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第4話 フレド

「おい、ヒデヨシー大丈夫か? おい、早く目をを覚ませって!!」


 なにやら、俺を呼ぶ声と激しく身体を揺さぶる感覚で目を開けた。


「おー、良かった。頭から落ちたから死んだかと思ったわ」


 瞳に映ったのは、茶色い目をして鼻が高く色白の少年、いや青年だった。すぐにこっちの世界の住人はバテレン風情の南蛮人だと察した。


「おまえは誰?」


「何いってんだヒデヨシ。小さい時からのマブダチのフレドだよ」


 なるほど、本来なら異国の言葉なのだろうがコーディネーターの言ってたスキル云々でスラスラ言語が飲み込めたし、話せるようだ。


「頭打ったって?」


「そうだよ。おまえは高い木に登り枝が折れて頭から垂直に落下したんだよ。たぶん、その時の衝撃で記憶が飛んだんじゃないか!?」


 コーディネーターの奴こういう入れ替え方するのか。なんとなく自然な気がするが……。


 元々、こちらのヒデヨシってのがどのような素性なのか、容姿や年齢とか全く分からない。


 だから当分の間は記憶を無くした事にして、このフレドとかに色々聞いてみるのが得策だよな。


 まずはこちらのヒデヨシの素性とは。


「なぁ、フレド。俺ってどういった奴だ」


「なんだよ、いきなり! そうだな、スケベでバカかな」


 なぬっ!?


 仮にも天下人だった漢だぞ。


 転生前なら斬ってる返答じゃないか!


 スケベは認めるし男だったら仕方ないが、馬鹿はダメだわな。まぁ、これから変えていけばいいさ……と前向きになるしかない。


「で……ここはどこ?」


「はっ!? ここはアレクサンドリアに決まってるだろうが……。おまえ本当に記憶飛んだみたいだな。あとでメリル様に診てもらった方がいいぞ!」


「アレクサンドリア、国なのか街の名前なのかも分からないがおいおい分かるかな。ところでメリル様って?」


「あ〜。邪魔くさいな。メリル様はこの街唯一の魔法使い様だろ」


 これでこの世界に陰陽師みたいな呪い師がいるのが分かった。


「ところで、ヒデヨシさんよ。どうするよ?」


「なにが?」


「だから、おまえが兵士長の娘エリルに一目惚れしたのだろう」


「だから、見に行きたいからって、お前がせがむから畑仕事抜け出してついてきてやったんじゃないかよ」


 兵士長の娘かぁ。寧々との出会いを思い出してなしまう。寧々の義理の親父さんは浅野なんちゃらとかいう弓頭だったからな。


 いずれにしろ、とんでもないタイミングで転生したようだ。ここは、話を合わせて色々とフレドに聞くのが得策だよな。


「そうだったよな。木から落ちてまだ記憶があいまいなんだよ」


「ホントに大丈夫か! ヒデヨシ」


「ああ。大丈夫だ」


「だったら、いつまでも仰向けになってないで起きやがれって」


「そうだな」


 俺はヒョイと立ち上がる。


 転生してから初めてみる景色だ。


 足元には折れた木の枝が落ちている。その横にはフレドが立っていて、目線の先には赤い髪が見えた。どうやら俺の身長はフレドより高いようだ。


 背が以前よりも高いとこうも視界が広がるとは驚いてしまう。


 しかもフレドと近い歳だとしたら、かなり転生先は若返りしたようだ。もしかしたらふた周り近いかもね。


 その証拠に体が軽いし、妙に身体の底から漲る力みたいなものを感じる。


 改めてこの世界の景色を見てみる。


 視界の先には、木々の間から屋敷みたいな建物が見えた。みたいなって言ったのは、建物が木材で作られてるわけじゃなく、どうみても色のついた石が積みあげられていて、まるで城の石垣のようだからだ。


 そういや、関白になった時分に興味本位でバテレンを家来にした時があったわな。


 その折にこいつらの国を絵で描かせた事があったが、こんな感じだった。確かレンガとか言ってたのを思い出した。


「フレド、この屋敷は随分と立派だけど偉い人が住んでるのか?」


「だから、ここが愛しのエリルちゃんの家じゃないかよ」


「そうなんか、じゃ、なんで俺は木に登ったんだ」


「そ、それは……ノゾキってか、あれだ様子伺いでお前がスルスルと登っていったからさ。運が良かったら部屋の中で着替え中みたいな。てか正門から行っても身分が違うから追い返されるからな」


 だんだんと転生先の人となりが分かってきて微妙な気持ちになってしまう。


 フレドが身分云々と言っているから異世界先でも出自は搾取される側だろうし、こちらのヒデヨシも友人のフレドもしている事が忍びのように姑息な気がする。


 あながちスケベというのも事実だろうし……。    


 容姿は以前よりも良い事を祈るに越したことはない。


 顔でかなり虐められてきたからな。身長はかなり高くなり年齢は若返りしたようだから力がみなぎっている。


 いずれにしても、この異世界で兵士長の娘に恋をしてノゾキをしている時間はない。


 なぜなら俺は天下人秀吉だからだ。


 こんな異世界で人生を終わらせる気は毛頭ない。


 秀吉は立身出世して城持ち大名になり天下を手中にして夢の続き、いや夢で終わらせるわけにはいかないからな。


 それに元の世界には恋女房の寧々が俺の帰りを待っているしな。


 この世界に飛ばしたのが神様かコーディネーターとかいうものかは知ったことじゃないか。『欲望、本能のままに……』


 要するにこっちの世界でも天下取れって事だと解釈した。


 だから……。


「おい、フレド」


 俺は語気を強めてフレドを呼ぶ。


「なんだよ、偉そうに!」


「お前をこれから家来にしてやる! 本来ならお前のようなアホヅラは飯抱えないが、これも何かの縁だ。だから、この世界の事をなんでも教えろ」


「何訳の分からない事言ってんだ。やっぱり頭の打ちどころが悪かったようだな。それに俺とお前は農民だぞ、そんな世界の事なんか知るかよ! 毎日働いて作物育てて領主さまに渡すのが日々の生活だからな」


 まぁ、フレドの言う事も分からない気もしない。ここは正直にこれまでの経緯を話すしかないな。このままでは木から落ちておかしな事を言い出す奴になってしまう。




「ふーん!? で、ヒデヨシはこことは違う世界から来て……その国でタンパクとかいう偉い人間だったのか。俺の知ってるヒデヨシは畑仕事をサボるのと木に登って時々ノゾキをする馬鹿だけど憎めない奴だったけど……でも、やっぱお前ちょっとおかしいから村に戻ったら街まで行ってメリル様に診てもらおう。メリル様は博識だからお前の知りたい事も教えてくれるかもだぜ!」




 まぁ、フレドの話を聞いていても、この世界の事はこれ以上分からないだろうし、そもそもフレドは俺の言う事を妄想の類だと思っているだろうしな……。




「ところでフレド、その街にいるメリルって魔法使いさん、カワイイのかい? おっぱいは大きいのか?」


「わかんねぇ、数年前に一度メリルに診てもらった事あるけど、そん時は子供だったからな」


 呪い師の類だろうから、年老いた婆さんかと思ったがどうやら若いようだな。


「でもよ、ヒデヨシのスケベなところが変わってなくて良かったよ。じゃ、メリルさんのところに行こう!」


「街は遠いのか?」


「なに言ってる、もう街にいるよ! ここはアレクサンドリアの城下町じゃないか。あそこにアレクサンドライト城が見えてるだろ」


 フレドの言った目線の先には小高い丘の上に作られた城が見えた。


 転生した当初は動転していて周囲を見る余裕がなかったが、木々の間からはレンガ作りの建物がいくつも見えている。


 おそらく城下町と言うだけあって食料品、雑貨、武器屋等々、様々なお店が軒を連ねているのだろう。


「で、メリルさんとか言う魔法使いの家は近いのかよ?」


「近くもないけど遠くもないかな。とにかく町外れに住んでる屋敷があるから、さぁ行こう!」




 俺は知っている。


 好奇心と前向きな思考さえあれば道は開ける。


 そして、世界を知る事、即ち情報。


 知り得た事を的確に分析して行動に移す。


 そうやって、俺は苗字も無かった百性から天下統一して夢を実現してきたのだから。


 そう、まずはこの世界を知ることだ。

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