聖水を汲みに
とても少ない朝餉を終えたあとは、労働の時間らしい。
「昨日来た貴族出身の新入りと一緒に水を汲んでこい」
30歳くらいの白装束ではなく青装束を着た神官がローリエと呼ばれた14歳くらいの亜麻色の髪の女の子に声をかけた。
聖水を汲みにいくのは貴族出身の孤児のしごとなんだ、とクロンと呼ばれた年下の男の子が誇らしげに胸をはって言った。
聖水にふれるには魔力を少しでも持っていることが条件だからだ。魔力のたりない孤児院の子にとって、すくなくとも『貴族』であることを実感できるのだろう。
もっとも、貴族出身の孤児は魔力目当てや愛妾目当ての商人や貴族などに買い取られる可能性が大きいので、最低限の礼儀作法を学ぶことも貴族出身たちのしごとなのだ。女の子はほとんどが買い取られることになるから、と1年まえから孤児院にいるらしいローリエがこそっと教えてくれる。
『せいぜい母親と同じ道でも歩めるように努力するがいいだろう』
愛妾、という言葉をきいてリフレインするラオスの言葉と顔が頭から離れなくて、息が苦しくなる。ラオスの言う通りになんか絶っっっ対になりません。自分に言い聞かせて感情をなんとか抑えることができた。
*
孤児院の裏に位置している命の山は、命をつかさどる女神ミネルヒロースの大地なので、今は冬であるにも関わらず、青々としている。命の山の聖水には治癒能力があり、魔獣による障害ををも癒やすほどの力がある。だからこそ、聖堂の癒やしの儀式や術で必要となるらしい。
ほんとうにそのとおりで山に足を踏み入れると、まさに植物と動物の楽園。すなわち、前世で動物愛が止まらず、獣医になるべく勉強していた私にとっても嬉しい場所なのである。
昔、母様と一緒に住んでいたときに飼っていたテナーリャやモルンなどの小動物だけでなく、セレナの記憶にはない、大きな猫?トラ?のような大型動物もいて第2類神獣ナターシャだとクロンがおしえてくれる。
本当に楽園みたいなところではあるけど、とてつもなく貴重な聖水らしく王国の管理のもと、厳重に管理されていて、聖堂か王族しか利用できないように池には何人もの見張りがいる。
無断に持ち出すだけで死刑レベルなのだ、と一緒に新参したはずのザンクがポツリとつぶやく。
「聖堂からです」
「おう、聖堂か」
ローリエがそういうと見張りをしている兵士たちは普通に通してくれた。
白い衣装をきているし、子供だけだし、のおかげで全く怪しまれなくて拍子抜けする私。ザンクも少し緊張していたみたいで、少し目をまるくしている。
池、とよばれる池は池に見えないほどの神聖な美しさ。池に駆け寄るクロンに続いて、私も池を覗き込む。普通の水のように透明ではなく青い。
声をかけようと振り向く。しかしザンクは、別人のような鋭い目をして兵士をみていた。
やっと本格的にかけました!
いつもよんでくださりありがとうございます!