第42話 第六天魔王の居城
絵に描かれていたのは天守閣を持つ巨城。
【安土城】だった。
信長様が三年の歳月をかけて造られた居城だ。
石工職人集団【穴太衆】 によって普請された安土城は石垣を積み上げていく総石垣造りが大きな特徴で姿は違えど建て方はこの世界の城によく似てる。
当時としては平城が当たり前だった頃に天守閣まで五層構造の山全体が城郭になっている正に第六天魔王を名乗られ出した信長様の権力の象徴的な居城がこの世界にある。
この世界でも【安土城】と呼んでいるかは定かじゃないけど、これであの城から信長様が金ヶ崎の合戦前みたいに号令をかけ、パラメキアを攻め滅ぼしたのだ。
この城が描かれた絵を見るまでは柴田勝家はともかくとして主君信長様まではこの世界に来ておられるかは半信半疑だったが、ほぼ確実に居城から指示を出しておられる姿が目に浮かぶ。
「なぁ、メリル? 柴田は何故ゆえに俺を探してると思う?」
感の鋭いメリルに気になる事を聞いてみる。
勝家が探す=信長様の命令のような気がするからだ。
なぜなら勝家は俺の事を心底嫌っていたからいなくなって清々してるはず。
自ら探す時は戦場で俺を葬りたい時だと思うからな。
「私が思うに理由は二つあるかと。一つは信長様にとってヒデヨシ様が大事な家来で必要な方だからです。ヒデヨシ様がいないと困るといったところですかね。そしてもう一つが、ヒデヨシ様の事を恐れている。つまり、脅威だと感じているのではないかと……」
「なんで家来で信長様には頭が上がらない俺が脅威なんだ」
「それはこういう事ですよ」
メリルは室内で急に魔法を唱えだした。
手のひらにどんどんと赤い炎が生成される。
「インフェルノファイア」
メリルはあろう事か俺に目がけて魔法を放った。
巨大な火炎が目の前に飛んでくる。
防御姿勢も何も不意を突かれたから直撃だ。
火炎は俺の身体を包み込み灰にする。
はずだったが……。
身体に当たると燃え盛る炎はどんどん鎮火していき、そして何事もなかったかのように消えた。
「いったいどういう事だメリル?」
「ヒデヨシ様、驚かさせてスイマセン。この前のジーク卿の戦いで覚えたインフェルノファイアを使いたかった。と言うのは冗談ですけど、あの物凄い火炎を食らっても無傷でしょ。そう言う事なんですよ」
そう言う事って……。どういう事なんだよ。
説明になっていない。
「つまり、ヒデヨシ様も私と同じかそれ以上に耐熱、耐火、耐爆防御でドラゴンの火炎ブレスでも無傷になります」
「メリルは火あぶりの刑がきっかけで聖母様から貰ったから分かるけど、なんで俺にもそのような恩恵があるのだ? それにいつからそんな恩恵を持っていると知っていた?」
「それはヒデヨシ様が太陽の子、日輪が身体の中に宿っておられるからです。それはお母様が何かしら関係されてますよ。ドラゴン遭遇以降にステータスを確認したら日輪の子に付与するスキルがついてましたから。」
メリルの言うようにおっかあは小さい時からは日吉、日吉と呼んではメリルが今言ったような事を何かにつけて申していたからな。
ドラゴンをスキルで確認した時も俺なら倒す機会があるとかないとか書いてあったから。
にしてもだ。
試すなら、インフェルノファイアというジーク卿の必殺技みたいな危険なものじゃなく、小さい火で十分なんじゃないかよ。
もし、何もスキル恩恵がなかったら灰になっていたじゃないか。
まぁ、それだけメリルに確信があっての事なのだろうけど。
どっちにしたって火耐性全般があり、現にメリルの魔法でも無傷なのは事実だし、俺とメリルは恐らくドラゴンの炎ブレスは効かないのはかなりの有利な点になるよな。
ただ、ドラゴンを倒すのは別問題だし、対峙したら乗り手の柴田勝家ともやり合わないといけない。
正直、鬼の柴田や瓶割り柴田という異名を持つほどの武力に長けた武将だから自ずから戦いを挑むのは愚の骨頂だわな。
しかし、信長様が俺と同じこの世界に降臨したとなると、少なくとも短期間で居城である安土城を出現させ、圧倒的火力を持つドラゴンを操り、パラメキア帝国を陥落せしめた力を持っている。
俺やメリルをこの世界に連れてきた神もどきより、明らかに信長さまの力は本当の意味で神の領域なのじゃないのか。
だとしたら、信長さまにつく方が賢い選択なのじゃないか。
しかも、理由はともあれ信長様は俺を探している。あちらのように姿、形が同じではないのだが、信長様に話をしてみたら羽柴秀吉だと分かってくれそうだ。
いやいや、俺はいったい何を考えている。
信長様が魔王だとしたら、以前の御屋形様ではないのだ。
もう、人ではないのなら尚更の事だ。
信長様の仲間になる=メリルを裏切る事になり敵対してしまう。
そもそも、信長様はこの世界を召し上げるつもりなのだろうか?
パラメキアを陥落させた時点で答えは出ていると思っていいのだろうか?
群雄割拠していたあの頃、浅井、朝倉を滅亡させ、その後に比叡山焼き討ちをされて畿内全域から中国、四国をも手中に治め、朝廷からの官位を拒否され、足利将軍家をないがしろにされた頃から信長様は変わられた。
その頃より、自らを第六天魔王と名乗られ、使えない古参の武将を追放され、一番の出世頭だった明智光秀の領地をも、事実上召し上げられ皆の前で叱責し暴力を振るわれるようになった。
そうだ。
あの頃より信長様は何かに取り憑かれれたと徳川殿や明智殿、滝川や佐久間殿までが噂するようになり、追放された者達や、明智殿の境遇を垣間見て明日は我が身だと疑心暗鬼に皆がなっていた。
かくいう、俺も信長様を恐れ出していたのだ……。