家とのつながりなどもうありません!
池に落ちてから3日目。池への落下については神官長に呼ばれた。
おこられる、と思ったけど、孤児の不祥事に少し焦っていて怒られはしたが、ポルジア家当主の聖堂責任者に呼び出されることもなく済んだ。
その一方で、ザンクは私の一挙手一投足すべてを監視するかのようにずっとそばについているようになった。
はじめのうちは、みられてる、と少し緊張感があったりもしたが、3日目の今となってはすっかりなれて鬱陶しいくらいに感じている。
周りからは少し好奇の目で見られるし、ローリエには『あなたが心配なのね、きっと。ザンクは過保護ね』と生温かい目で見られるようになったのだが、そうじゃないんです! 私は監視されてるだけなんです。
監視してもいい、そうザンクに伝えたのは私だったりするんだけど。
しかし、とても幸運なことに、あれからいちどもザンクとふたりきりになってはいないのは、孤児院・聖堂様々の集団生活のおかげだ。
ずっと付きまとわれているとうんざりしてくるので、相変わらず少ない食事を改善するために練っていた計画を開始して、気を紛らわすことにしよう。ずっとつきまとっているザンクにも協力してもらえれば、2倍の効率だ。
どうせそばにいるんだから使えるものは使えばいいよね。
「ねえ、ザンク。畑を作ろうと思っているのだけど、場所を迷っているの。山に作るのが、一番いいとはおもうのだけど、山には滅多に行けないじゃない? だったら、この部屋を広げて畑にするのもいいと思うのだけど、この部屋を畑にしたらみんなは寝にくいわよね」
ザンクはぎょっとした感じだ。
「畑を作る? なんのために?」
「だって食事がこれだけでは足りないわ、そうでしょう?」
ザンクは不思議そうな顔をして、私を人気のない廊下に連れ出した。ついに2人になってしまった。今回は首を締められそうなわけではないが、威圧感が半端ない。
「それだけの魔力量があれば、なにかの意図があって家から派遣されているのだろう? ならば、セレナはアルデンヌ家からの援助があるのではないのか」
どうやら、ザンクは派遣されているようだ。しかし、そんな役割を担っているわけでない私は首を横にふる。
「いいえ。私がここに入れられたのは、他の子供と一緒で、魔力量がたりないからよ。ご覧の通り、私の母は隣国の人間だったわ。母様が殺されたあと、私は庶民の孤児に落ちても仕方のないくらいに何も持たなかったわ。
ただ、母様の魔力はもともととても強かったので、父様も期待して私を家に引き取られたの。でも私にはそんな魔力はなかったわ。父様はもともと魔力目当てだったから親しくしてくださったこともないし、正妻にも異母兄にも冷たく当たられてて、喜んで私を追い出したくらいだもの、私が家にもどるアテはないわ。
3男のアデック兄様はなにかと庇ってくださってたけど、数年前から学業で家からでられているので、私にはアルデンヌの援助のアテはないの。兄様は私が追い出されたこともご存知ないはずよ。だから、ザンクが心配しているようなこともないの」
ね? とザンクに念を押す。
「私は貴族の愛妾になるつもりは微塵のないから、きっとここで一生をすごすことになるわ。本当だったら母様を殺した方々にお返ししたかったけれど、仕方がないわ。ザンクにはあてがあるかもしれないけれど、わたしにはないの。だから協力してくれてもいいわよね? ザンクのことを神官長にうかがってもいいのだけれど?」
暗に、ザンクの正体をバラすと言ってみる。私にいくらツテがなくても、ザンクとしては目をつけられたくないはず、そう信じよう。
ザンクは面白そうに笑い、いいだろう、と言ってくれた。それでは遠慮なく。
「希望としては、3つ。食事改善のための畑の整備と、部屋の衛生のための清掃と、山の動物たちとのふれあいよ!!!」
なにせ、この世界に来てからは動物に触れ合えていないのだ。あちらの世界の実家で飼っていた5匹のワンちゃん、7匹の気まぐれにくる猫ちゃん、食欲不振のうさぎちゃんたちを思い出してしまい最後は語調が強くなってしまった。
途中までふむふむとうなずいていたザンクが止まり、少し笑って言った。警戒心を解きかけてくれているようで嬉しい。
「........最後の希望はなんだ? すくなくとも貴族の娘だったものの願いとは思えないが」
「よくぞ聞いてくれました、ザンク!! やはり動物とのふれあいは欠かしてはならないものなのですよ! 実家にいた際には唯一の話し相手はティティちゃんたちだけでしたが、どんなに支えになってくれたことでしょう! いつも励ましてくれたのです。
いつの日かお異母兄様に目の前で殺されてしまったのですけれども。......ええ、ザンク。敬愛するお異母兄様へこの御恩は必ずお返しするつもりですので安心なさって?」
ザンクが少し引いているのに気づいたので、フォローしてみる。効いてはないみたいだが、立ち直ったザンクに聞かれる。
「......ところで、部屋に畑を作るってどういうことかな?部屋はそんなに広くないが?」
「部屋を広げたらどう? 神官たちは部屋に入ってこないから気付けないはずよ?」
「そこじゃない。どうやって広げるかってことだ」
「ああ、そのことだったら、多分あの壁なら動いてくれるわ。昨日のよる試してみたのよ、少し下がって、って念じていたら下がってくれたの。ザンクも手伝ってくれるわよね?」
ザンクはぎこちなくうなずいた。解せぬ。でも、ザンクにもできるってことだし、孤児院では難しい感じなのよね、きっと。
「では、今日の夜、みんなが寝静まったらにしましょうか」
つぎはザンク視点にしようかな?