第15話 待ちに待った悪い知らせ ②
狭い車内ではトレマシーとドーラがお城にお出かけ出来るのではしゃいでいる。
「王様に魔法見せるんだ」
トレマシーは先ほどから手のひらで小さい炎の塊を浮き沈みさせて遊んでいた。
ドーラの方は即興でメリルから教えてもらった回復魔法を俺の傷があるおでこにかざして練習している。流石に王様の前であの醜悪なインプを見せるわけにはいかないからな。
「ほら、ヒデヨシ動くなダバサ」
「そうよドーラ。優しい気持ちになってね。治れ治れと念じるのよ。あなたならきっと出来るから」
メリルがコツみたいな事を教えている。
ドーラの手のひらから微かに暖かいものを俺は額に感じている。「なんだか心地よいな」と思った刹那。
「ブォー」と音がして、額に猛烈な熱さが伝わる。
「あっちぃ~、あっちぃ~」
車内に焦げ臭い匂いが漂った。
「ごめん、ヒデヨシ。力んだら火出してしもたダバサ。ヒデヨシ相手じゃ優しい気持ちになれないダバサ」
「ありゃりゃ」
即座にメリルが額に治癒魔法をかけてくれた。
本当にドーラと関わったら命がいくらあっても足りない。
「ところでお城までは遠いのかい?」
治癒魔法によって火傷の痛さが収まり俺は車窓から外の景色を眺める。
よくよく考えて見ると、この世界に来て最初にメリルの住んでいる屋敷にフレドと向かったきり外には出ていない。だから双子じゃないが俺自身も心が躍らないかいと云うと嘘になる。
馬車は城下町を歩くよりは少し早い速度で向かっていた。
久々に見る異世界の街並みは活気に溢れていて様々なお店が軒をつなれていて見ていて楽しい気分になれる。
俺のいた世界では京や大坂に堺といった人出がいるが、こちらの方が文明は進んでいるように思えた。それは、建物が石積で2階建ての家屋なんかが多く平屋で木造造りに目が慣れていたから凄いとしか言いようがない。
「なぁ、メリル。このアレクサンドリアには人はどれくらい住んでいるんだ?」
「正確な数は分からないですけど、恐らく20万人は生活してますかと」
「に、にじゅう!? まんだってか……」
これは俺が天下人としてほぼ掌握した頃の最大軍事力に匹敵する数。
つまりは小田原征伐の時に日の本からかき集めた兵力と同じじゃないかよ。ただし、今はこの世界ではただの一兵卒の青年でしかないがな。
もちろん兵士じゃなく住民の数だから比較になるか分からないが凄い人口には変わりはない。
「ちなみに陥落されたって父が言っているパラメキアには人口100万人は生活している大帝国です。恐らく常駐している兵士だけで数万は守備していたはず。なのに陥落の報が入りましたからね」
メリルは以前から俺の心の中が読めるのか先取りして話をする節がある。
魔法使いだから、何か種があるかも知れないが読心術があるのは頼もしいし一流の証だな。
「そんなに褒められても困りますよ! ヒデヨシ様」
やはり、心の中がお見通しのようだな。
4人を乗せた馬車はやや傾斜のある坂を登り始めた。どうやらお城は小高い丘の上に建てられているようだった。
車窓からは、大きい城門を通り過ぎていった。今日は諸侯が集まるから開門してるようだ。
なんとも物騒な城で防御も何もないなと思ってしまう。
「ヒデヨシ様、それだけこの国は平和だと言う事なんですよ。パラメキア帝国が治めるようになってからここ数十年は諸侯同士の小競り合いはありましたが大きな戦争など無かったですしね。ましてやアレクサンドリア王もこの国の諸侯をしっかりまとめておられていますから安全なのですよ」
「なるほど、この国の統治はしっかりしてるんだな」
「今は、いまは……ですよ。このまま平和な世界でしたら、私もヒデヨシ様もこの世界に来た意味がないかと……ですから、パラメキア陥落の知らせは何かしらの引き金でこの世界にとっては悪い知らせでも私達にとっては……いや、やめましょう悪い事を望むのは……」
このメリルは本当に優しい子だな。
火あぶりにされた家族と唯一会える方法は俺に協力して悪を打ち倒す事なのだから。そんな事情があるのに、この世界の不幸は心底望んでいなく、メリルはアレクサンドリアも愛している。
どが、王様の話を詳しく聞いてみないと分からないが、この平和な世界を脅かす存在。
即ちパラメキア帝国を陥落させた勢力は【悪】だと思うのが正解だろう。
結局のところ、メリルと似たような境遇の俺は早く悪を打ち倒しコーディネーターか神だか知らないが奴らが望むような活躍をしてやる。
そうして天下人の夢の続きをしたいだけだからな。
城内に入り馬車の車窓から見えるアレクサンドリア城は立派な外観をしていた。
「凄く立派な城郭だな。流石20万も住んでる国の城だけの事はある」
俺はアレクサンドリア城に目を奪われ感嘆の声が思わず出てしまう。
「以前、聖母様が示されたビジョンで知ったのですが……。そうですね、ヒデヨシ様の以前おられた世界。確か、戦国、安土桃山時代と言うらしいですが、その頃のお城は平城が多くて、このような立体的構造をしているお城は主君信長様の安土城かヒデヨシ様が晩年建てられた大坂城くらいかと思います」
メリルの言ってる事が本当だとしたら、俺は戦国時代とか言う物騒な名前の覇者だったとなるな。早く戦国の世に戻り天下人の続きをしたいものだ。
「さぁ、ヒデヨシ様着きましたよ」
馬車から一同が降りると衛兵が持て成し程度やの敬礼をして出迎えていた。
諸侯や貴族の馬車なのか待機所みたいな場所には数台の客車つきの馬の姿が見える。
俺達一行は衛兵の案内に従い、お城の中央に向かって歩を進めていく。
遠くから俯瞰してみるとこのアレクサンドリア城は俺のいた戦国時代なるものの平城とは大きく構造が違っていた。来る途中に坂を登ってきた事から恐らく防御面では山城といったところだ。
だが、日の本の平城と大きく違う所は高い垂直の壁を要する塔が大小に筆を立てたようにニョキニョキと聳え立ち、中央の箱型の建物の横に付随した形の構造物だったことだ。
しかも、城の礎なるものは石を大小に組み高く積んでいるのだ。
その高さはてっぺんまで見上げると壁が垂直ゆえに首がだるくなるってものだ。
俺の晩年に建てた大坂城などと比較してみると門、櫓(ニョキニョキ生えてるような左右の構造物)、天守閣(階層画分からないが恐らく中央の一番高いもの)などは全て石を上手く加工して組まれている。それにこの城には外堀みたいなものはなく、様々な構造物がひとかたまりになっているから驚いてしまった。
つまり石垣を隔てて二の丸や三の丸がない構造で恐らく二の丸や三の丸の機能を集約しているのだと見た。
塔と中央のつなぎ目には凸凹した壁が見え、恐らくその隙間から矢や鉄砲を放つのだと推測された。無論この世界に火縄銃なる飛び道具があるかは知らない。
これは、癖の一つかも知れないが、俺は初めて訪れる城を見ると、どのようにして攻略して落城してやろうかと思案するのが好きだった。
例えば、このアレクサンドリア城なら小高い丘に建てられている山城。しかも、石で作られた城だから火の矢で燃える事も難しい。力攻めしたところで固く門を閉ざされて、あのそこら中にある凸凹とした狭間から飛び道具で仕掛けらたら闇雲に兵を失うってものだ。
さすればどうする?
街に行く出入り口を塞ぎ、城にはほとんど攻め込まずに城内に入る食料品を断つ、兵糧攻めに限ると落ちるのじゃないかと妄想を広げてしまう。
「さぁ、ヒデヨシ様。物騒な事を考えるのはお止めになって本丸こと、こちらではキープの正門が見えてきましたよ。さぁ、中に入りましょう」
あちゃー、またメリルに心の中を見透かされてしまったようだった。