表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

04 - 大剣

「友には悪いけど、アイテムを使わせてもらう」

 今の今まで友の相棒を使いデュエルだけをしていたわけではない。プログラミングで改良もしていた。友のアイテムは、彼の相棒用に最適化したものだからブルーには使えない。

 だけど秋庭紅葉という少年は得意なものが二つある。

 一つ、昼寝。

 一つ、ハッカーと呼ばれるほどのプログラミングスキル。

「今から解析、逆アセンブル、そして再プログラミングしてから即コンパイルする」

 紅葉はメインブラウザに映る相棒を見据えて言う、

「五分……いや、三分だけ耐えてくれ!」

『イエス、マイ・パートナー……』

 刹那、ポケットからUSBメモリを取り出しスマートフォンに接続すると作業の効率性を考えて誤作動の事など考えずにエアーディスプレイ機能をON(オン)にすした。空中に幾つもの画面を展開させ、その中にある「ブルーのステータス画面」と「友のステータス画面」を最前に持ってくる。

――解析開始っ!

 ブルーの能力を上から下まで細かく見て頭に入れていく。次に友の相棒のステータスに視線を移し。今やっているのは友の相棒が使用している装備又はアイテムの中からブルーにも使える物を選ぶことだ。装備又はアイテムと相棒には相性というのがあり初期能力と基底構造(モデル)で何が良くて何が悪いのかが分かる。ブルーは猿を、厳密にはリスザルを基底構造(モデル)とした回避に優れている相棒。つまり「重い」装備は却下。

(時間もあまり無い。大幅に能力をアップしてくれるアイテムは控えて、おまけ効果として能力を向上してくれる装備品をつけよう。なら小太刀にするか?)

 メインウィンドウを横に出し視線だけを送る。

 画面内ではブルー目掛けて異型は落ちている瓦礫を拾い投げていた。

 ブルーは何とか回避しているようだが、

(ムチャクチャな戦闘力じゃねーかよ……しかもブルーの攻撃は通じない。小太刀で太刀打ちできるとは思えない。回避を潰すことになるけど大剣にする!)

 相性的に大剣は悪い。攻撃力はあるが小柄かつ回避型のブルーには重過ぎる品物。だけどいざという時に防御に使えるし、なにより硬い体を突き破れるのはこれしかない。

 決めるや直ぐに友の相棒から大剣を外し、キーボードで以前作成したプログラムのショーカットを起動し大剣の逆アセンブルを開始する。吐かれた結果に書かれた人間に読める機械語を見ながら、ブルー用に最適化するためにプログラムを組み上げる。指がキーボードの上を走る。双眼は逆アセンブルで出てきたコードと入力されていくプログラムコードを行き来しておりキーボードを全く見ない。更にキーを叩く手の動きは止まらない。秋庭紅葉がハッカーと呼ばれる程のプログラミングスキルを持つ能力の高さと技能。高速なマルチタスク処理能力。見る、考える、動く動作を同時にやってのける。

(よし、出来た!)

 コマンドプロンプトを起動させ組み上げたプログラムコードをコンパイラを用いて機械語に変換する作業・コンパイルを実行する。

 紅葉がした最適化とは大剣の大きさをブルーに合わせ重量を軽々とは言わないが両手で振り回せるように調整した。

(待ってろ、ブルー! 今送る)

 だが。

――コンパイルエラー!

(な……っ! ……どこで間違えたんだ?)

 コンパイルエラーとはプログラムコードを実行可能ファイルに変換する際に発生するエラーのことで、記述ミスなどが原因で生じ、このエラーがあるうちは実行可能ファイルを、つまり大剣というアイテムプログラムを生成することはできない。それに普通ならエラーが発生すると、メッセージとしてエラーが発生したファイル名、行番号、原因となった記述個所などを出力してくれる。

 そう、普通ならば。

(何もでないって、これじゃわかんないよ……っ!)

 プログラマーは出力されたメッセージを見て当該個所を修正しエラーを取り除いていくのだが「エラー」だけだと何を直せばいいのかわからない。

 瞬間、

 ゴオオ! 轟音が紅葉のスマートフォンから響いた。その強烈な音を聞き背筋が凍りつくような感覚になり、メインブラウザを最前に持ってくる。

「ぶ、ブルー……っ!」

 血の気が引いた。

 ところどころ外見情報(モデリング)は崩れ落ち。

 体から切断された左腕と左脚は地面を転がり。

 そして、胸に開けられた(あな)

(や、やめて……)

 俯けに倒れているブルーに向かい止めを刺そうと一歩ずつ足をすすめる異型。

(たす、けなきゃ……そ、そうだ、は、はやくプログラミングを……)

 もう一度、キーボードの上に指を走らせる。記述がおかしいところを見直して書き直す。

(とにかくやるんだ! やるんだ! やるんだ!)

 小学の時からいつも一緒だった相棒(ともだち)

 漸くお互いの願いが叶ったのに……紅葉は歯を食いしばる。

 異型とブルーの距離が五メートルを切ったと同時にプログラムを見直しを終わらせ再コンパイルする。

 だが。

――コンパイルエラー!

「な、なんで成功しないんだよ!」

 拳を強く握り締め、

「くっ……なんて、僕は非力なんだ……」

 体を震わせ、

「でもな」


――login


 瓦礫に埋まっている自分の体を外へと引きずり出す。

(ハァ、ハァ……こう、よう君……)

 現実世界(リアルワールド)で勝利の鍵である装備品をプログラミングしているパートナーの名を呟く。

 視線を自分の体に向け瞳に映る視覚情報はボロボロな基底構造(モデル)だった。剥がれ崩れ落ちた外見情報(モデリング・テクチャ)。胴体から綺麗に分裂された左腕と左脚は地をコロコロと転がり、胸に開けられた丸い孔。自身の電子情報を読み取り痛みタスクが多く貯まったせいで二本足で満足に歩くことも二本の腕で攻撃することも出来ないと悟る。まあ、すでに足と腕を、それぞれ一本ずつ失っているからダメージが無くても満足に動けるはずはない。次に少しずつ迫り来る脅威(てき)へと視線を動かす。デタラメな強さを持つデタラメな姿をした三次元に現れた二次元の影こと異型は獣の王者の如く獲物に向かい歩を進める。

 異型の姿が大きく瞳に映るたびに恐怖の二文字が胸の奥から溢れ出る。

 勝てない。

 負ける。

 殺される。

 逃げたい。

 でも、逃げられない。

(紅葉君が何とかしてくれる……紅葉君なら)

 信頼。パートナーを信じる心。

 ブルーは秋庭紅葉という少年を信じているからこそ恐怖心に負けず脅威に立ち向かうことが出来るのだ。

――刹那。

 ドン!! 見下す視線を送りながらブルーの目の前に立つ異型。

 ブルーはそれを見て、青くなる。

 その一瞬の驚愕をついて異型から拳が放たれた。

 防御できる力がなければ回避できる力も残っていない。

(こう、よう君……!)

 反応も出来ずままブルーは放たれたその拳を見る。

 ゆっくりと迫る拳が、当たるか否か瞬間。

――閃光が走った。

 ブルーと異型の目の前で、間で緑色の光が輝く。

 放たれていた拳が光に触れて文字通り消滅した。

 痛みのせいか異型が喚く。

 一体何が起こったのか? ブルーには分からない。

 ただ。

 光が異型を傷つけ。

 消えたとともに現れた大剣。

『使え、お前の大剣(ぶき)だ』

 どこからともなく聞き慣れた声が聞こえた。

 ブルーはその声を聞き自然と頬が緩む。

「紅葉君!」

 パートナーの名を呼び、大剣の柄を両手で握る。

 凄い。

 心と身体が軽くなっていくのを感じる。

 蓄積された痛みタスクが一個ずつ取り除かれる。

 左腕と左脚が元に戻り、胸に開かされた孔が閉じた。

 完全回復(ヒーリング)

『空へ』

 うん、と強く頷き立ち上がり大剣を空へと掲げた。

 瞬時にブルーの身体は緑色の光に包まれ基底構造(モデル)が変化した。


-----


 上下左右、黒一色に染まった空間。否、空の上で異型(ウィルス)相棒(ヒーロー)の戦いを最初から最後まで眺める存在がいた。

 その存在は大剣を握り姿を変化したブルーを見て口元をニヤリと歪ませる。

 空へ掲げた大剣から発せられた光に包まれ基底構造(モデル)猿型(リスザル)から人型(ヒューマン)へと変わったブルー。

 西洋の銀色の鎧、フリューテッドアーマーを全身に纏し青年。猿の尻尾に、猿の仮面のようなヘルム。そして両手に持つ大剣。

「フフフ、楽しい楽しいゲームの始まりだ……勇者」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ