は二ヶ月もある。お化け屋敷と一口に言っても、それだけ時間を掛ければかなり規模の大きな物が出来るからな、その分怪我をすることも多くなってしまう。

 そうなるとその分作業が遅れてしまい、今予定している物が出来なくなる可能性だってある。

 ちなみにどんな物を予定しているかと言うと。

 まず入って直ぐに下からゾンビが現れ、そこから五分程は何も現れないが抜けると道の両側からスカルガルムを模した物が上下左右から出てくる。その後、後ろでスタンバイしていた生徒が、ゾンビ、骸骨、ミイラ男などの衣装を着て前にいる奴を追いかけ回し、気が済んだ所でそれを止める。道の下で魔術を使える物が風の魔術で道を不規則に揺らし、火の魔術を使える物が火の玉を発生させ辺りをぐるぐると回らせる。そこを抜けると今度はあからさまに用意してある落とし穴があり、そこから何かが出てくると思わせて壁の後ろでスタンバイしていた十人の生徒が一斉に手を突き出す。

 大雑把に説明するとこんな感じだな。

「準備に掛かる前に言っておくぞ? どれだけ簡単な作業をする時でも、周りには気を付けろ。特に刃物を使う時はな。近くに誰かがいたら、少し離れてもらうか、自分が安全な場所に移動して作業しろ。もし不注意で誰かに傷を付けたりしちまうと、その分作業が遅れる。仮に怪我をしたとしても、オレが治すことは出来るが、それでこじれた関係までは治せないからな? 今オレが言ったことに対して、『ウザイ』『偉そうなこと言ってんじゃねえよ』等など。まあ、色々思っている奴はいるだろうが、これも学園祭を今日の準備期間から楽しむ為だ。文句があるなら、後で個人的に言いに来い。以上だ。各自準備を始めてくれ」

 何かクラスの奴がみんな不思議そうな目で見てくるが、その理由を聞いて時間を割くわけにも行かない為、オレはさっさと木材を取ってこようと思い窓を開け放ち、そこから飛び降りた。

 上からマートルの「ちょ、レストくん、ここ三階!」とか言う声が聞こえたが、同じ様な理由でそれに反応している訳にも行かん。出来るだけさっさと準備を終わらせてさっさと寝よう。昨日は結構遅くまでアキハと一緒にフーリアに絵本を読み聞かせていたからな……若干寝不足だ。普段は風呂で眠くなっているフーリアだが、やはり子供だからか絵本を知って以降は多大な興味を示し、オレ達の方がダウンしそうになった。

 いやはや、子育てをする親と言うのは凄い物だと実感したよ。メリアも今のオレの様な思いをしていたんだろうな。今度何か親孝行でもしよう。

 そう決めた後、木材を提供してくれる心優しいおじさんがいる家に向かい、約十分後、そのおじさんの家に到着した。

「おう、来たか坊主」

「よう、おっさん。木材サンキュな?」

「良いって事よ。こっちだ、ついてきな」

 心優しいおじさんとは他でも無い、この街のギルドマスターのことだ。見た目は筋骨隆々の強面おじさんだで、言葉遣いも今の様に荒い所があるが、実際は面倒見の良いおじさんだ。交渉に来た際、娘の娘、つまり孫娘に会いに行ったが自分を見た途端泣くから結構ショックだったと言っていたのは記憶に新しい。ちなみに先週の〈メイラの日〉、つまり今日で四歳になったそうだ。

 この前フーリアの誕生日の話しになった時に言っておけば良かったが、一週間はそれぞれ〈ルミの日〉〈メイラの日〉〈ナナの日〉〈エルの日〉〈アポロの日〉〈パルティの日〉〈メルの日〉となっている。神の名前をもじっただけだ。で、今日はメイラの日。

 おじさんに案内され、ギルドの裏に行くと大量の木材が積まれていた。大中小の木材がそれぞれ四十本、三十五本、五十本用意されている。小さいのは色々な所で必要になるからな、多めに用意してもらった。

 木材を全て空間に収納し、他に必要な物が無いか考えていると、おじさんから「正式にギルドに登録してくれると助かるんだがな」と言われたが、ギルドに入ると色々面倒だからな、それは勘弁願いたい。

「それからな、孫が偉く別嬪でな? お前、嫁に貰ってくれんか?」

「あのな? まだその子は四歳なんだろ? いくらなんでも気が早すぎだ」

「いや、それはそうなんだが、もし変な男に目を付けられると困るだろ? その点お前なら安心だしな。今、あいつらはこの街に来てるから、暇があったら会ってくれんか?」

 まあ、それくらいなら問題ないだろうと思い、オレはその申し出を断らなかったが、数日後、そのことを激しく後悔することになった。はあ。

 その後おじさんに別れを告げ、ついでに小休憩時の軽食や飲み物を買って学園に戻った。

「ただいまー」

「「「「お帰り(なさい)」」」」

 先週と同じ様に言うと、返ってくる四つの声。フーリア、アキハ、マートル。そしてオルディスの物だ。フラースがいる所を見ると衣装のことで話し合っていたんだろう。

「木材持ってきたが、ここだと狭すぎるからな。男子は全員飛び降りろ」

「イヤイヤイヤ! そんなこと出来るのお前だけだからな!?」

「冗談だっつの。ああ、お前のグループは小さい木材を此処で加工してくれ。後は全部オレ達でやるから」

「は? なんでだよ?」

 本当に分からないと言う顔をしているキルストの首に手を回し引き寄せ小声で説明する。

「フラースと一緒にいられるだろ? それくらい気付け、鈍男が」

「……その心遣いはありがたいが、鈍いことに関してお前にだけは言われたくないぞ?」

「何言ってやがる? オレは鋭さには自信あるぞ? なんなら今度不意打ちでも仕掛けてこい。返り討ちにしてやるからな」

「そういう意味じゃないんだが……まあ、いいや、分かったよ」

 その後キルストは自分の班を集め、木材はどこにあるのか聞いてきた。

 そうだった。ソレを出さないと作業も何もあったもんじゃないな。

 机は左右に半分ずつ寄せられ、中央は空いているからそこで良いと判断し、皆に離れる様に言ってそこに木材・小を落とす。周囲の奴らが驚いていたが、そこで「そう言えばコイツ等の前で空間魔術を使ったことはなかったな」と思い当たった。

 キニシナイ、キニシナイ。

「ノコギリなんかは……あるな。後はガムテープにハサミ、カッター、釘、トンカチも大丈夫っと。あ、フーリア」

「ん?」

 トテトテとアキハと一緒に近付いてくるフーリア。その二人に買ってきた小休憩時の食料と飲み物が入った袋を渡す。

「とりあえず人数分は買ってきたが、足りなかったら悪いな。みんなで分けてくれ。あ、後、食う前にちゃんと手洗いうがいをしろよ?」

「うん。ばい菌が入らない様に、だよね?」

「ああ。偉いぞ、ちゃんと覚えたな?」

「うん!」

 比較的軽い物が入った袋を抱えるフーリアの頭を軽く撫で、後のことはアキハ達に任せることにし立ち上がると何故かまた注目された。アキハは理由が分かっているのか、頬笑んでいるが……まあ、教えてくれないだろうし、知りたいとも思わないからいいけどな。

「と、そうだ。フラース、布はちゃんと準備できてるか?」

「え? あ、ええ。問題ないわよ?」

「そうか。じゃあ、女子達も怪我には気を付けろよ? 将来の為にも、傷を負う訳にも行かないからな」

「……レストくん、分かっててやってる?」

「は? なにが?」

「ネリット。レストには言っても無駄」

「うん、だよね」

「まあ、よく分からんが、怪我には気を付けろよ? うし、お前等、オレは先に下に行ってるから、来いよ?」

 さっきオレが出た時から閉められず開きっぱなしなっている窓の桟に足をかけ飛び降りる。今度はマートルは何も言わなかった。もしかしたら呆れているのかも知れない。

 とりあえずその後、降りてきた木材加工員のメンバーと共に木材を加工していき、気が付けば結構時間が経っていた為、一時休憩にして、教室の様子を見に行った。

「誰も怪我してないか?」

 入っていきなりこんなことを聞くのもどうかと思ったが、やはり実行委員を任されている以上は確認しないといけないからな。

「あ、レストくん。うん、余分に広く取って作業してるから、大丈夫だよ。そっちは?」

「こっちも大丈夫だ。まあ、俺等男は傷が出来ても困ることはないけどな。……ん、オルディスはどうした?」

 室内を見渡し、他のメンバー(ついでにキルクスとフラースの方を見ると折角同じ空間にいると言うのにかなり離れた所で作業をしていた)を確認したが、唯一オルディスだけがいなかった。聞くと、作業中足りない物があることに気付き彼女が取りに行ったが、それから帰ってきていないとのこと。向かった場所は裁縫室とのことなので、迎えに行くことにする。

「あ、疲れたらちゃんと休憩しろよ? あと、ここにいる男子は好きに使ってやれ、体力は有り余ってるからな。オレはオルディスを見てくる」

「ごめんね? 私たちの誰かが付いていけば良かったんだけど……」

 そう言ってきたのは恐らくオルディスの班員である女子……よく見れば女子Bだった。確か名前は………………〈ノエル・ハイド〉だったか。と、今はどうでも良いか。

「気にすんな。まだ初日だからな、次からそうすれば良いさ。それから、分からない所は無理せずに頼れよ? 決して恥ずかしいことじゃないし、その調子だとペンすら握れなくなるからな?」

 ハイドの指は慣れないことをしたからなのか、絆創膏が多く貼ってあった。今日だけでここまでになってしまうと今週が終わる頃には酷い状態になってしまうかも知れない。

「あ……よく、見てるね?」

「一応実行委員だからな。オレが治してもいいんだが、そうするとお前の努力を無碍にする様な気がするし」

「うん、大丈夫。ちゃんと聞いて、出来る様にするよ」

「ああ、頑張れ」

「っ!」

 頭を軽くポンと叩くと、何故かハイドの顔が紅くなった。次いで視線を感じ室内を見ると、何か鋭い視線が物理的な力となってオレに刺さっている様な気がした。主にアキハとマートルの。フーリアも見てはいるが、その眼に何か別の感情が込められている様には見えない。

 よし、とりあえず逃げよう。

「じゃ、頑張れよ!」

 シュタ、と手を挙げて一気にダッシュ。裁縫室へ向かう。

「ちょっと待ちなさい」

 正確には向かおうとしたが、毎度突然現れたミネアに行く手を遮られた。校内で無闇やたらとテレポートを使わない方がいいと思うが、まあ、本人がそんなこと気にしないからな。

「なんだ、ミネア?」

「はあ……貴方ね、一体何人の娘を落とせば気が済むのよ?」

「は? いや、言っておくがオレは十六年間一度も殺人を犯したことはないぞ?」

 そんな落としたいと思う程恨みを持っている奴もいないからな。

「~~~~~~ッもう! 貴方は鈍すぎるのよ!」

 堪忍袋の緒が切れたとばかりに声を張り上げるミネア。

「いい!? これからは注意して行動しなさい! 下手に動くと貴方はどんどん落としていくから!」

「ンなこと言われて「ワ・カ・ッ・タ?」はい、分かりました!」

 光の灯っていない目で、しかも区切って言われるとかなりの恐怖感がある。オレの生存本能がガンガンと警鐘を打ち鳴らし、「今のコイツは危険だ」と執拗に告げる。故にオレが取る行動は素直に従うことだ。

「ん。じゃあ、行ってよし」

「はい! 行ってきます!」

 出来るだけ早く離れろと言う本能に従いダッシュでその場を離れ、今度こそ裁縫室へ向かった。

 のは良いんだが、いや、この場合良くないのか?

「あ、あの、わたし、早く教室に、戻らないと」

「え~、いいじゃん、ちょっとくらい。付き合ってくれてもさぁ」

「そうそう。どうせ学園祭なんて下らねぇんだしさ」

 裁縫室の前では、オルディスがヤンさん二人に絡まれていた。

 ここでオレの頭の中に三つの選択肢が浮かび上がる。

・助ける(勿論オルディスを)

・埋める(勿論ヤンさん二人を)

・排除する(勿論以下略)

 さて、コンマ一秒で悩んだ結果、オレが取った行動は以下の通りだ。まあ、見ていてくれ。

「お~~~っと! 体が滑った~~~~!」

「グベラァ!?」

「グオハ!?」

「え!?」

 上から順にオレ、ヤンさんA・B、オルディスだ。

 何とも個性的な悲鳴だことで。

「いやあ、わりぃな? 体が滑って」

 風の魔術で床に限りなく密着する形で滑空していきながら突っこみ、起き上がって行ったが、ヤンさんは信じてくれなかった。

「何だよ、体が滑るって!? ンなことある訳ねえだろってうおお! マジで滑ってやがる、何だコイツ!?」

 なので実践してみせると愉快な反応が返ってきた。

 その後、風の魔術を使ってうつ伏せ状態のまま床をスイスイ滑るオレに恐れを成したのか、二人のヤンさんは一目散に逃げていき、オレの頭に一つの考えが浮かんだ。

「…………お化け屋敷でやってみるか?」

「出来れば、止めて欲しいです」

 だが、オルディスにそう言われ、皆に話す前にお蔵入りすることになってしまった。残念だ。

「何もされてないか?」

「え? あ、はい。大丈夫でした。ありがとうございます」

「ああ。間に合って良かったよ。ほら、さっさと帰ろうぜ?」

「はい」

 その後、無事オルディスを送り届けたオレはそのまま第一休憩スポットに行き、そこから前回のことに繋がる。

 で、その後キリエと共に控え席に戻ると、オレが勝ったことを喜ぶフーリアに抱きつかれた。そこまでは良かったんだ。

 だが、他のメンバーは何も言うことなくどこか暗い雰囲気を漂わせていた。そして何故かメリアが現れ、一発叩かれた後「とりあえず食堂に行くわよ? 話しはそこでしましょう」と言い、皆も頷いて先に移動していった。オレとキリエは一度顔を見合わせ(何故か直ぐに逸らされてしまったが)、後を追って食堂に向かった。



 で、冒頭で言った通り今の食堂の空気は重い。さっきまで和気藹々と食事をしていた生徒達が全員退散する程に。

「ズズ……ふぅ。空が青いな」

『現実逃避しない』

「はい、すいません」

 キリエ、フーリア、メリア、オルディス以外の全員から揃って言われ素直に謝る。

 すまないな、少しばかり嘘をついてしまった。困ってはいないが混乱はしている。あと上記四人以外の雰囲気が何処か張り詰めてるから誰か何とかしてくれると嬉しい。

 まあ、無理だが。

 はあ……。


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