序章:戦いの始まり
序章:戦いの始まり
空を覆いつくした金属がまるで雨のように降り注いでくる。
魔石が開発されてから何が起こっても不思議ではない世の中になった。
しかし――ここまで理解不能な状況は初めてだ。そしてきっと最後だ。
こんな時映画とかだと神に祈ったりするものだ。あいにく俺は神なんぞ信じていない。
さすがにこの状況ではあきらめるしかないだろう。
余分なことを考えている内に金属はもう間近に迫っている。その距離およそ20メートル。
「如月 成17年間のごく普通の人生もここでお終いか」
「せいぜい葬式くらいは盛大にやってくれよ」
我ながら情けない呟きをしてゆっくりと目蓋を閉じる。
おそらくこれが俺にとっての最初で最後の祈りだ。
少年の生まれ育った町は今夜も変わらず静寂に包まれている。
もちろんここ工場地帯周辺には人影はない。
別にこれからだって何の特徴もないただのおちこぼれだ。ここで命を失うとしても後悔はない。
「知っているか、神は落ちこぼれに厳しいのだ」
俺の口から発せられたのは17年間慣れ親しんだ自身のものではない。
「説明は後だ」
「とりあえずこの私に君の命を預けてみないか?」
「ただし了承した場合、君の体の安全は約束できない」
「一部は壊れてしまうかもしれない」
俺は今、最高の怪奇現象に立ち会っている。
今までの人生の中では味わえなかった最高の気分だ。
恐怖と好奇心とがせめぎ合い、高ぶる鼓動を止められない。
それともあまりの恐怖に頭がおかしくなってしまったのではないか。
「大丈夫、君の頭は正常だ」
心の中も読まれている。いやこの男は今俺そのものなのだ。
しかし男の考えていることは俺にはわからない。これは理不尽ではないのか。
だが既に俺の常識を超えた世界だ。文句を言える立場ではない。
ついに金属は残り5メートル程に迫っている。
「さあそろそろガラクタを片付けるとするか」
俺は一言も了承した覚えがないが。今回は返答せずに素早く男は身構えた。
人事みたいだけどこれは俺の体なんだよな・・・
いきなり狙われるわ、わけのわからない男に体乗っ取られるわで忙しい日だな。
もちろん声なんて出せない。今の俺は俺であって俺じゃない。
大地を蹴り上げ、砂埃と共に俺の体は宙へ舞った。
そう――桜の舞う凶夜はまだ始まったばかりだ。