第14話 待ちに待った悪い知らせ ①
「ヒデヨシ様、ヒデヨシ様」
俺は耳元で呼ぶ声と軽く身体を揺すられた感覚で夢から覚めた。
どうやら、インプとの修行中に気絶してそのまま回復の為寝ていたようだ。
メリルの過去を走馬灯のように見てしまい、なんとも寝起きは悪い。
壮絶な家族の死に様を間近で見せられメリルの信じるところの神様は試練と言ってるようだが……。
メリルは可哀想な出来事を経験してしまっているからな。
夢とはいえメリルの話してくれた出来事を追体験しているような感じだ。
故に俺は身体を寝台から起こすと、そこに彼女がいる事が大事に思えておもわず「辛かったな」と言いながら抱きしめてしまった。
当のメリルは何事かとキョトンとした顔をしている。
それはさておき、いつもは鍛錬していて打ちのめされた後の回復中はメリルからは私を起こすことはないのだが……。今日に限っていったいぜんたい。
「珍しいな。何かあったのか?」
メリルに単刀直入に聞いてみる。
「実は……先ほど父が屋敷に戻りまして。帝都パラメキアが陥落したと申しております。なんでもパラメキアから命からがら逃げてきた兵士からの情報だそうです」
「それじゃ、メリルの父上に挨拶して詳しい話を聞かないとな」
「ヒデヨシ様、それには及びません。父には新しい従者を住み込みで雇ったと嘘を申しております。なにぶんここまでの経緯を言ったところで信じてくれないでしょうから……それでも、ヒデヨシ様がお持ちのスキルである人たらしなるものを試してみるのも一興かと思ったりもしますが今は冒険する時でもないとも考えます」
なるほど、いつもと寝ている場所が粗末で何やら臭うと起きた時から思っていたが自分はどうやら納屋に移動させられていた。忘れていたが俺には、この世界に来る時にコーディネーターなるものが優位性というか色々と特長、即ちアドバンテージを与えてくれていた。
その一つが人たらしだった。具体的にどうなるかはまだ定かではないが初対面との者に対してスムーズに物事が進むように会話を補正してくれるようだ。
最初に会ったフレドも補正していたようだしな。
それと納屋にいるのは、この世界は明確な身分があるようだから分からないでもない。自分もそういった環境が嫌でのし上がってきたからな。
「帝都って。ようするにこの国の中枢だろ? 誰が陥落させたんだ?」
確か、メリルに初めて会った時に、この世界の勢力を聞かされた折に支配者がまもなく変わると言っていたからその時が来たということなのか?
ここに来てから、この世界の事をメリルや書物なんかである程度は勉強してきたが、パラメキアを陥落させるような敵対勢力はいなかったはず。
それにパラメキアは強大な軍事力を持ちフリードリヒと云う名の皇帝がこの大陸の覇者のはずだ。
「詳しい事はお城にいる王様がアレクサンドリア国の諸侯を集めて話されるそうで、このアレクサンドリアで唯一の魔法使いである私も参加するようにと父が申しております。ですから、我が主人であるヒデヨシ様にも一緒に参加してもらいます」
確かに、帝都陥落の一報はこの世界に来てからの一番の出来事だ。俺やメリルをこの世界に連れてきた神やらコーディネーターの言っていた来たるべき時の引き金のような気がする。
まぁ、それなら来たるべき時に備えて鍛錬をした意味がようやく……なのだが。
「それでは、お城に行く準備をいたしましょう。そこに王様や父に会っても恥ずかしくない服を用意してますから着替えてくださいな」
なにやら、メリルの声が彈んでいるような気がした。
メリルも俺と同じく、今回の出来事が神の啓示されたもので火あぶりにされた家族と再会する為には俺に協力すべき案件のトリガーだと思っているのだろう。
早速、用意された他所行きの服を着てみた。
なんだか袖や裾の部分が膨らんでいて大坂や堺あたりにいたバテレンのようないでたちになっていた。書物によると洋服と言うそうだが首周りにもフワフワした装飾されていて着心地は悪い。
使わないに越した事はないが一応にメリルから貰った刀を脇に差した。が……しっくりこない。
「あら、ヒデヨシ様。よく似合っておられますよ。この格好していたらアレクサンドリア王にあっても恥ずかしくないです。さぁ、馬車が用意されてますからお城に行きましょう」
馬車には俺とメリル。
そして双子のドーラとトレマシーの4人が乗り込んだ。
メリルの父親は知らせる事だけ伝えると屋敷には長居せずにお城にトンボ帰りしている。
どうやらお城にぞっこんの愛人がいるからとメリルが言っていたのは本当のようだ。
それと本来ならお城に双子を連れていく必要がないのだが、なんでもこの機会に魔法が使える事を認めてもらうようだった。何しろ双子の魔法力は強力だし、使える者は限られた特別な存在だからだ。
ただドーラに関しては禁忌の魔法だから召喚は内緒にするつもりのようだ。まぁ、インプを見たところで契約を契った召喚獣とは誰も思わないのだろうけど……。