記憶の底 下
『母様!!』
夢の中で母様に呼びかけたら、自分の声で目が覚めた。
おずおずと目を開けるとローリエの亜麻色の心配そうな目が私を覗き込んでいる。
(ううっ。また気絶して心配かけてるよ....。超デジャヴすぎるって....)
さっきはザンクとダリウスだったし、今回はローリエだ。申し訳無さと恥ずかしさに襲われる。
もじもじとしている私に気づいたローリエは私の背中を擦ってくれる。
「大丈夫よ。つらいことがあったときは悪夢を見やすいものよ」
悪夢か....。確かに悪夢とも言えるんだろうな。
私は悲しい気持ちで未だに震えている手を見下ろした。私の視線に気づいたローリエは今度は私の手を取って温めてくれる。
「おかあさまの夢をみたの? お母上を呼んでいたようだけど」
うん....
私はゆっくりとローリエのことばにうなずく。
自分の気持ちを整理しようと私は夢を思い返すけれど、自分の気持ちが制御できないほどにあふれ出し、涙が止まらない。
そんなわたしをローリエはぎゅっと抱きしめてくれる。
(あ、なんかひさしぶり....)
この世界に来てから、ずっと気を張りっぱなしだったことにようやく気付き、私は嗚咽や涙を止めようとするのを止める。
「うっ。あのね、うっ。昔の....夢なんだけどね。母様と....父様が抱きしめてくれてた。でも、うっ、急に、魔力が.... で父様は出てっちゃって......」
自分でも何言ってるのかわからない。あまりにも支離滅裂だろうけど、ローリエは真剣にうんうん、と聞きながら頬を濡らす涙を拭き取ってくれる。
その優しさに、つい思い出す。
(お母さん、お姉ちゃん....)
長い間泣き続けた。そろそろ私が泣きつかれ、涙も枯れ果ててきた、というころまでローリエはずっと一緒にいてくれた。
「じゃあ、私は温かい白湯でももらってくるわね」
そう言ってローリエは一度退出する。
*
ローリエが出ていった扉をボーっと見つめていると自分が異質な空間にいることにはっとした。
(えっ。私なんでこんなきれいな広い部屋にいるの???)
確か、夢を見る前には神官長の部屋にいたはずだ。
それなのになぜこんなにも豪華な部屋にいるのだろう。
出窓には美しい布をふんだんに使ったカーテンがかかっているし、反対側をみれば暖かそうな火が暖炉でパチパチと燃えている。
びっくりして掛け布団に顔をうずめると、天井のキラキラした装飾品も目に入った。
(ええと、確か......ロズベルクが去っていったあとに誰だかわからない背の高い人と相対して......)
もしかすると、長身の男に連れてこられたのだろうか。
だとすると、長身の男は敵なのか、味方なのか....?
頭のなかがはてなでいっぱいになったとき、ちょうどローリエが戻ってきた。
聞かなくてなならないことがたくさんある。
「ローリエ、ローリエ。ここはどこ? なんでこんなきれいな部屋にいるの?
あの背の高い男の人は? ザンクは? ザンクとダリウスは無事なの???」
質問攻めにする私に驚く素振りをみせたローリエだが、すぐに笑顔になった。
「ここは聖堂の上級貴族用の休憩室よ。 こんな部屋入ったことがないわ。
金髪の長身の方がここにあなたを連れてくるようにおっしゃったのよ。
それよりも!! あの長身の方はお兄様かしら? とても似ていたわ。
それとも引き取ってくださる方なのかしら? おめでとう、セレナ!!」
ローリエは目を輝かせて祝福をしてくれるけれど、私は心配なままだ。
「分からない。あの人は誰なのか何も知らないの」
ローリエは今度こそびっくりしたようだ。髪と同じ亜麻色の目をパチパチと瞬かせる。
「でも。ザンクも知り合いの方のようよ? てっきりあなたも知り合いなのかと....」
シーン。
沈黙がこの部屋を支配する。
ローリエはどういう状況なのか必死に考えているのが、うーんと頭を悩ます姿から見て取れる。
私も考える。
しばらく考えたが、はたして私は引き取られるということなのか。
しばらくの沈黙の後、ドアをノックする音が聞こえて、二人して扉の方を振り返る。
こっちも背の高い温和そうだけど、ひと目見ただけで高い身分の人のお付きであることがわかる上質な青い衣装を身にまとった若草色の髪の若い男の人が入ってきた。
「お目覚めのようで何よりです、セレナ様。早速で申し訳ありませんが、我が主がお話があるとのことですのでご案内させてください。ご本人だけでお願いします」
私は心配そうにこちらをみるローリエと目を合わせ、大丈夫だよ、とうなずきかける。
静かに私のことを待っていた来客のあとを私はついていくことにした。
やっと次に転換できるかと思います!!




