第3話 コーディネーター
光の帯に包まれ上空に巻き上げられた俺。
かろうじて視界には眼下の景色がグルグルと一瞬だけ見えた。
(このまま、俺はどうなる? 隣にいた小一郎は? もしかして死ぬのだろうか!)
色々な思いが交錯している中で、俺は段々と眠くなり意識が遠のく。
夢か幻か、それとも現実なのか。
身体がフワフワと浮いていて心地よい気分だ。
金ケ崎の殿を見事に努め、信長さまに褒められている姿。裏切った浅井、朝倉を姉川の合戦で破りお市の方様と姫君を救い出す俺。比叡山を焼きつくし僧兵を袈裟斬りにしてる悪夢のような世界。長篠の戦いで武田騎馬軍団撃滅。
めくるめく脳裏に浮かんでは消えていく視覚からのこれからの自分。つまるところの未来像だと直感した。
功績が認められ毛利討伐の総司令官に任命。念願の城持ちになった俺。
高松城水攻め。
半兵衛、官兵衛二人の有能な軍師達。
そして……。
1582年の6月21日。
明智光秀謀反により、本能寺で……。
信長さまの死、死、死、死にもうした。
これが、現実だとしたら、哀しい、悲しい、おいたわしい、自然と涙が瞼に溢れてくる。
「秀吉さま、泣いてる暇はありませんぞ! 天下をお取りください」
官兵衛の言葉で我に返った場面が浮かんでいた。
中国大返し、天下分け目の天王山である山崎の合戦からの明智討ち。
清須会議、賤ヶ岳の合戦、関白、淀の方、秀頼誕生、聚楽第、大坂城築城、天下人。
【露と落ち露と消えにし我が身かな浪花の事は夢のまた夢】
あぁー素晴らしき栄光の日々。
『どうじゃ、秀吉。誰もが羨む人生だったなぁ。いや、なる筈だったかな』
夢心地の中、突然声が聞こえてきた。
(いったい誰じゃ? なんで頭の中で声がする? 考えても分からない)
「何者じゃ? 信長さまも、俺も死んだのか?」
声の主に色々と聞きたい事が山のようにある。
『死んではいないが魂を抜いた。いや死んだのかな。これから我々を楽しませてくれたら元の世界に戻してやるかも……妻の寧々にも会いたいだろうしな』
いやいや、答えになってないし、魂ってなんだ? 楽しませるって余興でもしろってのか。声の主は、あの空に浮かんでいた物体のやつなんだろうか。しかも、寧々の事までも言ってきやがる。
足元見る感じの物言いだな。
「おまえは何者? 目的は何だ?」
声の主との会話は口に出さなくても思念で出来た。単刀直入に聞く。
『そうだな、神様、仏様、コーディネーター様とでも言っておこうかな。理由あってヒデヨシの人生に介入させてもらうよ。我々にも色々と事情があってな……』
(神様だって!? 圧倒的な力は認めるとして……にしてはなんか違う気もする。コーディネーターって意味もわからん)
『主には欲望のまま、本能のままにやりたい事をすると良いだろう。さすれば道は開けるだろう。おっと、これ以上の質問はなしだ。なにしろルールというか規約違反に……』
「ルール?」
『確かに、横文字はヒデヨシの時代では分からないな。そろそろ、スキル恩恵で言語変換出来るようになるよ』
【固有スキル 天下統一、人たらし、魔物たらし、激運を取得しました】
『おーーー、予想以上に素晴らしきスキルかな。あとは他のコーディネーターからの補正が入らない事を祈る。それにステータスも賢さとLUCKがズバ抜けて高いな。これなら魔法や召喚の覚えも早いぞ!』
「くっ、何いってやがる。固有スキル? ステータスって何だ! 状況を説明しろってんだ!!」
『どうやら、スキル効果が出てるようで安心した。言葉の意味が分かってきたじゃん』
(聞けば聞くほど、ますます意味が分からない。分かるのは嫌な予感がすることだけだ)
『ステータスってのは、君の力を数値化して我々が可視化してるものだよ。ひでよし君の状態が手に取るようにこちらに分かる仕組みね。ちなみにひでよし君にはこっちとは違う世界に行ってもらうから活躍してよ。立ち回りが悪いと簡単に死ぬから気をつけてね……今は夢心地だろうけど、あっちの世界はリアルだから……あと、転生先で試したらよいけどステータスは頭の中で見たいと思うと数値化して出てくれるから参考にしたら良いよ』
(なるほど、神か仏様かコーディネーターかなんだか分からないけど、俺を異世界に行かせてろくでもない事をさせるつもりだろう。それに死ぬかも知れないって……いや死んでるのか。試しにステータスなるものを見てみようと頭に念じてみた)
【レベル 天下人(領民)】
体力 15
力 12
素早さ 30
賢さ 108
防御 18
ラッキーちゃん 999
カルマ 0
スキル 天下統一 人たらし 魔物たらし 激運
ステータスなるものを見たが、いまいちピンとこない。
『じゃ、そろそろあっちの世界に行ってもらうからね。とにかく早く慣れることかな。君は天下人まで昇りつめた男だと思ったら良いよ。あ、あとはナマエはヒデヨシにしといたから、せめてもの餞別だから。まぁ。高くついたけど……』
ちょっと待ってくれよ。まだ、何も分からないだろう。
俺は夢心地のまま、段々と瞼が重くなり無性に眠たくなっていった。
『いつも、遠くで見てるから。悪いようにはしないから頑張れよ。あっちの世界でも天下取れよ。健闘をいのる。コーディネーターより』
(コーディネーターさんよ。天下取ったら戻れるってことだよな)
返事を待つまでもなく意識がなくなった。