第29話 城下町での買い物 ②
そもそも【転生】とは何なんだ?
以前に名のしれた坊さんから「死ねば来世はまた違うものに生まれ変わる」と聞いたことがある。そして生まれ変わるものも人間かも知れないし虫けらかも知れない。
無から始まるから前世の記憶はないと言っていたからな。
確かその事象を総じて輪廻転生といい教えがあるとの話だったから。
って事は、俺は金ヶ崎で死んでフレドに生まれ変わったって事なのか?
それとも、キメイラとの戦いで指輪から現れた清正・正則は登場した時に【転生天移】と言っていたから俺も天移なのか?
いや、違う違うな。
だって前世の記憶があるから「元の世界に戻りたければ」と目的が与えられている。
だったら記憶があるのが【天移】ってことなのだろうか。
清正・正則達は明らかに戦国の世の記憶を持って現れていたからな。
メリルにしても同じで命を賭して俺に協力している。ただ、もしかしたらこういう現象は【転生】という言葉尻で捉えたらいけないのかも知れない。
でも、これらに関して言葉の意味が分かったとしても自己満足な理解なだけで現状が元の世界に戻れるわけもなし、考えるだけ無駄なのかな。
確かな事は、この世界で転生するきっかけがノゾキをしていて木から落ちたのも俺らしく阿呆だし、フレドから見た俺はスケベで女好きと言っていたから、当たらずも遠からずなわけだしな。
「ヒデヨシさんよー、何さっきから難しい顔して黙ってるんだ。久々のマブダチの再会だろうってのに」
俺はフレドの事はよく知らない。
だが、フレドは俺の事をよく知っている。
それが、今の現実だわな。
それと、こいつとは何となく気が合う。
最初に会った時からだ。
「ところで、お前が屋敷で雇われてから時々は会いに行ってやったんだぜ。でも、いつもあの美人な魔法使いが出てきて疲れて寝てるばっかなんだよ」
どうやら、フレドの口ぶりでは顔を見に来てくれていたようだ。メリルからは一切聞いてないから知らなかった。
「そうだったんだ。それは悪かったな。屋敷の鍛錬……いや仕事が忙しくていつもクタクタにこき使われてるんだよ」
「え!? そんなにあのメリルちゃんは人遣い荒いのかよ? 俺はてっきりあの女魔法使いと毎夜毎夜ウフフな事して疲れてるのかと思って羨ましくて拗ねてたんだよ。で、実際そうだったりとか……」
やはり、フレドとは話が合う。
特にこいつの本能剥き出しな下衆な所なんかが良い。
「ところで、お前が街に買い物なんて珍しいな? で、ギルドに何のようだ。俺で良かったら手伝うぜ!」
俺はフレドにパラメキアが陥落した話から城に呼ばれてからの出来事を端的に話した。
勿論、信じてもらうないからジーク卿はキマイラを倒したのは聖騎士団にしている。
「マジかよ。あのパラメキア帝国が……。にわかに信じられないけど、それでその聖騎士団とやらと偵察任務って……。なんだかお前が遠い人に思えてきたわ」
まぁ、そう思われても仕方ないな。フレドが知っているヒデヨシは違う世界の住人で、恐らくパラメキアを滅ぼした魔王と戦う運命なのかも知れないわけだから。
「偵察任務にしろ、行った事のない異国に旅出来るのは俺っちからしたら羨ましいけどよ。それでギルドに来たのは屋敷までの荷物運びだよな。それこの俺が仕切らせてもらうよ。こう見えてもこのギルドじゃ顔なんだぜ。手下もいるから荷物が多くなっても平気だしな」
「ギルドの顔ねぇー。お前こそ出世してるじゃないかよ。で、いつからこっちの仕事してるんだ」
「おいおい大丈夫か。俺達農民の子は作物が育たない季節はこうしてギルドに来ては食い扶持つないでるじゃないか。俺もヒデヨシもギルドの組合員だろうに。偉くなったら忘れてしまうのかよ」
そうなっているのか。
危ない危ない。
とにかく俺はヒデヨシの過去は知らないからな。
「それと、手下と言っても弟達だしな。家は貧乏人の子沢山だから大変なんだよ」
どこの世界も領主に搾取されるのが農民なのだよな。俺もそれが嫌で身分を問わない信長様の家来になったんだ。でもアレクサンドリア、いやパラメキア、プロメキアス大陸は違う。
農民は農民で貴族は貴族と明確な封建社会が構築されているようだしな。
だから、フレドには手間賃は彈んでやらないとな。
ギルド内で【人夫請負】の張り紙を見ているメリルに「見つかったよ」声をかけた。
「こんなに貰っていいのかよ!! ヒデヨシ」
荷物運びにしては、およそ一年分はあるかと思われる金貨十枚をフレドにくれてやった。
「気にするな。友達だろ」
こういう時はさりげなく渡すのが俺流だった。勿論相場より破格な事をして人の心をひきつける。
城の普請の時も、墨俣一夜城、川並衆、高松城水攻め堤防普請の折も人が無理だと思われる事をして出世に繋げてきたからな。
スキル【人たらし】の源泉をフレドにも実行する。
施しをされた側は悪人じゃなかったら必死で頼まれた事を返してくれるのは本能的に知っている。
それか証拠にフレドは「ピュー」と口笛を鳴らすとどこからともなく弟達が俺の周りに集まり発破をかけだした。
「これから俺達はここにいるヒデヨシ様達の買い物について周り荷物をすぐにこの方達のお屋敷に届けるんだ。大事なのはちゃんと今日中に届ける事だ。分かったか」
こうしてフレドと弟達は買い物につかず離れずの絶妙の距離感で付きあってくれた。




