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仇討ちの娘  作者: サクラ近衛将監
第四章 琉球

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4-1 新たな旅

 婚礼から半月後、宗徳は仙洞御所を訪ねていた。

 父である法皇から呼ばれたのである。


 御所に入るとすぐに書院に通された宗徳であるが、法皇のいきなり第一声が呼びかけた。


「なんじゃ、そちだけか。

 可愛いそちの嫁はどうしたのじゃ。」


「彩華なれば、今日は女衆を(ねぎら)うため、嵐山へ散策に出かけておじゃります。」


「なんと、また、間の悪き折にそちを呼んだものじゃ。」


 そういって嘆息(たんそく)する父の姿はある意味で滑稽(こっけい)ですらある。


「父上、色惚(いろぼ)けするにも御歳を考えなされた方が宜しきかと・・・。」


「馬鹿を申せ。

 男から色欲を抜いたらもう棺桶(かんおけ)の中も同然じゃ。

 さほどに早う()んで欲しいと思うておるのか?」


「滅相もおじゃりませぬ。

 なれど、少しは抑えられた方が長生きできましょう。」


 法皇は手を軽く振りながら言った。


「陳は、死ぬまで女人の肌を求めるのが務めよ。

 そちの嫁女はいくら何でも拙いからのぉ。

 ほれ、そちの嫁の女御(にょうご)で色黒で細目がおったであろう。

 あれを御所に来させぬか?」


「ほう、父上の好みは百合にございましたか。

 なれども、百合を口説くのはお止めなされ。

 余程のことが無ければ百合は父上には(なび)きませぬ。」


「そこが良いではないか。

 落とせぬ女人を落としてこそ男たる所以じゃ。」


「残念ながら百合は普通の女子(おなご)にはございませぬ。

 鬼百合とまで言われた女忍び、父上がたぶらかされるかお命を縮め参らせるかが落ちにござりまする。」


「なに、あの楚々(そそ)とした女御が忍びとな。

 伊賀か、甲賀か・・・或いは能登の歩き巫女か?」


「風魔と聞いておりまする。」


「風魔?

 まさか戦国時代最強の乱波(らっぱ)と言われたあの風魔か。」


 宗徳は静かに頷いた。


「ほう、まさか風魔の一族が未だに残っていたとはのぉ。

 そちも色々な者と知り合いになるのぉ。

 確か山窩(さんか)の血筋の者もおったのぉ。

 それに土蜘蛛(つちぐも)も・・・。

 ようもそれほど幻の民を集めたものよ。」


「格別に集めたわけではございませぬ。

 たまたま某の目に(かな)った者がそうであっただけのことにございます。」


「ふむ、それにしてもそちの屋敷で働く女は美形の者が多いわ。

 男もなかなかの面構えをしておる者が多いのう。

 法皇であろうと。百万石の大名であろうと、(おく)せぬ(やから)と見たが・・・。」


「多少風変りの者は多いかもしれませぬな。

 何せ一芸に(ひい)でたものが多うございますから。」


「たとえば?」


希代(きたい)の盗人が一人おります。

 この者、この仙洞御所に忍び込み、誰にも気づかれずに盗みを働くことができましょうな。

 尤も、彼の者は盗みからは完全に脚を洗っては居ります。

 それに雑賀(さいが)の者が一人、この者は鉄砲を持たせれば、おそらくは日の本一の名手にございましょう。」


「ふむ、嵯峨野(さがの)の屋敷だけでなく、大阪の方にも人を抱えておるであろう。」


「はい、我が船を動かす水夫は熊野水軍と来島水軍の末裔(まつえい)にございます。」


「九州の者は居らぬのか?」


「九州?

 いないこともございませぬが、何故、九州の者をお探しにございますか。」


「うむ、実は島津を探ってもらいたいのだが、そのような者が居らぬか。」


「島津にございますか・・・。

 ()の地は難しゅうござります。

 島津殿は関ヶ原の折に西軍にお味方なされし外様(とざま)、幕府の目も厳しくそのため国を閉ざしております。

 特に福島殿を始め、豊臣に近かった外様は、関ヶ原の折に最初から東軍に参陣せし者であっても、難癖を付けられ改易(かいえき)憂き目(うきめ)にあっております。

 ために藩内に出入りできる者を極端に少なくする方策を取ったのです。

 国境には如何な辺鄙(へんぴ)な場所にても関所、監視小屋があり、密かに藩内に入ることが難しい上に、余所者(よそもの)を嫌うと言う風潮が顕著な土地柄、見慣れぬ者が参りますと農民、町民こぞって警戒をなしまする。

 一番の難敵は薩摩の言葉にござりましょう。

 隣の日向(ひゅうが)肥後(ひご)とも明らかに異なる話し言葉は、余所者か否かを判別するのに役に立ちます。

 ために幕府御庭番も薩摩にだけは入り込めぬと聞いております。」


「うーむ、やはり島津を探るには、薩摩の者でなければならぬか。

 誰ぞ知らぬか?」


「薩摩藩士に二人ほど知り合いはございますが、何を探るのでございましょうや?

 お武家に藩内の事を聞いても、自藩の恥になるようなことは決して申しませぬぞ。」


「そうじゃろうのう。

 実は・・・。

 琉球王から密書が届けられたのじゃ。」


「琉球王と申せば先年、国司であったお人が琉球王の称号を許されたとか。」


「よう、存じておるのう。

 その王になったことにより、朝廷へ朝貢(ちょうこう)使節を送って参った。

 琉球は遠いでのう。

 琉球の使者が京へ参るのは、儂の記憶にある限り、此度を含めても二度だけじゃ。

 その使者がこの御所へも挨拶に参ったが、土産の塗箱(ぬりばこ)に密書を隠し持っていた。

 塗箱の底に仕掛けを施し、この儂に救いを求めて参ったのじゃ。

 帝にでも幕府にでもなく、この儂に救いを求めにな。

 何とかしてやりたいとは思うが、実情がわからぬ。

 何の証拠も無く、儂が動くわけには参らぬ。

 そこで、信用のおける者に薩摩と琉球の関係を探ってもらいたいのじゃが、やはり難しいか。」


「琉球と島津の何を探るのでしょうか?

 もし、どうしても必要ならば、私がやってみますが・・・。」


「そなたが?

 いや、そなたは大事な千代の子じゃ。

 危うい目には()わせとうはない。」


「父上、可愛い子には旅をさせよと申すではございませぬか。

 如何に探索の術に()けていようと、薩摩への潜入は難しいのは判り切っております。

 なれば正々堂々と表玄関から訪ねれば宜しいのです。

 幸い私は、特段の任には就いておりませぬ。

 また、彩華と私は婚礼を挙げたばかり。

 その婚礼の(はなむけ)として諸国を旅するのも一興にござりましょう。」


「何?

 婚姻の旅、・・・いや新婚の旅であるか・・・。

 ふむ、それも確かに面白いのぉ。

 が、仮にそれで薩摩に入ったとしても、そなたらには当然のことながら監視の目が付こうぞ。」


「構いませぬ。

 私と彩華は、言わば囮にございます。

 二人は派手に遊興の旅をすればよく、伴の者が周辺を探って参りましょう。」


「ん、・・・。

 風魔の娘か?」


「左様にございます。

 それに負けず劣らず、城にも忍び込める達人の元盗人もおりまする。」


「なるほど・・・・。」


 暫し、瞑目していた法皇はやがて眼を開き言った。


「宗徳、どうやらそなたの策が良きようじゃ。

 千代には叱られようが、頼めるか?」


「はい、承りましょう。

 ただ、幕引きをどのようにお考えか、お聞かせ願えましょうか?」


「うむ、千代の願いもあって、そなたを余り政に関わらせとうは無いがな・・・。

 薩摩が琉球を属国として扱い、琉球の民を(しいた)げておるのであれば、琉球を救ってやりたいのじゃ。

 琉球と薩摩の交易は許すが、琉球の自治は確保されねばならぬ。

 本来は、幕府がそのような配慮をなすべきであろうが、幕府がせぬならば、朝廷が動くようにする。

 朝廷から琉球王国へ使者を直接遣わすのじゃ。

 さすれば、朝廷が正式に認めた王国故、幕府の外様大名に手を出せる道理がない。

 形式的にはそのように収めるつもりじゃが・・・。

 それだけでは済まぬであろうな。

 薩摩と琉球では武力が違いすぎる。

 百年前に薩摩が琉球へ侵攻した折は、薩摩二千の兵に対し、琉球は倍の四千で迎え撃ったそうな。

 が、琉球の軍はあっけなく半数の薩摩兵士に打ち破られてしもうた。

 彼我の武力の差は如何ともしがたい。

 琉球が。いかさま薩摩の支配から抜け出て、独り立ちできたにしても、放置すれば武力で琉球は薩摩に虐げられよう。

 幕府は知ってか知らずか、見て見ぬふりをしておる。

 琉球は古くから大陸との結びつきが強い。

 大唐国、大明国そうしてただいまの大清国に対して朝貢をなして存続してきた小国じゃ。

 そうせねば。生き残れぬ国でもあった。

 先頃、大清国は台湾をも領土に加えたと聞く。

 大清国の康熙帝は、武をもって四囲を平定するお方のようじゃ。

 未だに琉球に手を出しておらぬは、島津の強兵がおると知ってのことであろう。

 薩摩が居る故に、琉球は清国からの侵略を受けずに済んでいる。

 古来、琉球は我が国との駆け引きをもってそうした大国の侵略を何とか防いでいたのじゃ。

 仮に薩摩が手を引けば琉球は清国の領域に組み込まれてしまうであろうな。

 清国にも属さず、薩摩の支配も受けずに存続しようとするなれば、相応の武力を持つか或いは武力を持つ国を味方にせねばならぬ。

 今の幕府は当てにならぬ。

 鎖国政策に汲々とし、外の情勢を知ろうともせぬ。

 古来、我が国は高句麗、朝鮮、隋、唐、明などとの交易を通じてその文化を学び、進歩して参った。

 それを絶ってしまうことは、文化的な停滞につながる危険性がある。

 鉄砲は外国より伝来したもの。

 あのような武器を新たに生み出す発想が、我が国の者には乏しいのじゃ。

 朝鮮や唐土の文化を物まねするのは上手いのじゃが、逆にかの国へ持ち出せるような独自の文化が無い。

 そのような国が鎖国をなしては、諸外国に後れを取るは必定(ひつじょう)

 いずれ、我が国は諸外国に侵略される憂き目(うきめ)に会うやも知れぬ。

 防ぐは武士なれど、いつまでも刀槍では相手に打ち勝てぬ事態が起きような。

 儂は、そのためにも琉球を諸外国の文化の受け皿として幕府の管轄外に置きたいと思うておる。

 我が国が鎖国をするは自由。

 が、琉球とは自由に交易をなし、琉球は諸外国との自由な交易をできるようにするのじゃ。

 そのためには、琉球を庇護(ひご)する力が必要じゃろうのぉ。

 そのことに未だ解決の道筋はできておらぬが、とりあえずの第一歩としては、薩摩の干渉を極力排除し、なおかつ傍目には薩摩の武力が及んでいるように見せかけるのが上策と思えるのじゃ。」


「父上、その庇護の役目を朝廷の陰の力で行うは、如何にござりましょう。」


「朝廷の陰の力?

 御所忍びは絶えて久しい。

 陰陽師もかつてのような法力は持たぬ。

 そのような力を持つものなど調停にはおらぬわ。」

 

 法皇は(くや)しそうに言った。


「松倉の母に下されし家紋は、陰十二菊にございます。

 我が松倉家が家紋のごとく朝廷の陰の力になりましょう。」

 

 法皇は驚いた表情を見せた。


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