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第47話 シバター

 トライデント・キャノンから発射された鉄槍は俺の頭上をほぼ直角の軌道を描き赤龍に突き進み捉えた。


 勢いの強さから風圧を感じるほどだったが……。




「カーン、キーン、カーン」


 赤龍を完璧に捉えた鉄槍はワイバーンのように翼や胴体に当たったが、ドラゴンの鱗に弾かれ垂直に槍先を下に力なく落下していった。




 そういえば以前にステータスを見た時、赤龍を傷つけるにはオリハルコンかヒヒロカネが素材の武器とか書いてあったから成体になったドラゴンには効かないと言う事だった。




 と言う事は柴田が乗る黒龍にもトライデント・キャノンの鉄槍は弾かれ効かない事になる。




 攻撃された赤龍が第三射を装填中のトライデント・キャノンにブレス攻撃に入った。


「ブォーーー」


 上空から吐かれた炎は魔法で防御された盾を焼く。


 ドラゴンはブレスを吐いては舞い上がっては再びキャノン砲に攻撃を加えた。


 三度目で魔法の盾は突破され、対ドラゴン決戦兵器は炎の餌食となってしまった。


 弾となっていた鉄槍はブレスの火炎でドロドロに溶け兵器本体は形を成さずに吹き飛ばされた物やその場で灰になり八基はどれも破壊されてドラゴンに敗北してしまった。


 鉄槍が弾かれてはどうしようも無く自明の理と言う事だ。




 連合軍にとって希望だった対ドラゴン兵器の呆気ない幕切れ。


 ワイバーンを仕留めたとはいえ、成体である黒龍と赤龍を止める手段は無くなった。


 これによりトーレス・パラメキア連合軍は制空圏を失い、ドラゴンのブレスに怯えながら、周囲から土埃を上げて突進してくる織田家の騎馬隊やその後ろの軍勢と戦わなければならない。




「一旦トーレスまで退くぞ!」


 とジョセフ侯爵が退却命令を出したが、もはやあとの祭りである。




「私達も逃げましょう」


 とメリルも簡単に言うが……。


 ワイバーンを惹きつける為だとはいえ、黒龍を騎乗する柴田勝家を呼んでしまったからこちらも時すでに遅しな気がする。  


 機転をきかせどさくさ紛れに馬車をキャノン砲から離れさせていた聖騎士団達の行いは賞賛に値するが、これまた時間の問題で見つかれば焼かれるか騎馬隊に蹂躙され破壊されるのが見えている。


 こちらは魔力が強いトレマシーとドーラがいるが子供には変わりない。


 こんなところで命の危険に晒すわけにはいかない。


 だが、この万事休すな事態にどうすれば良いのだ。




「ドン、ドスーン」


 そんな時、メリルに「探しているヒデヨシがいる」と呼ばれた黒龍に乗る柴田勝家が目の前に降りたつ。


 巨体のドラゴンが地に足をつけたから衝撃と振動が身体に伝わる。


「女ぁー、どこにヒデヨシがいる?」


 数メートル上のドラゴンの鞍から威圧的に聞いてくるのは、ここに来るまでは同じ織田家で筆頭家老である柴田勝家だった。


 いつの間にか隣にいたメリルは柴田に答えた。


「私の隣にいる若い男がヒデヨシ様ですよ」






 柴田は兜を着けているとはいえ髭面からの強面な表情で俺を睨みつけて聞いてきた。


「お前がヒデヨシだと申すか。俺が知ってる奴とはかなり風貌が違うのだが……」


 いったいどう答えたら良いものか。


 正直に言ったとしても、俺はこの世界に連れ去られた時に未来を見てる。


 将来的にこの柴田勝家とは織田家の跡目争いから賤ヶ岳で戦う事になり滅ぼしているのだ。


 しかし、連れ去られる前は柴田は筆頭家老で俺は侍大将になったばかり身分が違い過ぎる。


 やはり、猿と罵られていた頃の態度でのぞむのが正解だろうな。




「こ、これは、これは柴田様じゃ。拙者は姿、形は変わってしまいましたが藤吉郎でごぜいますだ。金ヶ崎で殿を信長様にお願いした猿でございますだ」




 俺は、わざと勝家のドラゴンの前でひれ伏し蔑んだ物言いをした。


 勝家は心底俺の事が大嫌いだから、下手に出て自らを卑下しているうちは問題ない。


「何故、お前だけこの世界の住人で敵対勢力なんだ。ヒデヨシだとしても謀反に値するぞ!」




 こちらとしても、何故織田家中の者達が俺以外金ヶ崎の合戦の時と同じいでたちをしているのか聞きたいわ。




「信じてくださいまし、決して裏切りや謀反などとは断じて思っておりませぬ。それにここにいる軍勢がまさか織田家と戦っているとは知らなかったのでございます」




 勝家に言ってる事は嘘ではない。


 よもや、よもやの魔王が信長様だと思い、確信出来たのは今さっきの事だからだ。




「そうか、だったら手間が省けて良かったわ。信長様は藤吉郎を見つけたら直ちに……」




 連れてこいと言うのだろうな。


「殺せ! と命じられているのでな」




 勝家の放った言葉に俺は耳を疑った。


 何故故にここに来るまでの間は「ヒデヨシこそは武士の誉」と仰ってくださった家来ではないか。


 何故、見つけ次第にそのような命令をされるのだ。


「この際、お前がヒデヨシであろうが無かろうがどうでもいいわ。ただ名乗る男を成敗したと信長様に報告するのみ。本当は猿顔の藤吉郎を焼いて灰にしてやるのが一興なのだがな」




「最後に一つお教えくださいまし。勝家様」


「なんじゃ、冥途の土産に分かる事なら話してやろう」




 勝家は殺す気満々じゃないかよ。


「何故、信長様は私の命を……。勝家様ほどでは無いですが、それなりに可愛がり目をつけてくださったと思っておりました」




 この先、どうなるか? 分からないがこの事は聞いておかないと納得できない。




「詳しくは知る由もなかろう。ただ、金ヶ崎以降の行く末を見られたと申され、ヒデヨシが裏切るとだけかな。お前何か本能寺に策を用いただろう。無論、明智光秀の裏切りも存じておられるがな。ただ光秀は取り返しのつかない代償を払い許されたのだ」




「代償とは? 光秀殿はどうなされたのですか」


 自分がいない間に織田家の中で色々あったのなら知りたい気持ち一心だった。


「せいぜい、あの世で教えてもらえ! お前にこれ以上教えてやる義理はないわ。死ねぇ〜ヒデヨシ」




 俺の頭上でドラゴンが口を開けメラメラと炎が見えていた。



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