②
その後、リリーとルーカスは入籍し、夫婦となった。
そして、数か月後―――
「お嬢様、伯爵様達がお出でです。」
「分かったわ、応接室に通してちょうだい。」
「やぁローザ。」
「御機嫌よう、ローザ嬢。」
ローザが応接間に入ると、いつもの調子でルーカスと伯爵が声をかけてくる。
「お待たせしてごめんなさい。それで何の御用かしら?」
座ると同時に用件を切り出すと、2人が少し気まずそうに口を開いた。
「いやぁ~実は…君に貰ってる援助、もう少し上乗せしてくれないかなぁ~と。」
いやリリーには最高の環境で迎えてやりたいし、ウチは何かと苦しいし、苦労はさせたくないし…何とかならないだろうか。」
身振り手振りで言い訳するルーカスと慌てて言い訳する伯爵を見て、ローザはクスッと笑いながらカップに口をつける。
「その割には随分と、派手に遊んでらっしゃるようね。昨夜も娼館や賭博場で、どんちゃん騒ぎしたそうね。」
指摘すると、2人がバツが悪そうな顔になった。
「い、いやぁ~早耳だねぇ。昨日はちょっとその…ほらもうすぐリリーもうちに来るし、最後の息抜きで。」
その様子を眺めながらカップを置くと、困ったように首を傾げた。
「でもごめんなさいね、あいにくうちもそれほど余裕がある訳じゃないの。今以上の援助は出来ないわ。」
「そ、それは困る。何とかならないか?」
伯爵が慌てた様子で迫る。
ルーカスも焦った顔で、身を乗り出すとローザの手を握って来た。
「そ、そんな事言わないで、助けてくれよ~。リリーと僕は夫婦なんだしさ、リリーのためと思って。」
するとローザは、困った顔で話を切り出して来た。
「実は…1つだけ手が無いわけではないの。ホラ我が家って商会の規模は大きいけど、平民でしょう?伯爵家の名前を貸してくれれば、上級貴族の取引が見込めるのだけど…。」
そう言って上目遣いに、ルーカスを見る。
さすがにルーカスも、狼狽えた。
「い、いや流石に、伯爵家の名前を貸すのは…。」
「そうね、さすがにダメよね…。残念だわ、名前が借りられれば今の10倍は援助できるのに…。」
ローザが悲し気に目を伏せると、ルーカスが即答した。
「10倍!?乗った!リリーのためだし、仕方ないな。いいですよね、父上?」
「う、うむ…仕方ないな。」
その言葉を聞いて、ローザも嬉しそうに顔を上げる。
「ありがとう、きっとリリーも喜ぶわ。伝えておくわね。それじゃあ、こちらにサインをお願いね。…はい確かに。それじゃあ約束の援助ね。」
「あぁよろしく!」
「ではお邪魔したな、また来月。」
大金を渡すと、上機嫌でルーカス達は帰っていった。
その様子を見送るローザは、先ほどまでと打って変わって冷ややかな目で嗤っていたが、2人は気づかなかった。