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12.会長の受難

 「はあ」

 クラスの出し物が決まって一週間が経った。今日から二ヶ月、学園祭の準備期間に充てられる。

 心配していたフーリアの事も、この一週間常にオレかミネア、アキハがいたから生徒はおろか教師にも手出しさせずに過ごせたし、元々獣人がいなかったということとフーリアの容姿もあってか、皆差別云々よりも興味が勝ったらしく、表だった問題は起こっていない。今はアキハとミネアがついている。それに一部では、二人のファン倶楽部まで出来たみたいだからな。

 早過ぎるだろ。まあ、いいか。

 それとアキハは部活には入らなかった。理由を尋ねると簡潔に「興味ないから」とのこと。

 確かに、読書はわざわざ部活に入らなくても出来る訳だからな。

さて、話しは変わり、この一週間の間に調査をしたダンジョンは、ガルム系統しか出てこず、ボスが〈炎狼〉の〈狼のねぐら〉、以前マートルの個人課題で付き合った〈試練の洞窟〉、人型の魔獣が多く現れ、ボスが〈ブラッディデーモン〉の〈人魔の里〉の計三つだ。試練の洞窟は以前にギガンテスを計測して分かっていたが、炎狼もスカルナイトも共に〈測定不能・Lv不明〉だった。

 計測出来たのは、やはり今の所はスカイドラゴンだけだ。

 一昨日、帰った後にその事をメリアに伝えたが、まあ、結局分かることは一点を置いて他に無かった。

 その一点と言うのは、スカイドラゴンの大きさが変わっていなかったこと。

 ギガンテス、アイスタイタン、スフィンクス、炎狼、ブラッディデーモン、五体共に大きさは二倍以上にはなっていた。ギガンテスについては、マートルに聞いた時に分かったが、他の奴らは見たことがあったから、それは直ぐに分かった。

 ちなみに試練の洞窟に行かなかったのは、単純に簡単すぎるから。

 ていうか行こうとしたらメリアに「そんな所行くくらいなお使い行ってきて」なんて言われたからな。まあ、だからなんだ、って話しなんだが。

 とにもかくにも、今の所スカイドラゴンだけは大きさが変わっていなかった。Lvは変わっていたが。

 それが分かっただけでも、少し前進かも知れない。

 で、これから学園祭が終わるまでの間、ダンジョン調査は週二回までにする様にとメリアに命令された。言われたのでは無く命令された。とりあえず明日と明明後日を使って〈岩石の森〉の調査と、私用も兼ねて〈覇王の玉座〉に行こうと思っている。

 詳しくはその時に言うとして、現在時間的には四限目がもうすぐ終わる頃。

 オレは学園第一休憩スポット(オレ命名)にいる。校舎から少し離れた所にあるここは滅多に人が来ることが無いため、授業をサボって寝たい時はここに来ている。のだが、目の前には溜息を付いている我等が生徒会長・キリエ・ローデディンスがおり、その手には購買で買ったのか一本の栄養剤が握られている。

 ……高校生には似つかわしくないな。

 とりあえず声を掛けた後隣に腰掛け理由を尋ねると、それで漸くオレに気付いたキリエは苦笑した後理由を語り出した。

 何でも、学園祭のことについて分からない事などを全て質問されるらしい。「どこに何があるのか?」「この作業には何人必要か?」「どうすれば効率良く動けるか?」等など、他多数の質問が全てキリエにされるらしく、律儀にもそれに全て答えているキリエは学園祭準備初日にして栄養剤が必要な程に疲れてしまった様だ。

 何もならないと思うが、とりあえず頭を撫でておいた。

「……ありがと」

「これくらいで良いなら、いくらでも出来るさ。にしても、会長ってのは大変だな。オレならストレスで吹っ飛ばしてるぞ?」

「流石にそれは出来ないわよ」

 それもそうかと納得し、他に何かして欲しいことがあるか聞こうとした所で地響きが聞こえてきた。同時に振り向くとそこには大勢の生徒が。どうやらこの地響きは生徒達が走ってくることによって生じているらしい。

 凄いな、生徒達。このまま突進なんてされたら絶対飛ばされる。

 まあ、そんなことは無く生徒達はキリエの前で急停止し、一気に質問をぶつけた。オレは視野に入っていないらしい。

「会長、これはどうすればいいですか!」

 そんな感じの質問を筆頭に、様々な質問が飛び交う。

 ハッキリ言って「それくらい自分達で考えろ」と言いたいが、どうせ聞かないからな、こういう手合いは。頼れる者が近くにいるとどうしてもソイツを頼るし、キリエは仕事が出来る分余計に頼られ、それは一種の崇拝と言っても良いかも知れない。

 そしてその中には必ずと言って良いほどおかしな奴もいる。例えば。

「どけ、雑魚共。この女は俺の女だ」

 たった今出て来た金髪の男とかな。

 以前少しだけメリアに聞いたことがあった。

 オレが学園高等部に入る少し前の、ある日の夕食の席でのことだ。

『今の一年、無名クラスでトップを張ってるのは、キリエとジュリアの二人なんだけど、その次の子が少し問題でね? なにかとキリエにちょっかい出してるの。『キリエは俺の女だ』とか言って……レスト、なんとかしてくれない?』

 まあ、学園の理事長が、その学園で生じた問題を生徒に何とかさせようとするのはどうかと思ったが、実際見てみると成る程確かに、これはかなりウザイ。

 なんと言うか、見るだけでムカツク。

 理由? ンなもんねえっつの。強いて言うなら「ムカツクからムカツク」んだよ。と言うわけで、今現在キリエに手を出そうとしているソイツの腕を掴む。

「レスト」

「何だきさ、イダダダダダ!! は、離せ!」

 掴んだその手に力を入れると途端痛がる金髪野郎。痛がっている様だし、離してやろう。

「く……貴様、俺が誰だか分かっているのか?」

「キリエとハーベストに負けてる奴だろ?」

「な!?」

「ぷ、フフ」

 腕を押さえながらの問いかけにオレが答えると、疲れた顔をしていたキリエがやっと笑った。やっぱ、女は笑っている方が良いな。

 ……ん? なんか前にも同じことを思った様な気が……まあ、いいか。

 そんなキリエを何か驚いた様な目で見る金髪及び周囲の生徒達。

「お、俺はキリエの婚約者だ!」

 そんな場の雰囲気を変える様に、金髪が言い放った。

 その言葉に何か言いようの無い苛立ちがこみ上げてきたが、不思議と頭は冷静だった。

「ふむ…………キリエ、正直に答えろよ?」

「え? あ、な――なんでしょうか、レストさん!」

 振り向きながら聞けば、キリエは真っ直ぐ立って少々上擦った声で言った。

 何か分からんが、従順になっている様だ。こうなると多分明日一日もこうなのかも知れない。この前がそうだったしな。

 そんな普段とは正反対の彼女を見て、金髪だけでなく周りの生徒達も唖然としているが、放っておく。

「お前は、この金髪をどう思っている?」

「何とも思っていません。前はつきまとわれていい加減にして欲しいと思っていましたが、今は気にしないことにしているので、結果的になんとも思っていません」

「興味はあるか?」

「いいえ。何とも思っていませんから」

「それもそうか。婚約者とやらについては?」

「この人が勝手に言っているだけです。私は勿論、両親だって認めていません」

「だそうだが?」

 言うと金髪は呆気にとられていた様な顔から一転、怒りの表情に変わった。鬼の様な形相、という言葉があるが、今のコイツはそれ程ではない。と言うより、今のギガンテスを見ればどんな顔でも生易しく見えるだろう。角を両方斬った時の怒り様は相当だったからな。

 あ、角結局何もしてねえ……ダガーにでも加工してもらうか? ……いいや、後で考えよう。

「ぐ、そんな訳ないだろう! この俺の婚約者になれるのだ! 嬉しくない訳が無い!」

「キリエは『何とも思っていない』と言ったが、この距離で聞こえないほどお前の耳は遠いのか? なら、今から保健室に行ったらどうだ? それか病院だな」

「クス、フフ」

 オレの後ろで小さく笑うキリエ。それに釣られてか、周りの生徒達にも笑う者が出る。

 そしてそんな周りの者達の様子に、金髪は拳を握り何を思ったのか。

「貴様! キリエを賭けて俺と勝負をしろ!!」

 等と言ってきた。

 まあ、断る理由もないし、キリエにちょっかいを出す奴を放っておくと後々面倒だからな、受ける事にした。

 何より。

「なんか他の男にキリエを呼び捨てにされるとムカツクんだよなぁ……」

「ぇ?」

 その理由を考えていたオレは、後ろからキリエに見られていることに気付かなかった。



「勝負はどちらかが戦闘不能になった時点で終わりだ。そう言えば、貴様のクラスを聞いていなかったな?」

「普通科・一年二組」

 現在オレと金髪、及び先程あの場にいた者と、ソイツらが呼んだ者。合わせるとほぼ全生徒が縦幅百㍍、横幅五十㍍の学園闘技場に集まっていた。勿論戦うのはオレと金髪。控え席には賭けの対象にされたキリエと聞きつけて集まったアキハ達がいる。そこにオルディスがいることに少々驚くオレだったり、なんだったり。

 そんな中、黄金の槍を構えた金髪がルールの説明、次に所属クラスを聞いてきたので答えると、返ってきたのは嘲笑。普通科だからと馬鹿にしているんだろうな。

「レストくん! 普通科の意地、見せてあげて!」

 控え席から聞こえてくるマートルのそんな声、そしてソレに便乗したであろう、全学年普通科クラス面々の声。

 そんなことを言われてもな……これは「普通科クラスの為」ではなく「キリエの為」の戦いなんだが。まあ、ついでで良いか。

「正宗・村正。久しぶりに兄妹共闘だ。暴れようぜ?」

 空間から兄妹剣である二人を呼び出し構える。一瞬金髪が驚いた様な顔をしたが、どうでもいい。

 今更だが、正宗と村正、鬼殺しと龍殺しは兄妹剣。デッドコールとアライブコールは姉妹銃だ。詳しいことについては気が向いた時に話すとしよう。

 二人に呼びかけると、久々に聞こえたような気がする声。

 いい加減、ハッキリと聞こえる様になりたいもんだが、こればかりは時間を掛けるしかないんだろうな。

「行くぞ!」

 考えていると、金髪が声を張り上げ右手を前に突きだした。そこには魔力が溜められている。

どうやらコイツは魔力が測定不能だった様だ。

 金髪はそのまま時間停止の魔術を掛けてきた。勿論対象はオレだけに絞られている為周りの者に影響は無い。

 まあ、オレにも影響はないけどな。

 時間停止と言っても、それは対象に自身の魔力が届かなければ意味が無い。今金髪が取った手法は掌に集めた魔力を対象に向けて打ち出し、当たった者の動きを止めると言う物だ。だからソレが届く前にその場を移動すれば喰らうことは無い。

「な!?」

 驚いている所を見ると、知らなかったのだろうか? あのハーベストでも知っていると言うのに。

「ちょっと、今なんか失礼なこと考えたでしょ!?」

 さて、なんのことだか。

 控え席で騒ぐハーベストを無視して金髪に接近する。

 時間魔術に頼ることしか知らないのか、金髪は動くオレに必死に時間停止を掛けようと躍起になっている。折角武器が良い物なのに、勿体ないことこの上ない。

 壊すのは可哀想だからな、蹴り飛ばそう。

「よっと」

「く!」

 と思ったが、流石は無名クラスと言った所か。それなりに戦闘経験を積んでいる様で咄嗟のバックステップで躱された。振り上げた足を地に付けると同時に踏み出して駆けだし肉薄する。

 そしてそのまま連続で斬り付ける。

「グ……貴様本当に普通科の生徒か!?」

「ハハハハハハハハハハハ!! もっと行くぞ!」

 金髪の口が動いているが一瞬でハイになった俺の耳には声なんか聞こえん。

 目下目の前の敵を斬り伏せるまではな。

 何度も何度も火花が舞う中、金髪は何とか横に転んで抜け出した。そして体勢を立て直し踏み込みの勢いを上乗せした突きを繰り出してくる。その槍に村正をぶつけて軌道を無理矢理逸らし、刃を水平にしてスライド。

 斬り上げる。ギリギリの所で躱す金髪。

 だが、少々無理な回避をした所為で上体が反れている。疎かになっている足を払い転倒させ正宗の峰を打ち付けようと思ったが、自身に時間魔術を掛け素早さを上げたのか。

 躱される。

 陪以上の速さになった金髪がそのまま突き、斬り上げ、薙ぎ払い、投擲。様々な手段を使って攻撃してくる。

 全て躱す。

 投擲された槍を掴み投げ返す。

 焦りながらもソレを防御魔術で防ぐ金髪。宙を舞う槍を跳躍することで掴んだ金髪の上に跳び、斜め十字に斬り付ける。が、頭上に掲げられた槍で防がれる。

 しかし勢いは殺せず四㍍程の上空から一直線に地上に向かって吹っ飛び激突。

 砂煙が舞う。

 そこから飛び出してくる一つの影。

 勿論金髪だ。

 槍を高速回転させながら力を溜めているのか、黄金の槍を仄かな紅い光が包み、槍その物の黄金と相俟って綺麗な輝きを放つ。

 やがて槍は深紅に輝き、金髪は恐らく最速であろう突きを繰り出してきた。

 余程気合いを入れているのか、口を大きく開けて叫んでいるようだ。

 だが、そんなことは関係ない。

 首を狙って放たれたソレを㍉単位の動きで躱し、驚愕に目を見開いている金髪の胴体に交差させた正宗と村正を振り抜く。

 勿論峰打ちだ。

 再度地面に向かって吹っ飛んでいく金髪。

 流石にもう一度ぶつかると後々大変だろうと思い、風を使ってクッションを作る。その上に落ちた金髪は白目を剥いて気絶していた。

「終わったな。と、コイツは返す」

 持ち主の手を離れ宙を舞っていた槍を掴み金髪の横に投擲する。

「サンキュ」

 ――……ぃ……ょ

「!」

 着地し礼を言うと、ほんの少し、本当に少しだが、確かに聞こえた声に驚く。小さく笑いながらもう一度礼二人に礼を言って空間に仕舞い、キリエを呼ぶ。

「キリエ」

「あ、はい」

 中央に立っているオレの元に小走りで駆け寄ってくるキリエ。その肩を抱き寄せる。

「ふえ!? れ、レストさん!?」

 当然困惑するキリエ。その顔は一気に紅く染まる。

「ここにいる全員。よく聞けよ?」

 異様な静寂が包む闘技場にオレの声が通る。

「キリエはオレの女だ。もし奪いたい奴がいるなら、いつでも掛かってこい。――但し」

 誰かの固唾を呑む音が聞こえた。

「確実に魂を一つ削る覚悟を持ってな?」

 最後の一言は殺気を込めて放ったからか誰も何も言わない。否、言えない。

 言われた本人であるキリエも何を言われたのか理解が追いつかない様でポカンとしている。

 控え席の皆も同じだ。

 唯一フーリアだけはよく分かっていないようで首を傾げているが。

「――…………ッ!」

 やがて、言われたことを理解したキリエの顔が紅を越えて朱に染まり、何故か目の端に涙が生まれていたが、ソレを拭うことはぜう口元を手で抑えた。

 直後、鐘の音が鳴り響き、四限目終了を告げ、キリエを賭けた決闘はオレの勝利と言う形で幕を降ろした。



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