第24話 持つべきものは子飼いの武将。呼ばれて飛び出て助太刀いたす。
「キマイラの腹側を見たいのだがメリルなんか良い方法ないかな」
「私もヒデヨシ様と同じ事考えました」
メリルは何か考えがあるようで隣にいるトレマシーに耳うちした。
「とりあえず光と音で驚かすだけでいいから。お願いねトレマシー」
恐らく、ここまでの戦いでトレマシーも魔法力が残り少ないのだろうな。
メリルの言い方で察しがつく。
「ヒデヨシ様、キマイラも何らかの獣の端くれ。きっと世の獣畜同様に光彩や響きに弱いはず、トレマシーの魔法で驚かせてみせます。キマイラがびっくりして2足になった時にジーク卿がいるか確認してください。いたら太刀でやっちゃって下さい」
「あいよ。メリル了解」
俺は柄に手を置きながら機会を待つ。
「それじゃ、いきまーす」
トレマシーは両手を上げると小さい光の玉を手のひらから放出させると獅子の頭に目がけて投げつけた。
光の玉はキマイラの眼前で炸裂させた。
「バァンバァンバンバァババァーン」
けたたましい音と閃光がキマイラの不意をついた。
「ウギャー、眩しい、喧しい!!」
キマイラは暴れ馬のように前足をかけ上げて腹が見せた。
そこには腹部にジーク卿の目を細めて絞り顔になってる奴がいた。
「きたぁー」
俺はキマイラの上がった前足に素早く入り込む為に猛然と走った。
キマイラに取り込まれているジーク卿の顔面を太刀で突き刺してやる為だ。
そして抜刀して太刀を縦に握り直した瞬間。
キマイラの前足が先に地を踏んでいた。
「クソっ。もうちょいで刺せたのに」
「ケェーケケ。残念だったな正直危なかったかも……アイデアは良かったよ。でも二度と同じ事はさせないよ。そろそろ留めをさしてやろう! 確かウィッチもどきは火系統は耐性あったよな。でも氷はダメだろ」
やはり、俺とメリルの推察は正しかったようだ。それはジーク卿の悪態から分かる。だが、もう同じ手は仕えない。
つまり俺はキマイラを葬る事が出来た千載一遇の機会を失っていたのを意味した。
肩で息をしている双子をキマイラの餌食にする事は出来ない。
どうしたらいいんだ。
「さぁ、逝くがよいぞ! 属性ブレスLVマックスゥー」
キマイラはジワリジワリと近寄ると攻撃力の増したであろうブレスを吐いた。
メリルは額に汗を見せながら最後の魔力を振り絞り前面にプロテクトをかけた。
ブレスとプロテクトのせめぎあい。
目まぐるしくプロテクトが緑から赤、また黄色と色変化を見せていた。
赤の状態から防御の壁を回復させる事が出来なければ俺達は死ぬ。
もう、メリルは魔力が残り少ない。
「属性ブレス!!」
範囲の大きさから一段と火力を上げたブレス攻撃。
キマイラが留めを決めにかかってきた。
もはや、万事休す。
その時だった。
「痛っ」と右手の中指がチクチク、ズキズキする。
見ると、以前にこの世界に来た折に太刀の【正宗】と一緒にメリルから貰った指輪が指を締め付けていた。
こ、これは……。
ただの飾り程度だと思っていたが、確か窮地の時に擦れば有能な御家来衆が云々と言っていたな。
メリルに直接聞いてみたいが今は俺も含めてそれどころじゃない。
とにかくメリルの神様からの贈り物だ。
何かしらの恩恵があると信じて。
俺は時間がないので指輪を青色に輝く石を中心に擦った。
すると、指輪の石が眩い光を発した。
そして、光が収まると頭上の空間がぽっかりと丸く裂けて、その中から見覚えのある甲冑を着た武将が二人空間から勢いよく飛び出し舞い降りてきた。
手には十文字槍の片側だけ刃先を短くした片鎌槍と俺が武功の褒美としてくれてやった名槍日本号を持つものと言えば虎之介こと清正と市松こと正則にほかならなかった。
「親父さまに助太刀出来るとは武人の極み。転生天移只今参上つかまつる!」と威風堂々たる登場。
俺の事を「親父さま」と呼ぶ、こいつらは幼少の頃より実の子のように愛情をかけて育てた子飼いの武将だ。
そして天下統一した折には国をやり大大名にまでしてやったから俺の為なら命も惜しまぬ頼もしくて信頼できる武人であるからな。
キマイラは空間から舞い降りた二人の武将達に度肝を抜かれたようで一瞬だけ属性ブレスが止んだ。
キマイラは攻撃対象を清正と正宗に変え属性ブレスを吐いた。
それに対して正則は槍の先端をブンブンと廻しその人智を超えた風圧でブレスの軌道を変え道を作った。そこを清正が悠然と進み片鎌槍という歪な形をした槍で「うぉーりゃー」と雄叫びを上げて獅子の顔面を貫いた。
更に突き刺した槍を抜くと顔面超再生を始めた
事など尻目に矛先を首に変え貫いた。
そして、てこのように槍をしならせるとそのままキマイラの上半身を持ち上げる。
途端に腹側が露呈してしまい慌てふためくジーク卿の顔が見てとれる。
更に腹部が露わになったところに正則が「どりゃー奥義千畳敷乱舞」とジーク卿の顔以外を狙って滅多打ちに槍で突いた。
「さぁ、親父さま。トドメを差してくださりませ」
正則の奴、流石に俺譲りでわざわざトドメを差すという一番の見せ場に祀り上げてくれるわ。担がれる御輿は高いに越したことがないって事だ。
俺は信長さまに仕えてきた時は最後は御屋形様に決めてもらうように御膳立てしてからの立身出世だったからな。
「あいよ、清正、正則助太刀痛み入る!」
俺は駆け出し御膳立てしてくれた清正、正則感謝しながら太刀でジーク卿の顔を額から突き刺してやり刃先を奥にねじ込んでやる。
「ウギャーギャーウギィ」
ジーク卿は口から泡を吹いて顔面痙攣している。更にトドメとばかりに柄に力を込めて剣先を押し込む。
「ウググーぐるちい、タビケティ」
最後は拍子抜けする断末魔を上げてジーク卿並びにキマイラは絶命し、身体はドロドロに溶けていき究極生物は泡になり煙となってこの世界から消えた。
キマイラが消えている間に助太刀してくれた子飼いの清正、正則もいつの間にかいなくなっていた。
キマイラが完全に消えてしまってから、この場で戦いし者達は全員安堵のため息から歓声にかわる。
「ヒデヨシ様危なかったですけど、最後の最後で隠し玉をとっておくなんて流石ですね」
メリルにそのように褒められたけど指が疼いて試してみた事は場が白けるので止めておこう。
ともあれ、結果良しで勝つには勝ったのだ!
命の持ち帰りが最高の武功で手柄であった。