第5話 わくわく?お風呂タイム
風呂もミラにとっては初めて見るものばかりで新鮮だった。
いつもはナイル川で水浴びをしていた程度だったのに、レピディアが言った通りフワフワの泡が出るボディーソープのポンプや、頭は別のシャンプーで洗う事やコンディショナーもする事など、一通り教えてもらってやってみたが、気持ちが良くて上機嫌になった。
何より自動でお湯が出て来て溜まっている所に浸かる、というのが新鮮だったようで、気に入って中でバチャバチャとしていた。
「本当に、あたしが思い付かなかった魔法で満ちてるんだな!凄いなぁ」
「そ、そろそろ上がらないか。元々ほぼ治ってたけど、お湯のせいか更にどんどん艶々で綺麗になって来たぞお前……フリーズドライ製品が水分吸ったみたいだ」
レピディアが自分に巻いたバスタオルを押さえながら赤くなって言う。
風呂の中とはいえ、今自分も脱ぐとなんとなくヤバい気がしたからだ。
「先に上がって、そこにバスタオル……大きなタオルが置いてあるだろう。それで身体を拭いて、畳んである部屋着を着ておけ。私も今風呂に入っておくから」
シャワーでミラにあがり湯をさせると、イピディアはそう言って彼女をさっさと先に風呂から押し出した。
「えー?もうちょっと入っておきたかったのに……」
ミラが不服そうに言う。
「明日から毎日でも入れるから!も、もう1人で入れよ……?」
風呂の中でシャンプーだらけになった頭を洗いながら、レピディアが言った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
風呂もドライヤーも済ませてサッパリした2人がリビングで向かい合って座っている。
「……ミラ、腹が減ってはいないか?」
「うーん、空いたかも」
「数千年食事摂ってないのに大丈夫かな。お粥でも食べるか……いや、重湯か?」
「お粥?重湯?」
聞き慣れない食べ物に戸惑う。
「ああ、この日本では病後や長く食事が摂れなかった場合の最初の食事に、米を柔らかく炊いたお粥か、その炊き汁である重湯をまず食べさせるんだよ」
そう言いながらイピディアは電子レンジで粥を炊き、どちらも用意してやった。
ミラはそれを呆気なく食べる。
「汁もお粥も美味しかった。まだまだ食べれるぞ」
「……平気そうだな。一体どうなってるんだその身体は」
「ねえ、あれ食べたい」
ミラがちょうどテレビに映った宅配ピザを指差した。
「いきなり濃ゆいの行くな……まあいいか」
イピディアがスマホを手に取り、画面を見て注文した。
「それはなあに?」
「これはスマートフォンと言って、全世界に電波でネットワークを作って情報を流しているものを利用して、生活に使う為の小さな箱だよ」
「へー」
「そこのテレビでもネットの物が観れる。ヨーチューブとかエットフリックスとかさ」
「……私が住んでいた頃の物は本当に何もなくなってるんだね……」
ふと、ミラが寂しげに言った。
「そうだな。更にここは日本だしな。……変わらないと言ったらエジプトだったらナイルの川の流れぐらいか。あの時代から更にピラミッドも増えたし都市化も進んだ。カフラー王のスフィンクスなど、鼻がもげたし崩壊の危機もあるぐらいだ」
「逆にスフィンクスはまだあるのか。あたしがいた頃でも既に1000年経ってたのに」
「まあその辺りは人間が頑張って保存活動してるんだよ」
「レピディアはなんでも知ってるな。3500年も生きて暇じゃなかったか?」
「……暇通り越して死にたくなったよ全く。でも死なないから、もう神になったのかなって……」
「神?……神になったのか?」
「いや、知らないけど……例え話的に?」
レピディアが首を傾げた。
「神になったなら神様総会とかに呼ばれるんじゃないのか?ちょっと聞いてみよう」
ミラが言う。
「え?聞いてみるって…誰に?」
「『水の魔女』がお呼びいたします。水の女神ネイトよ我が元に
(サヘラ・トルマイディ・イパス・ミルラウフ・イリ・イラーラ・トルナフト)」
彼女が急に詠唱した。
「うわ、ガチの召喚魔法来た?」
イピディアが驚く。
暫くして、台所の流しの水栓がだんだんと膨らんできた。




