第44話 破竹の勢い
俺達の乗る馬車がルークの先導によってトーレス城門から出れたのは先頭の部隊が出てから小一時間程過ぎた頃だった。
馬車に乗っているとはいえ、行軍の速度はかなり遅く歩いた方が早く感じた。
それでも馬車に乗っていられる身分に感謝といったところ。
ここだと話も可能だし、疲れたら横になって寝る事も出来る。
足軽だった頃を思い出すと、本当に騎馬の横を走って移動するのは辛いし疲れたからだ。
今回の出陣はとにかく兵力に物を言わせてパラメキア領内の領地を奪還していく。
勿論、最終目標はパラメキアの帝都シャングリラを敵の手から取り戻す事。
まずはコッシー砦を皮切りに解放していく戦略だそうだ。
以前から、パラメキア領内に偵察に行っていた者の話によると、帝都から西のアレクサンドリア側はほぼ魔王軍によって壊滅されている。
ジョセフ侯爵の一人息子のジョージも行方知れずの消息不明だから、捜索を兼ねてのパラメキア遠征の要素もあると、もっぱらの噂でもあった。
それを聞いて、アレクサンドリア王の命を待たずに独断でジョセフ侯爵は軍を編成して行軍を開始したのは腑に落ちる部分でもある。
一応に戦を仕掛けるに至ってパラメキア奪還という大義があるから皆は従い戦場に赴くのだろう。
トーレス城を出たら街や村での食料の補給や休憩は難しく野営が強いられる。
各部隊には大量の兵糧が準備されているが、このようなノロノロとした速度では物がいくらあっても足りない。
と、思っていたら少し行軍の速度が上がり出していく。
パールロードはある程度は道幅も広く行軍にはうってつけの道ではある。
だが、道幅に沿って隊列が移動するから横に広がらず縦長になってしまう。
行軍中は即座に隊列から陣形を変えられないのが弱点になる。
その事を心配していると、ルークがパラメキア領内は比較的平原が多い事からいざとなれば道幅を超えて横に広がったら良いだけだと教えてくれた。
つまり敵襲を受けたらパールロードの道から外れ隊列を変え陣形を作ったら良いだけだから、この辺りの地形は行軍には恵まれているとの事だった。
トーレス城を出発してから半日ほど経過した頃。
そろそろ野営準備をしなければいけないと思っていると、遥か前方を行軍してる部隊から伝令が入り、コッシー砦を攻略したとの一報が入った。
どうやら、敵の魔王軍は僅かな守備隊しか置いていなかったようだ。
伝令によると魔物はゴブリンとオーク、それに死人とネクロマンサー、そして甲冑を来た兵だったそうだ。
砦からは勢いよくゴブリンがオークの指示に従い突撃をかけ襲っていたが、こちらの騎士に斬られ、その後ろから出てきた死人達は、早々に操るネクロマンサーが魔法剣士によって討伐された。
指示系統を失った死人達は斬られたゴブリンに群がり肉を貪る間にこちらのウィザードとウィッチによる火の魔法により灰と化して我が軍の大勝利となったとの事だった。
コッシー砦の大将だと思われる甲冑を着た兵は状況が悪くなると西に馬を走らせ逃げ出したようだ。
そもそも、屍がネクロマンサーなる者に操られ襲ってくる時点でおぞましい。
こちらの世界に魔法があって奴らを灰に出来て助かる。
「ところでメリル、魔法剣士ってなんだ?」
馬車に揺られながら、伝令の一報について話いる中、気になる事を聞いてみる。
「例えばヒデヨシ様が太刀で戦いをしている時に私が剣に何らかの属性魔法を付加してやると刃先に魔法が宿ります。太刀で相手を斬る度に付与された炎なり氷なりが属性として相手の損傷に乗っかります。そういう事が出来るのが魔法剣士になりますよ。若しくは騎士そのものが魔法をそもそも使える者を指しますかね」
なるほど、騎士の中にも器用なものがいるものだ。
確かドラゴンに遭遇する少し前に太刀に属性を乗せて戦えるみたいな事を夢で見たよな。
この事なのかも知れない。
次に戦う機会があればメリルと試してみよう。
「幸先よく、砦も制圧出来たし、こちらの連合軍もなかなかに強いな」
「そうだと良いのですけど……。敵の大将らしき者の引き際が早いのが気にかかります」
確かにメリルの言うように、戦わずして恐らくその者は退却してるのは裏がありそうな気もしないでもない。
悪く言えばパラメキア中央部に向かい誘いだされているような。
色々と悪い事を巡らせてもきりがないな。
ともあれ、砦を簡単に落とせた事により、今晩の宿の心配はなくなった。
砦といえども、小さき平城には変わりない。
囲いがあるだけでも野生の魔物に襲われる心配は格段に減る。
俺達は砦の大きさの都合から馬車の中で一夜を過ごす事になるが、歩き続けた兵士に取って安心して雨風凌げる屋根のある砦は疲れた身体を癒やすにはうってつけの場所になるだろう。
明日からも領地奪還の行軍は続くのだから。
コッシー砦制圧を皮切りに、トーレス・パラメキア連合軍は破竹の勢いで、その後パラメキア領内を進軍し、街や村を解放していった。
勿論、奪還した街や村に生きている人々はいなく、いたのは魔物と化した人にならざる屍達だけだった。
連合軍の魔法を使える者は淡々とそれらを呪文で灰にしていくだけだった。
そして、まもなくパラメキア帝都シャングリラまで数キロとなったパラメキア平原で我々の破竹の勢いだった進軍が止まる事態に陥る事が起きたのだった。