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珈琲之助物語シリーズ

あの男の正体は

作者: 珈琲之助

突如として現れたスーツ姿の男。なぜ、彼らは主人公につきまとうのか。

一週間前、ある男が特売で10万円になったテレビを欲しくなった。その特売は前日に終わり現在そのテレビは12万円だ。なぜ彼はテレビを買わなかったのか。それは自由に使用できるお金が5万円だったからだ。しかし、彼は国民的アニメのようなタイムマシーンを所有しており過去や未来へ自由に行き来できる。ある日、男はその5万円を持って1週間前の自分に会いに行く。そして1週間前の自分に5万円を渡して欲しかったテレビを購入するよう言った。1週間前の彼は胸を弾ませながらテレビを買いに行く。

ここで問題。彼はテレビを買うことができるかできないか。


「できると思う」


と言ったのはわたしの彼女だ。今、静かで落ち着いたカフェで恋人と向かい合わせに座っている。わたしはなぜ、できるのか彼女に聞いた。


「だって5万円が2つで10万円になったから」


わたしは頷いた。確かに5万円が2つで10万円になる。しかし、1週間後の5万円と1週間前の5万円はイコールで結ばれる。それは所有者が同一人物だから成り立つことだ。


「もしかして1週間後の5万円を受け取った瞬間に1週間前の5万円が消えるって言いたいの?」


彼女の言い分もなくはない。だって同じ5万円だから。果たして5万円はどのようになるのか。それはタイムマシーンがなければ検証することができない。


「タイムマシーンか」


タイムマシーンがあっても今のままがいい。そう彼女は言った。ということは私のことを心の底から愛してくれている。そういうことになるのか。それともマイムマシーンなんて実現しない。そう思って「今のままがいい」と言ったのか。


「おーい」


考えすぎて頭がぼーっとしていた。彼女は不思議そうに私に声をかけた。ハッと目を覚ました私は考え事をしていたと言った。そして私が珈琲を一口飲んだ時、彼女がこんなことを言った。


「彼が10万円のテレビを買うことができたら1週間後の未来ってどうなっているんだろう」


この質問に対する私の意見はこれだ。もし、そのテレビがメーカーに返品もしくは破棄しなければならないほど保管され続けた場合、ほかの人への影響はさほどなさそうだ。しかし、誰かが購入する予定だった場合は別だ。


「そのテレビが買えなくなったことで何が起きるの?」


何が起きるのか。ほかのお店のテレビが1台なくなりそれが連鎖的に起こり……私は言葉につまりうまく説明することができない。これで地球が爆発することにつながるとすれば「ある男」は地球上での重要人物になる。かもしれない。


「もうそんなことどうでもいいじゃん」


確かにどうでもいい。これは作り話なのだから。それより今日は将来のことについて話し合おうということでカフェにきた。私は彼女と婚約しており近々、結婚式を挙げる予定だ。


「発見しました」


先ほどからスーツを身にまとった2人組の男がこっちを見ている。なにやら言っている。不審に思った私は彼女に出ようと言い、会計を済ませて店を出た。


「どうしたの?」


やはり2人組が追ってくる。私は彼女に何も言えないまま手をつなぎながらひたすら歩き続けた。歩くのが疲れたのか彼女が足を止め、不機嫌な様子で私に言った。


「さっきから変だよ」


私は言おうか迷った。ここで言わなければ彼女は機嫌を損ね、婚約が破棄されるかもしれない。だが言ったところで信じてもらえるのだろうか。私はその場で悩んだ。スーツの2人組は私たちをあの電柱に隠れて監視するだけで何もしてくる様子はない。


「ねぇどういうこと?」


徐々に彼女の苛立ちが感じ取れる。私は馬鹿にされてもいいと思い、彼女にすべてを話した。すると彼女は周りを見渡した。私はあそこの電柱にと指をさした。だがそこには誰もいなかった。


「誰もいないよ」


どういうことか。男2人組は確かにあそこに隠れて私たちを監視していたのだがいない。どこを見渡しても彼らの姿は見当たらない。


「大丈夫?」


私は頭がおかしくなりそうだったが大丈夫と言って彼女とともに自宅へ向かう。ここは私が一人暮らしをしているマンションの一室だ。当然、彼女は何度も訪れている。彼女は実家暮らしなのでこの部屋で一緒に住もうと話している。


「本当に追われていたの?」


私の記憶が正しければ追われていた。しかし、タイムマシーンのことを話していたせいか私の勘違いだった可能性がある。だとすれば彼らは一体、何者だったのか。


「もしかしてあたしに何か隠してない?」


そういう状況になれば彼女に疑われても仕方ない。私は好きなところを見ても構わないと彼女に言った。すると彼女は机の引き出しの中など何か隠せそうな場所を次々と確認していく。


「スマホ貸して」


最後、彼女とスマートフォンを交換した。彼女も隠していることがないのかロックを解除して私に渡した。私はいろいろなアプリを開いて見て回った。最後はGPSアプリ……っておい。


「GPSアプリをつけてるって言ってもね」


別に私に怪しいことなんてない。また、私はあの男たちは何者なんだということを考えてしまった。気分転換にと窓を見た。あの男たちがいる。1人増えている。


「はい」


彼女からスマートフォンを返してもらった。特に異常はないということになり、私への疑いは晴れた。私も彼女のスマートフォンに何も異常はないと言った。


「なに見てるの?」


私は窓からさきほどの男がこっちを見て話をしていると彼女に言った。私は彼女にあの人だちだと指をさした。しかし、彼女は誰もいないと私に言う。


「誰もいないよ」


うそだ。絶対にうそだと言いたい。だが彼女の言っていることは本当だった。彼女に見せるまで確かにあそこに複数の男がこっちを見ていた。私は何も間違ってはいない。けれども彼女は何も見ていない。


「大丈夫?」


彼女に心配されてしまった。しかし、すぐに人は姿を消せるのだろうか。ほんの2、3秒の間に走ったのだとしたら1人くらいは見えても仕方がない。一瞬に複数の人間が消えたとすれば超常現象といってもよい。


「もし本当だとすればなんかコワいね」


確かに。私の見た光景が本当だとすればかなりコワい。いつ襲われるかわからない。彼女だって同じことを思っている。ではどうするべきか。それは簡単だ。ここを引き払って引っ越しをすればいい。私は彼女と合意の上で新しい住居探しを始めた。


「今日からよろしくお願います」


新居で私は彼女と新婚生活をスタートさせた。あれから数か月。私は前の自分が住んでいた場所で起きた出来事を久しぶりに思い出した。それは夜中のことだった。隣には彼女が寝ている。私は彼女を起こさぬよう静かに窓から外を見た。誰もいない。


「どうしたの?」


彼女が寝ぼけ眼で私に言った。私はなんでもないと彼女に言い、再び眠りについた。それからしばらくしてぼそぼそと外から声がする。外で誰かがしゃべっているのだろう。私は気にはとめず。起床時間まで起きることはなかった。


「起きて」


彼女の声で私は目を覚ました。寝ぼけているのか。彼女が難しい顔をしている。私はどうしたのか尋ねた。すると彼女と台所へ行くとスーツ姿の見知らぬ男性が2人、座っていた。私は彼女にどちら様か2人の正体を尋ねた。


「突然、尋ねてきて」


彼女が言うには彼らは私たちの名前を知っているのだという。私は彼女から聞いた話をたよりに男2人に正体を尋ねた。その際、彼女に警察へ通報するようと言って。


「電話が……スマートフォンが」


彼女が通報しようと固定電話を触ったが受話器が動かない。スマートフォンでしようとするも電源が入らない。彼女は慌てて私の側に来ては事情を話した。私は彼らの仕業だと思い、毅然な態度で出ていくよう言った。すると男が1人立ち上がり、私にこういう者ですと丁重に言った。


「未来?」


彼の名刺の頭文字に未来と記されていた。文字からしてとても重要な組織であることがわかる。私は何かの冗談だ。ふざけるなと名刺を机の上にたたきつけた。そして彼女を側において流し台のところにある包丁を手に出て行けと声を荒げた。


「出てって!」


彼女も大声を出す。すると男2人は顔を見合わせてわかりました。お騒がせして申し訳ありません。と丁重にお辞儀をした。そして部屋を出た。私は包丁を置いて彼らを追った。彼女はやめてと言ったが私は居てもたってもいられなかった。


「ちょっと」


私が彼らを追いかけようと部屋を出た。その直後、彼女も部屋を出る。私は部屋のすぐそこで追うのをやめた。なぜか。それは男たちが私の目の前で姿を消したからだ。信じられない光景に私はその場で膝から崩れ落ちた。そんな私を彼女は優しく抱きしめた。


「入ろ」


私は足をふらつかせながら彼女の支えで部屋に入る。玄関先で座り、扉を呆然と眺めた。朝からとんでもないことに巻き込まれた。私はしばらく動くことがきなかった。お昼になっても夕方になってもその場から動くことができないでいた。


「いい加減にして!」


こうなれば彼女が怒るのも無理はない。私は夜になってようやく立って台所へ足を運んだ。椅子に座り、彼女の手料理をいただく。それからは男のことは何も考えなくなった。いつも通り、彼女と同じベッドで横になった。眠れないと思っていたが不思議とぐっすり一度も起きることなく朝を迎えることができた。


「おはよう」


台所へ行くと彼女が朝食を作っていた。私はおはようと彼女に言い、洗面所で顔を洗う。彼女と向かい合って朝ごはんを食べる。いつもながら彼女の作る料理はおいしい。


「行ってらっしゃい」


私は彼女に見送られて仕事に向かう。いつもの時間に私は彼女の待つ新居の近くに戻ってきた。今日の晩御飯はなんだろうと思い浮かべながら。昨日とは打って変わって気分がいい。そんな私にアイツが声をかけた。そして私を取り囲んだ。あともう少しで我が家だったのに。私は彼女の名前を呼ぶ間もなく男たちによって怪しいマシーンに乗せられて見たこともない世界に連れていかれることとなる。

<完>

彼らの正体はなんだったのか。怪しいマシーンとはどういうものなのか。そもそも彼は最後にどのような世界に連れていかれたのか。それではまたどこかでお会いしましょう。

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