表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/50

第9話 ドーラとインプ ②

 兎にも角にも、メリルの口癖は「来たる時に備えて……」

 

 待つ事三ヶ月以上。

 

 備えあれば憂いなしの如く、本日も、早朝から中庭でインプとの戦闘鍛錬が始まる。


 これが終わると朝食を頂き昼過ぎまで超回復の為に寝る。

 起きると夕方まで腐るほどある学問書でこの世界のお勉強、夕方からまた戦闘訓練。

 そして飯を頂き寝る。それが俺の1日の日課となっている。

 

 いつものように寝起きのドーラが眠そうに召喚魔法を唱えた。


「かしこみかしこみももうす……古の契約に従い我に力を……サイクロプスの御子よ、サイクロプスの御子よ汝の力を我にかしこきかしこき」

 


 ドーラが魔法を詠唱するや刹那。

 忍びが使う煙玉のように白煙が現れる。

「呼ばれて飛び出てだばさわーん」

 

 可愛くない醜悪な小鬼のインプの登場だ。

 鬼らしく、片手に先端から五寸釘が外側にはみ出した金棒を構えて不敵な笑みを浮かべてやがる。

「ヒデヨシ、今日こそ昇天させてやるだばさ」

 

 相変わらず憎まれ口を叩きやがる。

 以前の世界で太閤ヒデヨシ様にそのような言葉を吐いて切腹した奴が何人いたことか!


「こい、インプ!! こちらこそ成敗してやる!!」

 まぁ、成敗と言ってもこちらは木の棒だから当たっても果たして如何ほどな被害を与える事が出来るや否や。

 

 それが証拠に此処までの処、100回近くは負けていて勝ったのは一回こっきり。

 

 まぐれで棒きれがインプの脳天に直撃した時ぐらいだ。しかも奴は気絶すると出て来た時のように煙の中に包まれて消えてしまうから勝った実感はあまりない。

 だが、散々ボコボコにされていた時だったので憂さ晴らしにはなる。

 

 俺は右足を一歩踏み出しやや前傾に身体を保つと木の棒を握りしめて攻撃に備えた。

「ウリィーーー。チェストー!!!」

 

 インプはピョンピョンと左右にステップしながらこちらに近づくと、目の前でジャンプして飛び上がると急所の眉間辺りを狙って金棒を垂直にふり下げてきた。

 

 何が「チェストだ」、こんな金棒が急所に当たったら瀕死だからな。

 これまで幾度か食らっていたので俺にも学習能力はあるってものだ。

 インプが金棒を振り下げた瞬間に攻撃を読んでいたので後方に後ずさりして振り下げた金棒の軸を反らして初動攻撃を見事にかわしてやった。

 


 空振りした金棒は中庭の地面に突き刺さり砂ボコリが舞う。

 小柄なインプは金棒を抜こうとして地団駄を踏んでいる。

「隙あり!」

 

 俺は持っている木の棒に力を込めると思いっきりインプの身体目がけて横方向に虫でも潰すように振り動かした。

「バキィ」と手に当たった感触が伝わるとインプの腹部に棒は直撃して頭部を下にしながら小さい身体はキリモミ回転させ派手に吹っ飛ばしていた。


「よっしゃー」

 久々に感触が残る攻撃がインプに決まり自然と拳を上下させてしまう。

 

 手応えから、かなり会心の一撃だったはずだが、インプが消えてないところを見ると致命の一撃ではなかったようだ。

 

 それが証拠に数十秒は気絶していたインプは地面の上で伸びていたが、ほどなくして寝転ぶ状態から跳ね起きをして見せると、こちらに向かって左右にステップしながら勢いよく突進してくる。

 

 だが、本日の俺はなんだか調子が良い気がしていた。

 インプの奴が不敵な笑みを浮かべながら、こちらに近づいてきても怖くはない。

 

 もう一度、蝿を叩くように地面に落としてやるだけ。

 インプは構えている俺の右足に乗っかり、そこを踏み台にして金棒を振り上げて襲いかかってきた。またしても、目の前に現れたインプ。


「ふん。同じ事だ! もらったあー。今度もとらえてやる」

 俺の渾身の力を込めた木の棒がインプに振り下ろされた。


「スカっ」

 と音がしたような錯覚の中、まさかの空振りをしてしまう。

「ウヒョヒョ。こんなん、できまんねん。分身の術だばさ」

 インプの下衆な笑い声と共に……。

 

 木の棒がインプの身体に当たりそうな瞬間、奴の体は二つに分かれた。

 2体のインプは地面に着地すると分かれたインプが更に別れて4体になり、また更に8体、16体と複製してみせたのだった。

 

 どうやら、いつのまにかドーラの召喚魔法もレベルアップしていてインプが強化されてると気づいた時には後の祭りのようだ。

 そして複製したインプは俺の周囲をグルグルと囲むと一斉に飛び上がる……。


 遠のく意識と激しい痛みの中、かろうじてメリルの声が耳に入った。

「ドーラ、もういいわ。早くインプとの契約を終えて……。このままだと治せなくなるから……」

 メリルが回復魔法をかけてくれているのか、痛さが和らぐ中、俺は眠りについていく。



「なぁ、メリル。なんで俺の事を待っていて軍師になりたかったんだ? 右腕になろうとしているあんたの事、何も知らないからな。教えてくれよ」

 

 夢の中、先日ようやく聞けたメリルの話を思い出していた。

「ヒデヨシ様がこちらの世界に来られた時より半世紀ぐらい後の話になります。西暦でいうと1624年です。ヒデヨシ様は西暦1570年、元号だと元亀元年になります」

 そっか、金ヶ崎の戦から12年後に明智が裏切り信長さまがおられなくなったんだ。

「それでですね。わたしがヒデヨシ様が必要な理由は……ヒデヨシ様にお味方すると元の世界に戻れて、また家族と……神様が約束してくれたの――」

 

そうして、メリルはこの世界に来た経緯を話してくれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ