第11話 まさかの真面目な好青年
コルブロの話はまだ続く。
「水揚げされた場所が北海道だったから、漁港の作業着をこっそりいただいて、魔法でいろいろ上手く誤魔化して潜り込んで、外国人の実習生のふりをしてね。暫く漁港で漁の手伝いをする青年を演じてたんだ。
そこで日本語のサンプルを沢山取って魔法陣にインストールして、喋れる様に頑張ったんだよ」
「そのインストール原本、残ってたら私のに入れてもらっていいかな?」
ミラが言った。
「いいぞ。魔法陣出せるか?」
コルブロが出して来たミラの魔法陣に数分掛けて入れてやる。
「魔法陣のバージョンが3500年前のままだな。かえって貴重だ。あ、俺の例の薬の作用反応記録が残ってる……これ、貰っていいかな」
「いいよ〜」
ミラの気楽な返事に記録を移し替えたコルブロは、真剣な顔でそれを見返した。
ネイトが横から覗き見をして来る。
彼女の眉が少し動いたが、すぐに元の平然とした顔に戻った。
「ね、イピディア。これで日本語話せると思う?あ、い、う、え、お〜。どう?」
ミラがイピディアに言う。
「お。いいぞその調子。私が入れてやろうと思ってたんだよ。手間が省けたな」
「あめんぼあかいなあいうえお。あめんぼって何?でもコルブロありがとう」
「うん。良かったな」
コルブロがにっこり笑った。
「それからコルブロはどうしてこの地に来たの?」
イピディアが聞く。
「そうそう。北海道である程度日本に慣れて来たら本州に渡って、関東を旅してたんだけど、ある時ふと駅を見たら『そうだ京都、行こう』って書いてあったんだ。だから京都に来た」
「なんだ、真似するなよ……」
「でも、京都の大学の大学院で地球環境学でマイクロプラスチック問題から水再生について取り組んでる分野があってさ、そこに入ろうと思ってまず高卒資格取って、大学に入ろうとしてバイト始めたの」
「えええ?すっごく真面目な理由だった!魔法である程度の事は出来るんじゃないの?」
「うん、住民票とか免許取るのとか個人番号とか高卒資格には使ったよ、魔法。でも、人間が作り出した変な化合物は魔法では除去できない。しかも世界中だ。深海から氷山にまで浸透している。
俺は人間の為じゃなくて海の動物達の為になんとかしたいんだよね。だから勉強するんだ」
「でも働きながら勉強して大学通うの大変でしょ?」
「それがさぁ……仕事もやってみると、人間に温かいピザ運んで喜んでもらえるのも結構やり甲斐あるなあって思えて来ちゃってさ。割と気に入ってるんだよね、この仕事」
「コルブロカッコイイ!好き!結婚しよ」
「あっ、どさくさに紛れて何言ってるんだミラ」
イピディアがヤキモチを妬いて言う。
「結婚か……俺が普通の人間だったら考えてもいいけど、もう普通じゃないからな。子供を作るって次元も超えちゃってるしさ……」
そう言って、彼は僅かだが寂しそうな顔をした。
けれどもすぐにまた笑顔に戻って言った。
「でも、もしも良いんだったらこの家に引越ししたいなぁ。ここ、すっごく居心地が良いんだ。イピディアの魔法のお陰かも知れないけど。
見たところ他には誰も住まない二世帯住宅っぽいし。1階でも2階でもいいから。2人に手は出さないけど家賃は出すからさ」
「うん!一緒に住もう!手も出してくれて良いよ!」
「家賃は嬉しいがミラには手は出すな、許さん。私の家だし。それに男と住むのはな……」
ミラの喜ぶ声にイピディアが困惑して言う。
「俺、心がもう聖人だから大丈夫」
コルブロがケロッとして言う。
「自分で言うのか……」
「あたしはイピディアと同じ階に住むからさ。それならいいだろう?古代から置き去りにされた仲なんだ、寂しいんだよぅ……」
甘えた声で彼女が言って、イピディアの腕に擦り寄った。
「ま、まあ……ミラがそう言うなら……しょうがないな」
赤くなりながらしどろもどろで答える。
「よし、じゃあ今住んでるマンションの解約手続きが上手く行った頃に来るよ。それまでたまにはまた会おうよ」
「うんうん。楽しみ。お仕事も頑張ってね」
「なんか締めに入ってるな……」
はしゃぐ3人に、それまで黙っていたネイトが言った。
「はしゃぐのはいいけど、老けない体はどうするの?多分今ならもう解除出来ると思うけど……」
「そうなんですか?」
「どんな方法で?」
コルブロとイピディアが聞いた。




