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3.ミレイユに護衛を頼まれた

「なぜこんな所に来たんだ?」

 村への帰り道、ミレイユに訊いてみた。

「雑貨屋が街へ行く途中で魔物を見たと引き返してきたので、本当か確認に来たの。早くにわかってよかった。あの魔物が村に入ってしまうと、たくさんの犠牲者が出たかもしれない」

 俺との会話を嫌がれると思ったが、ミレイユは普通に答えてくれた。

「護衛の三人だけを連れて来たのか? 危険だぞ」

「本当に魔物ならば、戦ったこともない村人がいても危険に晒すだけで、戦力にならないから」

「まあな。護衛ですら全く戦力にならなかったみたいだし。護衛、弱すぎないか? もう少しましなのを雇えなかったのか? 聖女見習いとして務めていた分の給金がかなり出たと聞いたが」

「魔物は普通の剣では傷を付けることはできない。地方を回る時の護衛をしてくれた騎士たちも、魔物を倒すことができなかった。聖魔法だけが魔物を倒すことができる。あとは聖なる剣のみが魔物に効くの」

「この剣はその聖なる剣とかいうやつか?」

 俺は荷車に乗せた剣を指差した。

「いいえ、ごく普通の剣だわ。貴方が使った剣も全て護衛が持っていた普通の剣よ」

「あの魔物に剣を突き立てることができたが、あいつは普通の魔物ではないのか?」

「わからない。不思議なことだらけで、私には何もわからない」

 ミレイユは本当に悩んでいるようだった。普通の剣が効くのであれば、効かないよりはいいと思うのだが。

 何をそんなに悩んでいるのかわからなかったが、理由を聞けるような雰囲気でもなかった。


 緩やかな上り坂を荷車を押しながら歩いて行く。ミレイユも横に並んでついてくる。

 再びあのような魔物が出ないか警戒していたが、異形のものは姿を現さなかった。


 

「俺はあんたに何をした?」

 あの騎士は俺がミレイユに口に出すのも汚らわしいことをしたと責めた。

「そ、それは、ここでは言えない。でも、あの騎士たちが思っていることとは違うわ」

 違うのか? 

「俺はあんたに接触させないためと村へ立入禁止になった。お陰で小麦粉が手に入らなくて、パンが作れず大変困ったんだ」

「ごめんなさい。でも、今は何も言えない」

 ごめんなさいで済むのかと思うけれど、深い訳がありそうだ。本当に申し訳なさそうな顔をしている。

 

「あのね、王都まで一緒に行ってほしいの」

 考えに沈んでいたミレイユが顔をあげたと思えば、そんなことを言ってきた。

「なぜ?」

「魔物が現れたことを王宮に報告しなければならない。それに、確かめたいことがあるの」

「俺は必要か? ニコライとヨハンナを残して行きたくはないのだが」

 二人は年老いている。今は元気でも何時倒れるかわからない。彼らは俺の命の恩人だ。記憶のない怪しい俺を息子のようだと言ってくれた。ミレイユへの罪のため村八分にされ、迷惑をかけるかもしれないので家を出ようとした俺を、信じるから家にいるようにと引き止めてくれた。

 記憶のない俺にとって、実の親にも等しい二人だ。できれば最後まで世話をしたい。


「王都までの護衛が必要なの。あの三人の護衛は町では優秀だと聞いたわ。でも、あの体たらくよ。この辺りではあれ以上の護衛は雇えないの。ニコライさんとヨハンナさんの世話は父がちゃんとするから安心して。それに、あなたが何をしたか、王都で話すわ」

「一度ニコライとヨハンナに話をしてからだな。村長が信頼できるというのであれば、考えてもいい。二人が不安に思うようであれば、俺は行かない」

 あの騎士たちがあれほど怒っていた理由を知りたくはある。しかし、ニコライとヨハンナが不安に思うのなら俺はここに残る。

「この世が終わるかもしれないのよ」

「隨分と自己評価が高いのだな。おまえが無事に王都に辿り着けなければ、この世は終わるのか? 本物の聖女が王都にいるのだろう?」

「そ、それは…… とりあえずニコライさんとヨハンナさんに話してみて。許可が出たら王都まで一緒に来て。お願い」

 俺は勇者の従者として魔王城まで同行したらしい。しかし、もちろん記憶はない。剣は使えそうな気はするが、護衛として優秀なのかは自分でもわからない。

 ミレイユは護衛に雇った男たちが思った以上に不甲斐なかったため、心が弱っているのかもしれない。それで俺のような奴にも声をかけた。

 明日になれば心変わりしている気もするが、一度老夫妻に確かめてみてもいいかと思った。

  

 家に帰ってすぐ、ニコライとヨハンナにミレイユの護衛として王都まで行くかもしれないと伝えた。

「俺がいない間は村長が二人の世話をしてくれると言っているが、村長は信頼に値するのか?」

「村長はとても良い人だ。ジークがここに住む前は、村長の家の使用人が小麦粉を届けてくれていた。森で取った薪や茸を渡してはいたが、等価とは言えない取引だった。儂らは村長から村人だと認めてもらっている」

 村長は信頼に値するようだ。俺がいなくなれば、老夫妻を無下にはしないだろう。

「わかった。それでは村長から正式の要請があれば、王都へ行くことにする。だが、絶対に帰ってくるから待っていてほしい」

「ミレイユ様はとてもいい娘だ。守ってやっておくれ」

 あの娘のせいで、俺は村八分になった。ひどい男だと噂にもなっている。信じてくれたのはニコライとヨハンナのみだ。

 しかし、この世界のために頑張っている女だ。手助けしてもいいとは思う。


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