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1章:暇を生きる少年

この俺如月 成は特に何をするでもなくだらだらと今を生きている若者だ。

どちらかというと落ちこぼれ。――いやどう考えても落ちこぼれだ。なぜなら今現在俺がいるのは教室。

んでもって同級生といえば進級する準備を終え残り少ない春休みを楽しんでいるところだ。

この時点で察しがつくだろうけど、俺は今進級するための単位をとる為にここにいる。

そして目の前には加齢臭がきついおっさん・・・

何が悲しくてこいつと2人きりで補習しなきゃならんのだ。


教室の窓からは鮮やかな桜の木が見える。

桜の近くには家族連れやカップルそして見たことのある顔ぶれが揃っている。

俺には一生春は来ないのだろうか。いやその前にまずは友達を作らないと。

俺にとっては全てが高嶺の花に思えて仕方ないのだが。

ちなみに昨年は誰とも話す勇気が出ず結局一人ぼっちだった。


「はぁ」


ついつい溜息をついてしまうときは誰にでもある。偉人でさえ溜息ぐらいしたことはあるだろう。

しかしおっさんはとてもめんどくさい奴だ。ほんと想像以上に・・・

俺の行動を一つも見逃さずにご丁寧に隣で顔を真っ赤にして待ち受けていた。

窓から目を離すと隣にいるおっさんと目が合った。今にでも怒鳴ろうと口があきそうに・・


「如月ぃぃ!!溜息つきたいのはこっちの方だ!だいたいおまえはなぁ――」


あーあまた始まったよ。おっさん節が。始まったらはいはいと聞き流すしかない。

いつにもまして今日は長引きそうだ。


「これで補習は終了だ」


「俺のおかげでお前もめでたく進級確定だ、感謝しろよ!!」


終わった終わった。何よりも苦痛な時間が終わった時なにもかもが素晴らしく見えてくる。

おっさんの顔を少しの間見なくてすむことが一番最高の神からのプレゼントだ。


「ありがとなおっさん」


「あんたの話は心に染みたよ・・思い出すだけで涙が出る」


もちろんでたらめだ。気持ち悪くて何回も吐きそうになった。

大人にはご機嫌取りが有効だって偉い人がいってた。


かばんに教科書を詰め込み学校にさよなら。少しの間お別れだ。

校門を出ると生暖かい風が頬を撫でた。

外は暖かいというより蒸し暑いレベルだ。春風さえぬるく感じる。

なんにしてもこの町は全てがオーバーなんだよ・・・


この夢樹ヶ原は魔石が開発された世界に誇れる町だ。

魔石っていうのはあらゆる不可能を可能に変えるふざけたような代物だ。

この石を肉体に埋め込むことによって、常識を覆すアビリティを手に入れることができる。

現代でも魔石が人体に及ぼす影響について議論されているが、今のところ害があったという事例はないらしい。まさにノーリスク・ハイリターンの魔法の石だ。ただしたまに魔石に適応しない人間もいる。

ほんとごくまれらしいが・・・その中の一人に俺が含まれる。

厳密に言うと、アビリティを持っている事は確認できるのだが、使うことができない。

しかもどんな方法でも体に残るはずの魔石が俺の体の中から見つけられないなんていうから驚きだ。

つまり俺は魔石なしでアビリティを持つ特殊な体質なわけだ。不気味でたまらない。

医者は畏怖を込めて魔法使いとか俺のことを呼んでた。

魔法使いなんてかっこいい響きだから悪い気はしなかったけど。


「おっと」


考え事をしていたせいか自分の家を通り越すところだった。

母さんの趣味でわけのわからない植物がたくさん置いてあるから目印としては申し分ない。

あの人の考えていることは読めない。毎日のように自分は美的センス溢れる天才だと豪語している。

悪いが聞いてるこっちまで恥ずかしくなってくる。


「ただいま」


いつもどうりの蚊の鳴くような声だ。声を出すたび情けなさすぎて死にたくなる。

俺があまり喋らない理由の一つだ。


「おかえり!!なるちゃん!今日のご飯はお母さん特製の愛情たっぷりアップルパイよ!!」


やけに騒がしいこの人は如月奈雪41歳趣味創作料理血液型B型そして馬鹿おまけに母親である。


「母さんが料理に特製ってつけるときはだいたいこの世の物ではないから食べたくない」


「さて寿司でも頼むかな」


実際この前特製苺ジャムをパンに塗って食べたら三途の川が見えた。

冷静に考えて、今回は丁重にお断りすることにする。


「もうなるちゃんったらひどーい!」


いちいち子供みたいな反応されるのですごく腹が立つ。このリアクションもいい加減聞き飽きた。


「はいはいわかったからちゃん付けだけはやめてくれ」


父さんがいればこの人が暴走するのを食い止められるのに。

父さんは仕事で世界中を飛び回っている。何をしているのかは今も謎だ。

それなりに稼いでいるのだろうけど。毎月莫大なお金を送ってくるし。


騒ぐ母さんを置いて居間へ向かう。廊下はわりと長い。

居間につくといつも通りテレビがつきっぱなしだった。電気代がもったいない。

全く母さんには困ったもんだ。俺の楽園ソファに寝転びながらニュースを聞く。もはや習慣だ。


「夢樹ヶ原では最近金属の盗難が相次いでいます」


「不審な人物を見かけたらお近くの交番までお願いします」


金属なんて盗んで何をするのやら。


「空き地に秘密基地作ろうとしてる小学生かよ」


独り言を呟き少し目を閉じると、急に睡魔が襲ってきた。少し寝るとするかな。

俺はゆっくりと夢に落ちていった。


体が妙にだるい。ゆっくりと眠ろうと思っていたのに早く目が覚めてしまった。

時計は夜8時を指している。

少し外の空気を吸ってこよう。


「あれ」


母さんの姿が見えない。友達と飲み会にでも行っているのだろう。


「心配なんてしてないぞ」


誰に言い訳してるんだ・・俺。

お気に入りのスポーツシューズを履き久しぶりに夜の町に出た。

夜の町は不気味な程静かだ。近くの家から灯る明かりがとても綺麗だ。

ふと視線を前に向けると、男が立っていることがわかった。

背丈は俺と同じくらい。それか少し俺より小さい程度だ。

暗くて顔を見ることができないがおそらく年齢も近いだろう。


「俺になんか用でもあるのか」


「俺のクラスメイトだったやつか?」


「俺は誰も覚えていないがな」


俺はてっきりクラスメイトだった奴が偶然通りがかって「よう」みたいな雰囲気だと思った。

しかし違った。この男は普通の人間と違う匂いがする。


「よう探したぜ・・」


「魔法使い!!!」


俺はとっさに避けた。避けたというより、相手がわざと外したとしか思えない。

俺が狙われる理由はわからんがここから逃げることが最優先だ。


「なぁに――ほんの挨拶程度だ」


「次は本気で当てるぞ」


相手は俺を甘く見ている。大きな油断をしている。

今なら何か手を打てば逃げるチャンスが生まれるかもしれない。

とっさに周囲を見回すと家の外に並ぶ趣味の悪い植物が目に入った。

あれだ!!!


「死ねぇ!!」


俺は植木鉢を思いっきり相手に投げつけた。何も考えなしに狙ったわけでもないが命中した。

男はよろめいた。


「てめぇぇぇ!!!殺してやる!!ぜってー殺す!!」


恐ろしいうなり声を上げ男が立ち上がろうとしている。俺は留めにもう一つ植木鉢を投げつけた。

当たったかも確認しないうちに男の横を駆け抜けより遠くを目指す。


「ざまぁみろ俺はかけっこは結構得意なんだよバカヤロウ」


走り続け、気づいたら昼間でも人通りが少ない工場が立ち並ぶ工業区にきていた。

久しぶりに全力で走った。謎の達成感だ。家の周囲の掃除は明日にしよう。

今はこれからどうするのか冷静に考えるときだ。


「殺す殺す殺す殺す殺す!!八つ裂きダァァ!!」


キチガイ染みた奇声の先を見るとあの男が立っていた。


「キィィィィ」


男はどこから出しているかわからないような声を出した。

そう・・まるで金属同士をすり合わせたときに出る嫌な音のようだ。

みるみるうちに男の元に周辺の金属が集まってくる。

狂ったように男が両手を挙げると、金属も生き物のように宙に浮いていった。


「これが俺のアビリティ――付喪神だ」


俺はここまで強力なアビリティを見るのは初めてだ。まるで兵器だ。

圧倒的な力だ。敵うわけがない。あれはもう人ではない。


「死ねよ魔法使い!!ヒャハハハハハ!!」








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