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前編

結婚初夜。

私、大山桃果が『館桃果』になった記念すべき初日だ。

世の中の大半の女性も結婚初夜といえば、甘い甘いイベントなんじゃないかと思う。

『初夜』というその言葉自体が、甘い砂糖菓子みたいにキラキラと輝いているように見える。

でも、私にとってそれは当てはまらない。


私にとって今夜が初夜であり、現在地はベットの上。

もちろん結婚初夜ではあるのだが、今の私は傍から見たらかなり惨めだろう。


なんたって、私の夫になった人は右隣で、私に背を向けて寝ていたりするのだ。

これが事後だったりするなら、少しは私も譲歩しよう。

けれど、この人は私に指一本も触れないまま、「じゃあ、おやすみ」と呆気に取られる私を置いて、さっさと眠りについてしまったのだ。


確かに、朝から行った結婚式と披露宴は、お互いの招待客だらけで息をつく暇もなかった。

私だってヘロヘロに疲れているのだから、夫が疲れていないはずがない。


だけど、記念すべき結婚初夜に花嫁を置いて爆睡する花婿が、この世界の一体どこにいるというのだ。

夫以外にいるというなら、ぜひ教えて欲しい。

政略結婚ですら、これよりもひどくないだろう。

もしかして、夫――康仁は不能なのかと変な勘繰りすらしてしまう。


何たって、私たちは一度もそういう行為をしたことがないのだ。

例え、そんな雰囲気になっても、康仁が『婚前交渉はよくない』と突っぱねてしまう。

キスだって数えられるくらいしかしていない。しかも、優しく触れるバードキスだけだった。


だから、ようやく結婚にこじつけて、いざ勝負とこの日のために下着だって用意したというのに。

前日も期待と緊張で眠れなくて、私の方がよっぽど寝不足で今すぐにでも眠りたい気分だ。

けれど、もしかしたら康仁が起きて、私に触れてくれるかもしれないと思うと、眠りたくなくなってくる。


背中を向ける夫のパジャマの端を掴む。

クイクイ引っ張っても、微動だにしない。

やはり寝ているようだった。


「康仁……」


好き。大好き。だから、愛されたい。

触れて欲しい。そう思う私はワガママですか?


丸められた背骨のラインに指を走らせる。

それでも起きない夫にため息をついた。

変に緊張している自分が何だか馬鹿みたいだった。


そうしている内に、私も何だか眠くなってくる。

もう今日は諦めたほうがよさそうだった。


多分、明日になったら抱いてくれるだろう。

そんな期待を抱きながら、休息を求める体に、私は意識を手放した。



2009.01.05

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