最終章
「ただ、どうなんだ? サワムラが本物じゃないとして……」
「そこが困ったところなんだよ。誰も……困らないんだ。法律的にも問題ないんだろ? 」
一哉はソファに寄りかかってアダムを仰ぎ見る。アダムは首を傾げてしばらくネット上を検索しているようだった。
「――わずかに、個人情報保護法にひっかかるかなというところか」
「それくらいだよねぇ……」
一哉は呻いた。通報するレベルにもない。報告書を本部へ送れば終わりの次第だ。けれど何だろう。このもやもやとした気持ちは。
「気にするなんてらしくないな」
アダムが一哉に手を伸ばして、軽く顎に触れた。一哉は何だか力が抜けて、アダムにされるがままに目を閉じる。頬をなで、目尻に触れてくる感触が心を落ち着かせる。
「甘えてんな」
鼻で笑って、アダムが一哉の頭を軽くかき混ぜてから離れていく。その後ろ姿はこの10年変わらない。一哉がどうにかしない限り、アダムはずっとこのままだ。一哉はソファの背から乗り出して声で追いかける。
「ねぇ、アダムの外見を変えようとすれば、いくらかかるんだっけ? 」
「なんだよいきなり」
アダムがインスタントコーヒーの瓶を片手に振り返る。どうやら落ち込んでいる一哉のためにコーヒーをいれてくれるらしい。ミルクを手にこちらへ見せてくるので、入れてとお願いする。
「いや、一哉が年を取った時にアダムが若いままだとちょっとなって考えちゃって。……別にゲイカップルに見られるのは良いんだけどさ。あまり年の差があるのは……」
アダムは余計に怪訝な顔をする。
「骨格変えなくて良いなら、そんなにかからなかったんじゃないか確か。 ――30万くらい? 」
「30万……」
サワムラがシャオにかけた額の半分。一哉ら世代で言えば年金の半分。人生の伴侶に一時的にかかるお金だとすれば妥当なのかもしれない。けれどけっして安くはない。自身で稼いだ金をつぎ込み、ロボットを伴侶に選んだサワムラのことを考える。
コーヒーの良い香りが漂ってきた。アダムは一哉の前にカフェオレを、自分の前にブラックコーヒーを置いて目の前のベッドへ腰掛けた。もちろんアダムはコーヒーを飲まない。ただ一哉が常に彼の分も一緒に淹れているので、彼もいつからかそうするようになっただけだ。
「……どうした? 」
ローテーブルへ腕を伸ばし、コーヒーを手に取るアダムが首を傾げる。アダムはコーヒーを飲まない。ただ嬉しそうに香りを嗅いで、唇を湿らせる程度に口に運ぶだけだ。




