①
久しぶりの投稿です。楽しんでいただけると嬉しいです。
「お姉様お願いです、彼との結婚を認めて下さい。」
「彼女を愛してるんです、必ず幸せにしますから。」
部屋の中で3人の男女が向かい合っていた。
正確には一組の男女と、女が一人である。
何度も繰り返された定番のやり取りに、女がうんざりした表情を隠しもせずため息をつく。
(ここは私の書斎で、まだ仕事中なのに)
ただでさえ頭の痛い案件が上がって来ているところに、この堂々巡りで女の機嫌は最悪だった。
2人も女の不機嫌を何となく察しているようだが、引く様子はない。
やがて何度目かのやり取りの後、女は2人を追い出そうとする。
そこへ妹が待ったをかけた。
「待ってお姉様、それなら―――。」
「誠に申し訳ない!この愚息にはよく言って聞かせるので、どうか婚約解消は思いとどまって―――。」
目の前で婚約者の父、ライアー伯爵が頭を下げるが、当の婚約者は反省した様子もなく、伯爵に反論する。
「やめて下さい父上!僕とリリーはただ愛し合っているだけなんです。運命の相手に巡り合ってしまった以上、偽りの関係を断ち切って真実の愛に生きるのは、何も間違っていません!」
息子の言葉に、伯爵が激高する。
「何が真実の愛だ!この婚約が無くなったら我が家は終わりだと散々言っておいた筈だ!」
「それなら大丈夫です、何せローザはリリーをとても可愛がっていますからね。リリーのために身を引いてくれるでしょう。ねぇローザ、そうだよね?」
婚約者のルーカスが、こちらを見る。それにつられて伯爵もこちらに注目する。
「そうね、可愛い妹のためと思えば仕方ありませんね。」
ニッコリ笑って、カップに手を付ける。
視線の先で婚約者が得意げに、伯爵が唖然とした顔でこちらを見ていた。
「い、いやその…そうしてくれるとこちらとしても助かるが、本当に良いのか?」
伯爵が不安そうな顔で問いかける。
私は再度ニッコリして返答した。
「残念ですけど…妹のためですから仕方ありませんわ。その代わりこちらもお願いがあるのですが…。」
そう言って切り出すと、2人は笑顔でこちらの条件を了承した。
「何だ、思ったより上手くいったな。」
帰宅後、伯爵が上機嫌で切り出す。
「だから言ったでしょう?ローザはリリーを溺愛してるから、鞍替えしても許してくれるって。」
ルーカスもご機嫌でワインを取り出すと、グラスを用意して伯爵と自分の前に置いた。
グラスを持ちながら、伯爵がふと眉を寄せる。
「しかし変わった条件だったな。『妹を傷つける行いをしたら、契約破棄で慰謝料を貰う』はともかく、まず籍を入れるだけで、1年間リリーはローザの元で暮らす事』とは…。」
不審に思う伯爵を尻目に、ルーカスは上機嫌で否定する。
「まぁいいじゃないですか。ローザも『妹と離れるのは寂しいから、別れを惜しむ時間が欲しい』って、言っていたでしょう?それだけ仲が良いって事ですよ。おかげで『結婚準備のための援助』で、かなりの援助が約束されたし、リリーはローザほど賢くないうえ僕に夢中だし、子供が生まれれば邪魔なローザを始末して商会を乗っ取れるし、いいことづくめですよ」
ルーカスの台詞に、伯爵もホッとした顔をする。
「そうだな、女が商会長など生意気だ。あんな小娘よりも、私達が商会を運営した方がはるかに発展する。」
「そうそう。だからこれで良かったんですよ。」
そう言って2人は、一晩中祝杯を挙げた。