第48話 負け戦
「ゴォーーー」
目の前が真っ赤になったと思うと黒龍のブレスが身体全体を包んでいた。
俺の視界にあるものは余りにもの高温から土壌さえも溶けていて赤くドロドロに溶けているようだ。
だが、俺は業火を浴びても無傷でいる。
以前にメリルが【耐熱、耐火、耐爆】に似たような恩恵がヒデヨシ様にも付いていると言っていたがその通りだった。
確か、日輪の子みたいな。
「ヒデヨシ様、勝家に効いていない事がバレないうちに私のようにしゃがんで土をかけて下さい」
見るとメリルは溶岩化した岩漿の下に潜ると炭化したかのように屈み込んでいる。
そうだな、効いてないと分かると、次は勝家本体とやり合わないといけないかも知れないし、ドラゴン自体に喰われてしまうかもだからな。
俺もメリルの真似をして相手からは炭になり溶けたように見せかけた。
黒龍は数回ブレスを吐くと、柴田を乗せて飛び上がった。
今度は明智が騎乗する赤龍と一緒になってトーレス・パラメキア残存兵を焼くつもりだ。
既に本隊は織田方騎馬隊により蹂躙されてしまい軍勢としての形を成しているものは少ない。
「パン、パパーン」
織田家軍勢は鉄砲隊もいるようで、連合軍が次々と撃たれて倒れていく姿が見えている。
このままでは全滅の憂き目に合うのは時間の問題だ。
それでも、聖騎士団のルークやエリアにアーガス達は命を張って戦っている。
トレマシーとドーラを護る為にだ。
俺とメリルも四方八方をドラゴンに焼きつくされた場所から這うようにして退避している馬車のところに向かった。
途中、途中に織田軍の兵に混ざってネクロマンサーにより操られりし死人も襲いかかってくる混沌とした戦場と化している。
もしかして、織田軍ももはや第六天魔王信長様によって魔物なのかも知れない。
先ほどの柴田にしても、あのような黒龍を操っているのだから、もはや人を凌駕している力を持っているからな。
そんな事を考えながら、目と鼻の先にある馬車に行くのも一苦労なほどの敵兵を太刀て斬り払いながら聖騎士団と双子がいるところまで何とか辿りつく。
太刀に火属性の魔法をメリルに付加してもらっているから、俺に斬られると敵兵の身体は炎に包まれて魔法剣士になった気分だ。
特にネクロマンサーに操られる死人や操る本体にはかなり有効な魔法付加攻撃である。
メリルを真似して双子も聖騎士達の剣に属性魔法を付加して戦うので俺達の周りだけは戦局は優勢に思えた。
しかし、全体的にはトーレス・パラメキア連合軍はほぼ壊滅してしまい、残存兵を織田軍勢や魔物達が息の根をさしている状態だ。
そして、敵兵の一部は孤軍奮闘している俺達に矛先を向け始めた。
なんとかしないと……。
多勢に無勢な状態だ。
このままでは殺られてしまう。
こういう時は逃げるに限るのだが、馬車で逃げれるだろうか。
早くしないといくら道幅が広いパールロードといえども味方の残骸で道が塞がれてしまう。
見たところ、今でも馬車を走らせるにはギリギリだし、障害になるものは魔法で飛ばしてもらわないといけない状態だ。
「トレマシー、ドーラ手伝ってちょうだい。荷台に積んでるもの外に放りなげて」
以心伝心、メリルも逃げるなら今しかないと思っているようだ。
荷台に積んである野営用の食材を勿体ないが捨て、空にすると魔法で荷台の一部を切り取り即席の甲板を作った。
「ここから、あなた達二人が砲台代わりになって追ってくる敵を攻撃してね」
メリルは双子に指示を出し逃げる準備に入った。
「ルークさん、逃げますよ」
「合点承知、アーガス、エリア馬車を出せ!!」
ルークは戦闘中の敵兵を足蹴にして剣で突き倒すと愛馬に跨りパールロードの東に向かって駆け出した。
その後を追う形で御者台にアーガスとエリアも乗り込んだ。
馬車の前側の席に俺とメリルが中腰になると同時にアーガスが馬に鞭を入れ戦場から逃げる。
逃げる方向側も織田家の騎馬隊が暴れまくり味方の軍勢の残存兵狩りをしている。
そんな中を俺達の馬車がルークの愛馬を先頭に逃走するものだから、すぐに発見され逃げ道を塞ぎにかかってくる。
その織田家騎馬を聖騎士団の意地をかけて剣で振り払いメリルの魔法が助太刀して道を進む。
後方からは、足軽やゴブリン、オークの類に甲冑を着せた兵士が追いかけてくる。
それをトレマシーとドーラが砲台かのように魔法の火球で何とか撃破していた。
だが、だが織田軍、いや魔王軍がどれだけの兵を繰り出しているか定かではないが倒しても倒しても現れる敵兵にきりがないのが現状で逃げるまでにこちらが力尽きてしまう。
もう、双子の魔法使いもこれまでの戦いと逃げる為の魔力消費で肩で息をしているし、ルークも敵兵に手間取るようになってきていた。
このままでは……。
そもそも、信長様率いる魔王軍と我々では戦力が違いすぎる。
通常の織田家の軍勢に見たこともなかったドラゴンやゴブリンにオーク、それに死人まで加わるものだから勝てる見込みは最初から無かった。
知っていたら挑んではいけない相手だったのだ。