第1話 戦国時代から異世界へ ①
新連載です。
機会がありお読みなられた方ありがとうございます。第一章10万文字までは完結してますので宜しくどうぞです(^o^)
1570年。
その時分の俺は絶好調で正に飛ぶ鳥を落とす勢いがあった。
ちょいと自慢になってしまうが、明日をも知れぬ身分だった貧相な男が、今や天下取りに一番近いとされる織田信長さまの家来となり、ここまで数多くの手柄を立てたおかげで侍大将にのし上がり今日に至るってわけだ。
あ、申し遅れたが俺の名前は木下藤吉郎。
こっちは自慢じゃないが容姿は醜く身長は低いし顔は猿に似ていて頭は禿げている。
元々の生まれは尾張中村の百性で、報われない毎日に嫌気が指して村を脱走。
行くあてのないまま夢を追い求めて諸国を練り歩いた。ちなみに夢はでっかく城持ち大名だ。
だが夢の実現は当たり前だが甘くはない。
食うためにありとあらゆる仕事をしたが容姿のせいか、行く先々で因縁をつけられては虐められた。
結局のところ、諸国巡りで様々な事は学べたが心が痛んでしまい故郷の尾張中村に出戻り夢を捨てようかと思っていた矢先の出来ごと。
中村郷の手前の道すがら、腹が減ったので木に登って柿を頬張っていたら、いきなり矢が飛んできて射抜かれそうになる。
放たれた方向を見てみると馬に乗った極彩色のド派手な着物を着た輩が何やら「猿っ、こっちへ来い」と喚いていた。
何じゃこいつと思ったけど、ぼっとしてると、また弓矢をセットしているところだ。
どうやら、こちらに狙いを定めているようなので仕方なく、そいつの元へ行ってみると。
「猿め、命拾いしたな。猿真似してみろ!」
何か得体の知れないものを本能で感じたので仕方なく「キッ、ウッキィ」とその場で小躍りしてみせてやった。
「猿、明日城へ来い。小者にしてやる。我が名は信長じゃ」
そういうとそいつは馬にむちを入れて走りさった。
それが、俺と御屋形様こと信長さまとの出会いじゃ。
そうして信長さまにお仕えして数年後、俺はそこそこの部下をもつ侍大将となり、越前朝倉を討伐する為に越前金ケ崎の地に赴いてるって寸法だ。
我らが織田陣中では、昨日より攻略していた金ケ崎城を落城させた事で勝利に大いに酔いしれていた。
織田家中及び徳川方、池田、松永等を含め総勢三万の兵での朝倉討伐、金ケ崎城を取り囲み籠城策も取らずに北方に逃げたところをみれば、この戦勝負あったというもので朝倉の滅亡は必定だと我らは楽勝ムードが漂っている。
そして、この流れの中軍議が執り行われていた。上座の信長さまは戦果に満足なのだろう、すこぶるご機嫌なのが末方にいる俺にもよくわかる。
「義景の奴、逃げ足だけは早いわ。追撃するに誰かおらぬか!」
信長さまは、時折家来の対抗心を刺激するような事を言われ家来の向上心を見られるのがお好きだ。
いの一番に手をあげようかと思ったが今は末席の身分なので、少し様子を見るのが賢いやり方だ。この場は自重してみる。
農民出の俺が侍大将までのし上がる過程で露骨に手柄を立ててきたから、面白く思っていない家中の者は少なくないからだ。
「ここは、拙者勝家にお任せあれ」
武骨だけが取り柄の筆頭家老の権六こと柴田勝家が一番名乗りを上げた。
ちなみに柴田は俺のことを嫌っている筆頭でもある。
「いやいや、それではここまで出張ってきた三河武士の名が廃りまする」
すかさず義兄弟の契りを交わしている家康殿が割って入った。まぁ、実際のところ主従関係が暗黙の了解といったところ。
手を上げないと忠誠心が疑われてしまうのでやもえないといったところだと察する。
「御屋形様、少し気になる事がございまする」
出世競争たけなわの軍議の場でようやく本命の光秀が声を挙げたと思うと何やら怪訝な顔をしている。
「何じゃ、光秀申してみろ!」
場の雰囲気を壊しかねない物言いに信長さまはやや口調が荒く問い返す。
的外れだと蹴り出される状況に思えた。
「実は朝倉方が早々に城を開け放し木ノ芽峠で防御しているのが腑に落ちづ忍びに探らせておりましたところ……」
「で、なんじゃ、早う申せ」
状況に応じて深慮深いのが光秀のいつもの話し方だが、時折御屋形様を怒らせる。
「はい、浅井長政殿がご謀反の疑いあり」
光秀の発言に場は一瞬時が止まったかのように静まり、そしてどよめいた。
浅井長政ってのは信長さまの義弟で近江の大名だ。信長さまの妹君のお市さまが浅井家に嫁いでおられるってわけだった。つまり裏切りなどあり得ない絆があると信長さまも家中の者も思っている。
だが、それと同じくらいに光秀の情報も信頼度は高いと言う事は信長さまは知っておられる。
そんな不穏な空気が流れる中、小姓がお市の方様よりの陣中見舞いが届いたと信長さまに献上した。
献上品を手に取った信長さまの顔色が見る見るうちに青ざめていく。
お市さまが贈ったものは両端がしっかり結ばれた小豆の入った袋だった。
「うぬぅーおのれ長政めー」
信長さまは袋を力まかせに引き千切ると真っ赤な顔で激高された。
この両端が結ばれた小豆の袋が意味するのは、我らがいる金ケ崎から見て北の越前、南の近江が閉じられている。つまりは南の浅井家が裏切った事を指していたからだ。
こちらは兵力3万と浅井、朝倉軍には数では勝っているが、はさみ撃ちにされると話は別だった。しかも向こうは慣れた土地故に地の利にも長けている。ここは潔く良く陣を払い【撤収】あるのみの状況だった。
だが撤収して信長さまを逃がすにも、この地に留まり敵を引き付け時間稼ぎする者がいる。
つまりは殿ってことだ。
さて、誰がそんな貧乏くじを引くものがいようか。
気がつくと、俺は末席からスルスルと畳を膝ですりながら場の真ん中でひれ伏していた。
「恐れながら御屋形様、殿の任。この藤吉郎にお願いしたい次第でござる」
あ、自分で言ってながら。何てヤバいお願いしてるんだ!!
「猿っ、いや藤吉郎お前死ぬぞ」
柴田勝家が分かってる事を言ってくる。
脳裏でここまでついてきてくれた弟の小一郎や蜂須賀の川並衆といった家来の顔が浮かんだ。それにもまして、内助の功で尽くしてくれてる寧々の顔が浮かぶってもんだ。
そして、出世欲からの出しゃばりに猛省したがあとの祭りだったりする。
「であるか!」
と信長さまは上座から歩みよると。
「藤吉郎はまっこと武士の誉なり!!」
と頭頂部をスリスリと撫でてくださった。
「恐悦至極に存じます」
畳にデコがめり込むぐらいに頭を垂れると嬉し涙が溢れてくるってものだ。
「拙者も藤吉郎殿に助太刀いたす」
徳川殿と光秀が同じく殿に名乗りをあげていた。
「我、これより撤収いたす」
信長さまは小姓と一緒に場を去られた。
すぐにお供の者を連れて軍をひかれるであろう。
殿として、信長さまのお見送りをしないといけない。
出世欲から取った役目。
共に命を張ることになる小一郎や蜂須賀小六に伝え準備しないといけない。
時間は少ない、急ぎ千成瓢箪が馬印で掲げている自軍本陣に戻った。
青い顔していたのか、戻ると「兄者何かあったか?」と小一郎が聞いてくる。
状況を説明すると、小一郎の顔が真っ青になった。
「死んだわな、俺達」
小一郎は仏頂面してブツブツと小言を吐きながら戦の段取りに向かってくれた。
ここまで出世してこれたのも弟の助けがあっての事でもあるから、小一郎にはほんとは頭が上がらない。
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