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お義姉様ちょうだい? お父様からもらいなさい。わたくしは忙しいのです。

誤字職人の皆様に感謝を!

いつもありがとうございます!

 運悪く事故死したお母様の葬儀の七日後。


 喪が明けていないどころか、まだまだ遠方に住んでいる友人知人、親族が遅ればせながらの弔問にやってきている最中だというのに、お父様が愛人とその娘を連れてきた。


 愛人の娘は実に愛らしく可憐。きゅるんとした大きな目、淡いピンク色のふわふわな髪、小柄だけれど、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる体。


 ……何かのラノベのお花畑ヒロインになりそうね……、なんて感想を抱くわたくしは元日本人の転生者。


 ま、それはともかく。


 舌足らずで間延びした声で「クリスティニアお義姉様のその指輪、素敵ですねえ、良いなあ、欲しいなあ」と上目遣いを向けてきた。


 うわぁ、初対面でずうずうしい。


 お父様もお父様で、愛人の娘を溺愛しているからわたくしに向かってこう言うのだ。


「クリスティニア、義妹になったリネットが欲しいと言っているんだ。指輪くらい渡してやれ」



 はい、ラノベでおなじみの「欲しがり義妹」展開ですね。

 転生前、日本人だったわたくしは、その手の話を好んで読んでいたわ。

 だから、予習はバッチリだ。


 笑顔を浮かべて即座に対応。


「あら、お父様ってばドケチですわね! ご自分の娘に新しい宝飾品を買い与える程度の甲斐性もお持ちではないのですか⁉」


 わたしは大げさに嘆いてみせた。そして、リネットとかいう娘の手を取り、にこにこ顔で圧力をかける。


「他人の手垢のついた古くて時代遅れの装飾品を欲しがるなんて、遠慮しているのではないの? 本当はご自分の髪と瞳の色に似合う新しいものが欲しいのでは? それにわたくしの指輪は、あなたの指には入らないでしょうに。自分の指にはめられない指輪なんて、本当に欲しいの?」


 触った感覚からして、わたくしの指はあなたの指より細いわよ……と言外に伝えておく。


「は? え、ええっと……」


 リネットとやらは戸惑い顔だ。


 愛人の娘なんかに渡すものですか……とか。

 これはわたくしのものよ……とか。


 拒絶の態度をわたくしがとって、リネットは「お義姉様は、アタシを受け入れてはくれないんですね……」なーんて、可哀そうな義妹になるつもりだったのでしょう。


 ふっふっふ。そうはいかなくてよ!

 だいたいねえ「義妹」なんて、お父様が勝手に言っているだけで、戸籍上は無関係の他人ですからね!


「ねえ、愛人様……失礼、クリスタ様だってそう思うでしょう? 可愛い娘に他人が使い古したものを与えられるなんて、冗談じゃないって、正直におっしゃっていいのよ! 娘が可愛いと思うのなら、髪と瞳の色に合わせた最新の流行のものをきちんと買い与えてほしいって!」


 リネットの手を握ったまま、私は愛人……クリスタ様に笑顔を向ける。

 クリスタは「あの……、その……」と口をもごもごとさせている。


「あらあら、お二人とも! なーんて奥ゆかしいのかしら! 正直に言っていいのに! わたくしのドレスや宝石は、みんなわたくしの濃紺色の髪と翡翠色の瞳に合わせて作らせたものなの。お二人は淡いピンク色の髪と瞳なのだから、わたくしのものなんて似合わないわよね! だから新しいものを用意してちょうだいって! 他者のお古をもらうなんて、平民のようだって! 自分に似合うものをお父様に買ってほしいって御主張なさいな!」


 ブイブイと飛ばして言ってから、わたくしはリネットの手を放して、パンパンと手を叩く。


「ケヴィン!」

「はい、クリスティニアお嬢様」

「お二人はお父様の妻にお父様の娘なのだから、二人にかかる費用は当然お父様が負担するべきよね」

「もちろんでございます」


 我がドルーズ家の執事であるケヴィンは当然だとばかりに深く頷く。

 けれど、お父様は「何だと⁉」と顔を青くして叫んできた。

 あー、うるさいわねえ。中年男が唾を飛ばして怒鳴るのは美しくないわよー。


「大きな声を出さないでくださいませお父様」

「何故! 儂の私財から賄わないといけないのだ!」

「だって、お父様もお二方もドルーズ侯爵家とは無関係ですもの」


 当然でしょうとわたくしが言えは、ケヴィンも壁際に控えている我がドルーズ侯爵家の使用人たちも、一様に頷いた。


「は? 無関係?」


 クリスタ様とリネットがきょとんとした顔になるけれど、無視。

 うるさいお父様をブイブイ責めるわよー。


「お父様は新しく迎えた妻と娘の身支度を整えるだけの金銭も用意できない貧乏でしたのね! 今までお母様がお父様にお手当として差し上げていたお小遣いは何に使っていらしたの?」


 わたくしはわざとらしくこてんと首を横に傾げる。


「これまではお父様の衣食住はすべてきちんとドルーズ侯爵家で賄っておりました。その上好きに使っていいとお母様からお小遣いを受け取っていたでしょう? それ、全部使ってしまったの? 計画性のない人なのね、元お父様は」

「はぁ? 元とは何だ! 儂はお前の……」


 わたくしは怒鳴ってきたお父様を手で制す。黙りやがれこの野郎ってね!


「もうお母様はお亡くなりになってしまったし、わたくしが貴族学園を卒業した時点でもうとっくに、わたくしがドルーズ侯爵を継承しておりますし……」


 言いかけたところで、クリスタ様とリネットが同時に声を上げた。


「え、え、え⁉」

「お父様がドルーズ侯爵ではないの⁉」


 あら……、知らなかったのかしら?


「ええ。前ドルーズ侯爵はわたくしのお母様。現ドルーズ侯爵はわたくしよ」

「じゃ、じゃあ……、お父様は……?」

「前ドルーズ侯爵の元伴侶、現ドルーズ侯爵の血縁上の父親だっただけよ。つまりは入り婿。お母様がお亡くなりになった今では単なる居候に過ぎないの」


 わたくしはきっぱりと言った。


「はあ⁉」

「い、居候⁉」

「お義姉様っ! お父様に向かって居候なんて、酷すぎです!」


 わたくしはにっこりと微笑みます。


「だって、書類上はお母様とお父様の離縁は成立したし。わたくしとの親子関係解消届も処理済みだし。ドルーズ侯爵からお父様のご実家の子爵家に、既にお父様の戸籍は移されているの。だから、お父様はご実家のカインズ子爵家の令息に戻ったの」


 だから、血縁上の娘だからって、わたくしがお父様を扶養する義務はない。


「何だと⁉」


 お母様は生前から、クリスタ様とリネットなんていう、愛人と娘がいるのが分かった時点で、お父様と離縁しようと考えた。


 で、お父様が「あれこれ買わせてほしい」なーんてと言ってきた時に、「じゃあ、こちらの書類にサインをしてね」ってテキトウに渡した書類の中に離縁届も紛らせていたのよねえ。


 流石お母様。


 でも、お父様にバレないように書かせたのは離縁届だけじゃない。

 わたくしとお父様の親子関係解消の申請書も書かせたのよ……。素晴らしいわお母様。尊敬申し上げる。


 で、すんなり離婚……に向かうはずが、あれこれ手配している最中に、運悪く事故死してしまったの。ああ、なんてかわいそうなお母様……。


 もうすぐお父様を追い出して、母子二人で人生楽しむ予定だったのに……。新しいロマンスだって、きっとお母様は期待していただろうに。


 ざまぁ直前で死ぬなんて、心残りだろう。


 だから、この七日間、お母様の突然の死を嘆くより、わたくしはケヴィンを筆頭に、我が家の使用人たちと共に、全力でお父様排除! のために奔走していたのだ。


 他の使用人たちも協力してくれた。

 今は、お父様の私室を片付けている最中。そろそろお父様の部屋の中は空っぽになったかしらねえ。


「だってもうお母様とお父様の離縁届、わたくしとお父様の親子関係解消届も貴族院に提出して、許可もいただいてしまったもの」


 最速で処理してもらうために賄賂とか根回しとかもがんばったのよー。うっふっふ。


「は、はあ⁉ 何だそれは⁉」

「つまり、血縁はどうであれ、わたくしとお父様は戸籍上はすでに他人。お母様とも他人。お父様はドルーズ侯爵家から除籍されております。つまり、無関係。その無関係の侯爵家に居るのだから、単なる居候」


 お父様は、お母様がお亡くなりになったことを喜んで、愛人とその娘でこのドルーズ侯爵家を乗っ取って薔薇色の人生を送る……と画策していたのでしょうね。


 そうは問屋が卸さないってね!


「せめてお母様の喪が明けるまでは、居候として我が家に滞在していただいても……と考えてはおりましたが。けれど、お父様が愛人様とその娘をこの家に連れてきてしまったでしょ。さすがに財源豊かな我がドルーズ侯爵家と言えども、無関係な居候を三人も面倒を見るのはねえ……」


 ぶっちゃけ面倒。

 しかも血縁上の父というだけで、まるで侯爵夫妻とその娘のようにふるまわれては……、冗談じゃない。

 金がかかる寄生虫三匹を相手していられないの。

 だって、わたくし、これからは愛に生きるつもりなのだから!

 あ、別に恋愛脳の阿呆じゃないわよわたくし。

 だって、ドルーズ侯爵家の直系の血をひく者がわたくし一人になってしまったのだもの。

 貴族である以上、血を増やすのが急務なのよ。

 つまり、わたくしが子を産まないといけないの!

 元父親にその愛人と愛人の娘なんて、ストレス満載な状況で、大事な子を産んで育てられますか!

 環境を整えて、レッツ子づくり!

 まあ……、旦那様どころか婚約者さえいない現状では、子作りまでの道のりは長い……のよねえ……。


 婚約者くらいさっさと見繕いたかったけれど、女侯爵となるわたくしの元に届けられるお見合いの釣書は、ホントこちらを馬鹿にしているのか! と思えるほど、無能な相手ばかり……。


 まともな人材寄越しやがれ!


 と、まあ、それは後々。


 まずはお父様の排除よ!


 使用人たちに合図をして、わたくしはスタスタと玄関ホールへと向かった。


 お父様と愛人様とその娘は、男性使用人たちが手を引っ張って、半ば無理やりに玄関ホールに連れてきた。


 玄関ホールには、街で借りてきた馬車と御者。その馬車の中に大量のトランクを運び込んでいるところだった。


「準備はできていて?」


 わたくしが使用人に聞く。

 使用人の一人が「あとはトランクを二つ積み込むだけでございます」と返事をした。


「急がせてしまってごめんなさいね」


 使用人に告げて、わたくしはお父様と愛人様とその娘に向かってにっこりと笑う。


「さ、お三方も馬車に乗ってくださいね。荷物はすべて差し上げますので、売ればそれなりのお金になりますわ。手切れ金代わりですから、お好きになさってね」


 お父様の私物、お母様がお父様に買い与えたもの。それをすべてトランクに入れさせて、馬車に詰め込んだ。


 売ってお金に換える手間が面倒だからね。ご自分でなさってねお父様。


「それでは元お父様、皆様、ごきげんよう。ドルーズ侯爵家に戻って来ても無駄ですから、その荷物を売ったりなんだりして、親子三人仲良く暮らしてくださいませね」


 ちなみに馬車の御者には、お父様のご実家である子爵家に向かえと言ってある。

 子爵家のほうで受け入れてくれるかどうかはわからないけれど、一応、事情を説明した手紙も御者に預けた。


 事情。つまり、入り婿のクセに、愛人を作り、愛人との間に娘まで作り。前侯爵であるお母様の死後、愛人と娘をドルーズ侯爵家に連れてきて、ドルーズ侯爵家を乗っ取るつもりだったので、お母様との離縁もしたし、わたくしとの親子関係も切った。お父様を追い出す前に、運悪くお母様が事故死してしまったけど、手続き自体は生前のお母様が行ったこと。だから、お母様が死んだとしても、離縁届も親子関係解消届も無効にはならないこと……などなどね。


 子爵家でお父様と愛人と娘を受け入れるかどうかは……まあ、あとはあちらの判断よね。こちらは無関係よ。ほーほほほ!


「さあ、ゴミの排除は済んだわ!」


 お母様がお亡くなりになったのは悲しいけど、浮気者のお父様というゴミを排除できたのは気分爽快。

 きっとお母様も草葉の陰で喜んでくださっていることでしょう……南無南無、合掌。


「ようございましたね、クリスティニアお嬢様」

「ええ、ケヴィン。これでお母様も安心されるでしょうし、お母様の喪が明けたらわたくしも婚姻を結んで新たなドルーズ侯爵家を作っていけるわ!」


 わたくしはケヴィンをじーっと見つめる。

 お母様の代から我が家の執事をしてくれていたケヴィンはわたくしとの年の差は七歳。

 ちょっと離れているけれど、十も二十も離れているわけではないし、許容範囲だろう。

 そこそこイケメン。実務能力は問題なし。信頼性もあり、誠実な人柄。


「あのね、ケヴィン」

「何でございましょう、クリスティニアお嬢様」

「執事の仕事と兼業して、わたくしの夫もするつもりはない?」

「お、お嬢様……!」

「夫が駄目なら、閨を何度か行って貰って、わたくしに子を授けてもらうだけでもいいんだけど……」


 変な男を捕まえて、婚姻して、お父様のように浮気して、面倒な騒動を起こすよりも、長年我が家を支えてくれた実直な執事と結ばれる方がわたくししあわせになれると思うんだけど……。


「揶揄うのはお止めください……!」

「あら、わたくし真面目にプロポーズしているのだけれど」

「プロポ……っ!」


 あら、ケヴィンたら、耳まで真っ赤だわ。

 うふふ……、年上なのに、なんだか可愛らしくて、思わず手を伸ばして、ケヴィンの黒髪を撫でてしまった。


 元日本人だからか、わたくし、サラサラの短髪黒髪、しかも切れ長の一重の目に心惹かれるのよねえ。



 さて、どうやってこの真面目系執事をわたくしの旦那様にしてみせようか。

 うふふ、うふふと、心の中でハートマークを飛ばしたわたくしだった。






 終わり



お読みいただきましてありがとうございました!


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