オフィシャル・ゾンビⅡ EP02
挿し絵がことごとく失敗、描きかけで終わってます(^_^;)
こんなんならないほうがマシ?
オフィシャル・ゾンビ
‐Official Zombie‐
Ⅱ
Episode-02
日下部からゾンビの仲間を紹介されるにあたり、はじめの言葉にあったとおり、相手はそれなり見知った人間たちであった。
親しくはないが、同じ業界人としての面識はある。
じぶんとおなじお笑い芸人のコンビ、漫才師の先輩さんたちだ。
名前はバイソンで、確か学生時代からの友達同士だったような。
ぺこりと頭を下げて当たりを障りのない挨拶したら、向こうも何食わぬさまで言葉を返してくれた。果たしてその腹の内はどうだかわからないが――。
どちらも関西出身のおじさんたちの内、ネタを書いているはずのボケ担当のやたら渋い顔のおじさんが口を開く。今となってはもう聞きなじんだ関西弁だ。頭の中の引き出しからどうにか相手の名前を引き出すに、手前の渋くて濃いおじさん顔が東田で、奥の愛嬌のある顔つきしたのが津川だとかろうじて思い出す新人ゾンビの鬼沢だ。
「ああ、おはよう、鬼沢くん。気分はどう? ケガしてはったんやろ、そやったらぼくのアレは、ちゃんと役に立ってるんか? 見たとこ元気そうやから、役には立ったんやろうけど。じゃ、返してくれる?」
番組収録の時と同様、普段からとかく落ち着いた真顔で、内心の思いを滅多に表情に出さない東田さん。言うなりこの右手を出して、何でも顔色に出す素直な後輩の芸人くんにそう何事か問うてくれる。
えっ? えっ?? と内心の狼狽ぶりがあからさまな鬼沢に、相変わらずのすまし顔した日下部が、横からしれっとフォローを入れる。
「ですから、アレです……! いまさっき回収すると言ったもの、鬼沢さん、持ってますよね? それです。それを元の持ち主の東田さんに返してあげてください。でないと次のものがもらえませんから……」
「えっ、アレ?? 待って、あのクリスタルって、実は東田さんのものだったの? なんか、イメージに合わないんだけど…………これでしょ??」
言われてはじめぶったまげた顔つきしながら、みずからの懐から濁った灰色の水晶石みたいなものを取り出す鬼沢だ。
それをほれと手を差し出してくる先輩のボケ芸人さんにおっかなびっくりに手渡す。
すると何食わぬさまでそれを手にした東田は、おのれの手元をしばらく見つめてから、きょとんとした鬼沢を見上げる。真顔で。おまけに後輩を目の前にして、その相手の顔つきがさらに呆気にとられるような意外な挙動をしてくれるのだった。
「ん、イメージは関係あらへんのとちゃう? ふうん、しっかりと回復の効果は使い切っとるんやな。ええよ、そやったら、ああんっ、んんっ……と!」
「えっ、え? 飲んじゃった!? な、なんで??」
言えばカエルかトカゲかみたいな無表情な顔つきで大きな口を開けると、そこに例のものをポイッと放り込んで一息に飲み下す東田だ。
ギョッとなる鬼沢は腰を浮かせて大きくのけぞってしまう。
「た、食べちゃった……! それって食べ物だったの?? いやいや、ただの固いカチカチの鉱物だったよな、無味無臭の??」
顔を引きつらせる鬼沢だが、周りの面々は何とでもなさげなさまなのに、自分も必死に心を落ち着けるよう努める。
これに内心のパニックを見透かしたかの先輩芸人は、あくまでしれっとした口ぶりで言ってくれた。
「ええんよ、身体に取り込んだところで害はないし、ぼくの場合は特別や。もとからこの身体の一部やったさかいに。そやからこうしてまた体内に取り込んで、ふたたび再生したものを取り出すんよ。その繰り返しや……!」
「ははん、ちゅうてもはじめて見た子はみんなびっくりするやろ! おまけに口から取り込んだもんは、そのまんまケツからひねり出すんやから、なおさらビックリやわ!!」
したり顔した相方がすかさずツッコミを入れるのに、それを聞かされたふたりの後輩くんたちの気配がにわかにざわつく。
「え、お尻から?? それじゃまさか、あれって……!?」
「そうだったんですか?? まさか、そんなことだったとは……」
その表情にただちにくっきりと暗い影が浮き出る他事務所の後輩たちだ。これに先輩のおじさんは苦笑いしてこの首を振る。
「ちゃうちゃうっ、そないないわけあるかい! ケツが血だらけになるやろ。おいおかしな茶々入れんなよ、ふたりとも引いとるがな。あとこの鬼沢くんに新しいヤツをやったれよ。ほれ、口で説明するより、この目で見たほうが一目瞭然やんか、まさしくで?」
「んっ、おう、めんどいの! しっかしあないにでかいのは取り出すのが面倒やから、ほどほどのにしてや? それじゃふたりともよう見といてぇ。つうか、おい東田、どこや? 手が届かれへんところやろ??」
低い座卓を挟んで相対していたコンビのおじさんたちの内、ツッコミ担当の津川がいざ腰を上げるとぐるりと相方の東田の背後に回り込んで来る。そうしてその背中に手を当てて、何やらもそもそとやりはじめるのだった。
それをはじめ訳もわからずに見ていた鬼沢だが、静かにそのさまを見つめる日下部とふたりで先輩のベテラン芸人のコンビ芸に固唾を飲む。
お笑いと言うよりはビックリ人間ショーに近いさまを、まざまざと見せつけられるのだった。
相方の背中をどれどれとさすっていた津川が、やがてその真ん中あたりで何かしらの感触をこれと探し当てたらしい。
無言でみずからの右手を東田の襟首からこの奥底へ、ずっぽりと潜り込ませる。
「あった! これかぁ、でかいのう? 目で見えんへんさかいに邪魔なこの服、脱いだほうがええんちゃうか? 取りずらいでほんまによ!!」
「いいやろ、はよ取れや。大事な企業秘密やさかいにひとには見られたない。こそばゆいわ、はよ取れって、はようっ、あんっ……!」
「おかしな声出すなやっ、ひとが聞いたら勘違いされるやろ! ん、ほれ取れたぞ、これやろっ、マジでかいの!!」
やがて津川がその手に取り出した緑色に輝く物体――。
これには心底びっくり仰天する鬼沢が、思わずあっと声を上げる。
「あっ! それってあのクリスタルじゃん!! どこから出したの? 東田さんの背中から出てきたぞ? まさかあの身体から生えてきたのか??」
「はい。そのまさかなんですかね……! ある程度、予想はしていましたが、実際に見るとビックリです。でもだとしたらあの服の下がどうなってるのか、想像するのがちょっとこわいですね……」
目をひたすら白黒させる鬼沢に、さめた視線の日下部が応じる。
無機質な真顔に意味深な笑みを浮かべる東田は、かすかにこの肩をすくめさせた。そうして相方が手にした緑色の光りを放つ例の水晶石をみずからの利き手に取って、これをしげしげと見定める。
用が済んだとおぼしき津川は、もと自分がいた場所へともどってまたぺたりと尻を付けた。そうして感情が複雑なままに立ち尽くす後輩芸人の鬼沢に、さも楽しげなしたり顔して言ってくれるのだ。
「わいらとゾンビ仲間の鬼ちゃんには特別サイズの一級品や! 大事にあつこうてや。そのクラスならたとえ致命傷でもぎりぎりしのげるでぇ?」
「ふん、そこまでとちゃうやろ? まあ、こないなもんか。いい出来や。ほれ、きみにあげるから大事に取っといてや。回復系のアイテムならこのゾンビ界イチの使い手、このバイソンが特製のクリスタル! 万一にケガしたら、たちまち効果を発揮して治してくれること請け合いやからの」
「あ、ああっ、はい、どうもっ……! て、いいんですか? もう何度もお世話になっちゃってるけど……」
相手がほれと差し出してきたものを、またおっかなびっくりに受け取る鬼沢だが、日下部からしれっと釘を刺されるのだ。
「いいんですよ。どうせお互い様なんですから。鬼沢さんから提供する時もじきに来ます。アイテムの生成自体は鬼沢さんもこの素質があるみたいだから、きっと持ちつ持たれつ、うまくいきますよ」
これにははじめやや苦笑気味にうなずく東田だが、不意に何やら感じたものか? 目の前の鬼沢に驚いたふうな視線を向けてくれる。
「ふふん、そう願いたいもんやな。ん、にしても鬼沢くん、しょっぱなからキツい目に遭うてるみたいやな? さてはあのコバヤの兄さんにひどくいじめられたんちゃう? さっき取り込んだ石の記憶にはっきりと残っとるわ。うわ、めっさくっさいの食らわされとるのう!!」
「ううわ、最悪や! オニちゃん、あれ食ろうたの? てことはあの兄さん、あのおっかないゾンビの姿になりはったんや? うっわ、くわばらくわばら!! 勘弁してほしいわぁ、ほんまによっ……!」
相方のセリフに過剰な反応して津川がガヤを発する。
まるでバラエティ番組のやりとりを見てるかの心持ちの鬼沢だが、目をまん丸くして坊主頭を大きく傾げていた。
ちょっとした危機感みたいなものに内心で舌を巻く。
「石の記憶……? そんなのあるんですか? うわ、やばい、俺、変なことしてないかな、あれから家とかロケ現場で……! プライベートなことがもろバレじゃん!!」
「確かに肌身離さずとは言いましたが、ひとに見られたくないことをする時にまで持っている必要はありませんよね? それにしてもあの水晶にはそんな機能まであったんですか」
バツが悪い顔で言葉が無くなる鬼沢だ。これに覚めた目つきを右から左に流す日下部に、無表情の東田が何食わぬさまで応ずる。
「ふん、まあ、何から何まですべてを記憶しとるわけやあらへんよ。ボイスレコーダーとちゃうんやから。ごく一部、特に印象に残ったことや、多くは精神的なショックや、肉体的ダメージを食らった時なんかやな……! 特にコバヤの兄さんのアレは格別くっさい、やのうて、えげつないもんやから? 鬼沢くんほんまよう耐えたわ。ぼくなら心がぽっきり折れとる……!!」
「ほんまにきっついもんな! あれはシャレにならへんもんよw」
ふたりしてうんうんとうなずき合うお笑い漫才コンビに、鬼沢も自然と頷いてかつてのことを脳裏に思い返す。
うげっと苦い顔で舌を出してしまった。
「うへっ、そうか、コバヤさんのあれをふたりともやられたことがあるんだ……! 確かにシャレにならないもんな。俺も心が折れそうだった。だからあの時のあの記憶が、あの石にしっかりと残ってたんだ……!!」
先輩たちの反応にある種の共感を覚える鬼沢だ。それとはまた別の共感を抱く日下部が意味深にうなずいて言った。
「確かにこれは便利な能力ですよね。いわゆるブラックボックスみたいな機能も果たすわけで、東田さんはこの記録の解析とおまけに未知の敵の情報収集ができるわけで……」
「ほえ、なんやストーカーみたいないわれようやな? 気ぃわるいわ。そのくらいの役得はあってもええんちゃう。まあええわ、それよりも鬼沢くんがコバヤの兄さんと互角にやりあったちゅうんが、びっくりやわ。だってきみ、まだゾンビになりたてやのに、大したもんやろ?」
「おお、ほんまにどうやって戦ったんや? あのコバヤの兄さんの能力はわしらゾンビの中でもごっつい特殊でめちゃくちゃ強力やんけ! じぶんそないな初心者なのにようやれたよな?」
左右から興味津々の視線を浴びてちょっと恥ずかしくなる新人のゾンビは、この首を右へ左へしきりと傾げさせる。
「ああ、あの時はほんとに無我夢中で、ほとんど覚えてないんだけど……! でもコバヤさんはナチュラルなんだっけ? 日下部やバイソンさんたちがオフィシャルのゾンビなのに? あれ、そもそもオフィシャルとナチュラルって、どんな違いがあるの? 結局みんな、ゾンビはゾンビなんだよね??」
新人ゾンビの素朴な疑問に、古株のゾンビたちがそれぞれに私見を述べる。
「ゾンビって言い方がそもそも難ありなんですけど。要は国の認定を受けているか、受けていないかの違いです。それ以上はまだ言いようが……! 今はまだろくな法律も出来上がっていない状態ですからね、ぼくらみたいな人間にして人間ならざる亜人種に関しては……」
「ふん、みんなそれぞれに立場や考え方っちゅうものがあるからの。そないにして国にしばられたくない人間もおるっちゅうことやろ。そのぶん、公的な保護が受けられないわけやけど、それでもこの身分や正体を隠しておられるだけ、マシかもしれんしの……」
「おお、かく言うこのわしらも、こっちに上がってくるまでは長らくナチュラルでしらばっくれておったからの! いざオフィシャルのゾンビを公言してから上京したわけやから。見知った地元からは追われるように……!」
何やら含むところがありそうな物言いに少なからぬ引っかかりを覚えながら、はあ、ととりあえずは納得したさまの鬼沢だ。
「ああ、そうなんですか。俺、関西を主軸にして活動していたバイソンさんたちのこと、こっちにふたりが来てからそれと意識しはじめたから。なおさらわからなくて……!」
三人が難しい顔で見合わせるなか、いまだとぼけた白け顔の日下部がぬけぬけと言ってくれる。いいずらいことよくもまあと鬼沢は目をまん丸くした。
「まあ、あいつらは正体がバレたからいずらくなって仕方なしにこっちに来たってコバヤさんが言ってましたけど、そうなんですか? でもおれとしてはバイソンさんたちみたいな芸達者なゾンビがコンビで来てくれて、とっても大歓迎ですけど。頼りになりますもんね」
「きみ、言い方がいちいちビミョーやな? そういう見方をされるのは不本意やけど、ないとは言い切れん。好きに思えばええよ」
「ほんまにコバヤの兄さん、能力も口もとびっきりえげつないのう! ナチュラルなんやったらもっとおとなしゅうしとけっちゅう話やのに。ほんまにしんどいわ。鬼沢くん、いっぺんどついたってや!」
しかめ面の先輩芸人に見つめられて泡を食う後輩の新人ゾンビだ。挙げ句にひどい苦渋の顔つきでうなだれた。
「無理ですよ! どついたらたちまちカウンターであれ食らっちゃうんだから! もう二度とごめんだもん、あんなの」
「まあせやな、あれはゾンビどころの話じゃない、悪魔や! 心が折れる。あんなくっさいもん、人間がしたらあかんて。ましてやそれを武器にして戦うなんて、ほんまもんの悪夢や。ほんまに心が折れる……!」
しごく共感してくれる東田に、日下部は苦い笑いで鬼沢と顔を見合わせる。
「ふふ、鬼沢さんに負けず劣らず、おふたりとも凄いトラウマがあるみたいですね? わからなくはないですけど」
「ああ、ゾンビどころか悪魔になっちゃった、コバヤさん。おんなじ事務所の後輩さんたちなのに、なんかひどい言われようしてるよ」
「事務所は関係あらへんやろ。あかんもんはあかん。世界では化学兵器の使用が禁じられているように、あれも本来は禁じ手や。それなのにあの悪の大魔王ときたら、ゲラゲラ笑ってこきよるんやからマジで手に負えん。あかん、ほんまに心が折れそうや!」
「とうとうラスボスになっちゃった! ナチュラルってひとたちの中ではコバヤさんは特殊なんですか? なんでナチュラルなんだろう?」
頭の中が疑問符だらけの鬼沢のセリフに、苦笑いで津川が受け答える。普段のキレ気味のツッコミらしからぬ冷静な返答だった。
「野良のネコはおっても野良のライオンはありえへんからのう。もとより力のあるなしでは分けられるもんやないんちゃう? あの兄さんはもちろん強いけど、みんなそれぞれに主義主張で仕方なしに別れとるんよ。そんで鬼沢くんは、オニちゃんはオフィシャルになるんやろ?」
「俺は……! どうなんだろう」
また考えあぐねるのに、ボケらしからぬまじめな言葉が渋い声で言い渡される。東田は普段から真顔なぶん、余計に説得力があった。
「力があるっちゅうんは、便利なことやけど危険なことでもある。せやから鬼沢くんはオフィシャルを名乗ったほうがええんちゃうか? きっと悪いやつに利用されてまうで、そないにぼやぼやした態度でおった日には。そっちの日下部くんとコンビを組んどいたればええねん。日下部くんはアンバサダーの中ではかなりの使い手なんやから?」
「どうでしょう? それなりに修羅場はくぐってきたつもりでけど。でもおれも、鬼沢さんにはアンバサダーとして活躍してもらいたです」
はぐらかした返答しながらこの時ばかりは鬼沢にまじめな目線を向ける日下部だ。これにしたり顔して津川が言ってくれるのは意外な言葉だった。
「見込みありそうやもんな? その訓練にこれからみんなで繰り出すんやし! ほな、そろそろいったればええんかいの……」
「?」
何のことだと目が点になる鬼沢に、覚めた目つきの日下部がまた意外なことを言ってくれる。
「連絡、来てませんか? マネージャーさんから? この後の収録のことです……」
「え? なに、え、スマホになんか来てる! あ、マネージャーからだ……え、この後の収録、バラしになりました……だって!!」
「決め打ちやんな。それじゃいざアンバサダーの任務に入ろうか。鬼沢くんがおるんやから、ほどほどのが相手なんやろ? ゾンビやのうて、グールかゴーストあたりの?」
「さくっとやってさくっとギャラもらおうや! 四人もおったら楽勝やろ? おいしいところはオニちゃんにゆずってやるさかいにwww」
「へ? へ?? グール、ゴースト? 何言ってんの??」
本来はこれからあったはずの番組収録に参加するはずの面々だと今さらになって気が付く鬼沢だが、ことの変化にまるで付いていけなかった。
なんだか知らないワードがしれっと出てきているし?
「やればわかります。あと本日の案件をもって鬼沢さんはオフィシャルのアンバサダーに決定です。でないとこの後の作戦に参加できませんから。いいですよね?」
「ええやろ。ほなとっとと行こうか。みんなで楽しいグループワークや! 世のため人のため、何よりぼくらみたいなゾンビさんのためっちゅう、難儀なもんやなあ? こないな世の中に誰がしたんや」
「ひとに見られへんようにフェードをかけて行ったほうがええんか? こそこそ裏口から出るのはめんどいから、それでええんよな。ほな、とっととやったろ、グール狩りやら、ゴースト退治やらw」
「え、え? なに? 勝手にそんな……! あの……」
「いいから着いて来てください。簡単な案件ですから、前回みたいなとっちらかったことにはなりません。習うより慣れよで、ゾンビとしての経験をこなしていかないとアンバサダーは名乗れませんから。そちらとしてのギャラもでますし。下手なローカル番組よりもずっと高額ですよ」
「え、いや、そうじゃなくて、あの、みんな? ……行っちゃった」
ひとりでその場に取り残されるタレントさんだ。
換気の配慮がなされた楽屋に、ぴゅーと季節外れの木枯らしみたいなものが吹いた。
タレントではなく、ゾンビとしてのお仕事が待っていたことに愕然となる鬼沢は、やがてみずからも重い腰を上げて出口へと向かう。
しまり掛けた出入り口の扉に手を掛けて、はっとなる新人のゾンビだ。
「あ、あの頭のワッカ、日下部に返しちゃったよ! しまった、あれがないと透明人間になれないじゃん、俺!! 日下部っ、待ってくれっ……」
ドタバタとした日常がまたはじまった。
次回に続く……!
もうちょっと似顔絵が得意だったら良かったんですけど、似てたら似てたで問題あるから、このくらいがちょうどいいんですかね?




