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泡の国のプリンセスと、鏡のなかのわたし:運命の選択

作者: Tom Eny

泡の国のプリンセスと、鏡のなかのわたし:運命の選択


第一章:満たされない日常の終わり


あれから五年。私は脚本家として小さな賞をもらい、夢への一歩を踏み出していた。だが、この数か月、ペンが進まない。スランプだった。アリアとの経験を元にしたファンタジー作品が評価されるたびに、現実から遠ざかっていくような孤独感があった。ハヤトは心配してくれたが、私の悩みは彼には届かない。私たちの間には、見えない壁があった。


同じ頃、泡の王国では、アリア女王が苦悩していた。ユメから学んだ温かい心で国を治めようとしたが、貴族たちは猛反発していた。その筆頭は、父王の元側近であるゼノン公爵だった。彼は、厳格な伝統こそが王国の繁栄をもたらすと信じ、アリアの改革を「異世界の毒」と呼んで妨害していた。リュカ王子は献身的にアリアを支えるが、彼女の心は孤独だった。完璧な愛よりも、不完全な日常の温かさを、彼女は心のどこかで求めていた。


そんなある夜、私は脚本の締め切りに追われ、深夜まで作業をしていた。ふと、鏡に目をやると、見慣れない光が鈍く輝いている。それは、五年前にアリアと繋がった、あの時の光だった。


第二章:運命への問いかけと虚構の力


鏡の中の私は、アリアの姿だった。「お願い、ユメ……また私と代わってくれない?」その声は、かつての希望に満ちたものではなく、絶望に満ちていた。私は思わず、バスルームの棚の隅に埃をかぶった空のボトルに手を伸ばした。すると、鏡が泡立ち始め、鏡面が曇っていく。


「ユメ、また、あの魔法が……。でも、前回とは違うみたい。この魔法は、二つの世界にひずみを生じさせている。このままでは、元の世界に戻れなくなるかもしれない……」


入れ替わりの代償を告げられた私は、動揺を隠せない。しかし、アリアが抱える苦悩の深さを感じ取り、彼女を救いたいという思いが、恐怖を上回った。私たちは再び入れ替わることを決意する。


アリアとして泡の王国で目覚めた私は、以前のようにしきたりに戸惑うことはなかった。女王として毅然と振る舞い、保守派の貴族たちに改革の重要性を訴える。だが、ゼノン公爵は私の言葉に耳を貸そうとしない。彼はアリアの部屋から、ユメの物語が記された古い手帳を見つけ出し、私を「偽物」だと確信していた。彼はその物語を、**「世界の均衡を崩す危険な虚構」**と見なしていた。


第三章:共感と選択


一方、ユメとして現実世界にやってきたアリアは、日常にすっかり慣れていた。ハヤトは、以前とは違う、優雅で自信に満ちたユメに再び惹かれていく。しかし、アリアは、ハヤトがユメに抱いている想いを感じ取り、ユメの恋路を応援すべきか、それともこのままユメの代わりに彼と過ごすべきか、という新たな葛藤に直面する。


そして、再び入れ替わりの副作用が顕著になる。ユメとアリア、それぞれの記憶が混ざり合い、二つの世界にひずみが生じ始める。鏡面には常にひびが入り、泡の王国の風景が水のように揺らめき始めた。


ゼノン公爵は、ユメの物語を手がかりに、リュカに私たちが入れ替わっていることを告げる。リュカはショックを受けるが、やがて冷静になり、この物語に書かれた「二つの世界を繋ぐ運命」の真実を探ることを決意する。そして、彼はハヤトに間接的に連絡を取り、ユメの安否を尋ねる。ハヤトは、アリアがユメのふりをしていることに気づくが、彼女の苦悩を知り、二人で協力してユメを救うことを決意する。


第四章:運命の選択


魔法のシャンプーの起源を巡る旅が始まった。それは、ユメとアリア、そしてリュカとハヤトがそれぞれの世界に隠された伝説や秘密を解き明かす冒険だった。


ユメは、シャンプーが二つの世界を繋ぐ「運命の糸」を紡ぐために、代々受け継がれてきた魔法の道具であることを知る。アリアは、王国の図書館で古代の予言書を調べ、二つの世界が一つになる時、世界は真の調和を迎えるという予言を突き止める。しかし、それは同時に、二つの世界が分離するか、統合されるかの究極の選択を迫るものだった。


私たちは、再び鏡の前で再会する。鏡には、ひびが入っているが、そのひびから、互いの世界の風景が美しく混ざり合っているのが見えた。


「私はもう逃げない。この国を、私の手で変えてみせるわ。ユメ、あなたが教えてくれた温かい心で」と、アリアは強く言った。


「私も、自分の物語を、もう逃げずに書くよ。アリアがくれた強さで」と、ユメも決意を語った。


二人は、二つの世界を完全に分離することを選んだ。それが、それぞれの世界に住む人々を幸せにする最善の方法だと信じたからだ。シャンプーの魔法が消えた瞬間、鏡面が最後に強く輝いた。


エピローグ:永遠の宝物


その後、ユメはスランプを乗り越え、アリアとの経験を元にした傑作を書き上げた。彼女の作品は、多くの人々に感動を与えた。ハヤトは、ユメの物語の最初の読者となり、二人の絆はより一層深まった。


アリアは、リュカと共に、国民に寄り添う改革を推し進めていった。ゼノン公爵も、アリアの強い意志とリュカのサポートを受け、次第に彼女を認め始める。


二人はもう、鏡で語り合うことはできない。だが、ユメが書いた物語は、泡の王国でも密かに読まれるようになり、人々の心に、遠い異世界の温かい物語として語り継がれていた。二つの世界は完全に分かたれたが、彼女たちの友情は、物語という形で永遠に繋がっていた。

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