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6.一行は四人になった

 セレスは武器として、料理に使っている包丁を持って行くと言う。

「魔石を使って魔物を切ることができるように加工した剣はもらえないのか?」

 俺は神官に訊いてみた。村の近くに出たあの大きな魔物は普通の剣で傷付けることができたが、偶々かもしれない。ミレイユの言うように、魔物に普通の剣が通らないとすると、魔物に遭遇するかもしれない旅はかなり危険だ。

「残った魔石はこの町に結界を張るために使わなければなりません。聖剣を作るほど残っていないのです」

 神官は申し訳なさそうにそう言った。

「もし魔物が出たら、俺とセレスは役立たず、ミレイユとアニーだけで戦わないといけないのか?」

 俺にできることは、聖魔法を詠唱する間の囮ぐらいか。

「あの大きさの魔物が出ると、本当に厳しい戦いになると思います。アニー、それにセレス君、こんな旅に連れて行くことを許して」

 ミレイユがアニーとセレスに頭を下げた。

「俺はいいのかよ。俺はただの村人だぞ。連れて行ってくれと望んだわけもないし」

「ジークはいいのよ」

 ミレイユが冷たく言い放った。やはり、俺はミレイユに何かしたのか?



 セレスは、過去の記憶がない俺よりも隨分と使える奴だった。

 旅をした記憶をなくし、ほぼ自給自足、足りないものは物々交換で生活をしていた俺と違って、セレスは町で旅に必要なものを手際よく買い集めている。俺はセレスの家で借りた荷車に荷物を積んでいくくらいしか役に立たなかった。

 食堂の息子のセレスは料理もできるという。長期保存可能な食材や調味料、調理器具なども買い求めていく。荷車はあっという間に一杯になった。

「本当にセレスは凄いわ」

「それほどでもないよ」

 アニーとセレスが向かい合って頬を染めている。

「それに比べて、ジークは必要なの?」

 アニーが俺を蔑むように見る。荷運びはしただろう。


 町外れまで行くと、ミレイユは馬車と馬を二頭買った。

「ジークは馬に乗れるはずです。魔王討伐の旅には皆馬に乗って行きましから」

 ミレイユはそう言うが、馬を初めて見た。思った以上に大きく、とても乗ることができるとは思えなかった。

「僕が馬車の御者を務めるから、ジークは馬に乗って護衛して欲しい。でないと、僕がまずは襲われてしまうよ」

 セレスはなんと御者もできるという。父親と一緒に月に一回くらいの頻度で馬車を借りで隣町へ買い出しに行くらしく、その時父親から教わったという。

 やはり、馬くらい乗りこなせないと、俺は本当の役立たずだ。


 馬車に荷物を移し替え、セレスが荷車を家に返して来る間、俺は馬に乗ってみた。想像以上の高さだったが、恐怖心は抱かなかった。経験したことのない視線の高さだが、見慣れた風景に見えた。

 手綱を握り軽く両足に力を込める。馬はゆっくりと走り出した。

 体が上下に揺れるが重心の移動が自然にでき、違和感はない。手綱を引いて馬を止める。

 体が覚えている。確かに馬に乗ったことがありそうだ。これならば、馬車より遅いということはい。

 ミレイユとアニーは馬車の座席に座り、戻って来たセレスは御者台に腰かけた。

 こうして、俺たちは王都へと出発した。


 村から入った門とは反対方向の門から町を出る。遥か向こうまで続く街道が見えた。村からの山道と違って平坦な道だ。見通しも良い。突然魔物に襲われる心配はなさそうで安心した。



 町を出てしばらく行った頃、後ろから複数の蹄の音が響いてきた。振り返って見ると、砂煙が近付いてきている。踏み固められた街道から外れた場所を馬が走っているらしい。

「セレス、脇に馬車を寄せろ。ミレイユとアニーは身を伏せておけ。あいつらが急いでいる集団で、何事もなく通り過ぎてくれるといいのだが」

 悪い予感しかしない。

「聖魔法は魔物にしか効きません。人にとっては癒しになってしまいます」

 ミレイユが心配そうに言った。

「セレス、もしあいつらが襲撃してくるようならば、俺が足止めするから全速力で逃げろ」

「わかった」

 セレスは手綱を握りしめた。


 悪い予感は往々にして当たるもので、馬は通り過ぎることはなく、脚を緩めた。馬は五頭、それぞれに下品な薄笑いを浮かべている男が騎乗していた。

「豪快に買い物をしていたな。まだ大金を持っていそうだ」

「女も綺麗だった。金になるだろう」

「馬も馬車も良い値で売れそうだ」

「それなのに、護衛は一人だけなんて、襲ってくださいと言っているようだな」

「軽い仕事だ」

 町で俺たちを見かけて、仲間を集めて追いかけてきたならず者らしい。ミレイユもアニーもかなり目を引く美少女だ。それに加えて即金で馬と馬車を買ったから、かなり目立ってしまったようだ。


「俺も護衛だ。アニーには指一本触れさせない」

 セレスが叫ぶが、包丁ではこいつらの相手はできないだろう。

「私たちは聖女見習いです。この地に再び魔物が現れました。私たちを害することは、この世を滅亡に導くことになります」

「魔王は倒されて、もう魔物はいないことは俺達でも知っている。今までそう言って散々一般人から搾取してきたんだ。平和になったら、還元してくれてもいいよな」

 襲撃者の男たちは、ミレイユの説得に耳を貸すつもりは無いようだ。

「本当に魔物が復活したのです。私たちは王都へ行かなければなりません。退いてください」

 ミレイユは必死で男たちに訴えているが、その美しい姿を見せたことによって、余計に男たちを煽ったていた。

 ミレイユがなぜ護衛を俺以外雇わなかったのか真意はわからないけれど、どんな護衛を雇っても魔物には通じないのならば、必要ないと判断したのだろう。そして、魔物を恐れる人は、唯一対抗できる力を持つ聖女見習いを害さないと信じていたと思う。甘い考えだとは思うが、今は責めている場合ではない。

 

 アニーもミレイユの後ろから顔を出す。聖女に相応しい透明な美しさのミレイユとは違い、きつい眼差しの大人びた美少女のアニーを見て、男たちは顔を緩ませる。

「二人とも見たことがないような綺麗さだな。これで聖女見習いか。王都にいる聖女様というのはどんだけ綺麗なんだろうな」

「一度拝みたいものだ」

「おまえなんかが見れば、聖女様が穢れてしまうぞ」

 男たちは下品に笑う。護衛の俺のことなど気にも留めていないようだ。

 ミレイユは俺ならば危険に晒しても心が痛まないと思い、この旅に同行させたのだろう。それでも、護衛として雇われた以上、仕事は完遂してやる。

 俺は剣を鞘から抜いた。男たちはこちらを無視してミレイユとアニーを見つめている。

 相手は五人だ。手加減するつもりはない。俺は背後から近付き一人の背中に剣を突き立てた。剣の柄を握ったまま馬を走らせ剣を抜く。男はゆっくりと馬から崩れ落ちた。

「馬車を出せ!」

 俺はセレスに怒鳴る。

 乗り手を失った馬が暴れて、ならず者たちが乗った馬が前へ進めない。セレスが馬車と繋がれた馬に鞭を入れる。馬車は街道に戻り王都の方角へ向かった。俺は馬車の行った方に馬を向け、襲撃してきた男たちの前に出た。

「てめえ、何をしやがる!」

 男たちが剣を抜いて構える。俺の隙を付いて馬車を追おうとする奴がいるが、剣を向け止める。

「このまま町に戻るのならば俺は追わない。馬車をまだ襲おうとするのならば、ここで切り捨てる」

「舐めるな! おまえ一人で何ができる」

 そう叫ぶなり、一人の男が飛び込んできた。


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