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記憶の底 上

 パッ。


 ロズベルクが消えたことに気づいた私ははっとして長身の男を振り返った。長身の男は顔も体も動かさずに目だけを私の方に向け、鋭い眼光で私を見据える。


 『敵の敵は味方』


 前世から持ち越してきた真理だけど、共通の敵がいなくなった今となっては、私たちがどのような関係性になるのかわからない。

 

 前世でこの続きを覚えておくんだった! 


 長身の男の深い赤色の目に見据えられた私は蛇に睨まれたカエル同然。


 きっと実際には10秒にも満たない時間なのだろうが、私には永遠にも感じられる。


 タラリ。

 冷や汗が背中を伝う。


 何を考えているかわからない冷たく無感情な目。じっと見つめ返すことしかできない。


 ドサーーー。


 そんなときだった。

 扉が開いてザンクとダリウスが倒れ込むようにして部屋に入ってきたのは。


 「「セレナ!! 無事か?」」


 入ってくるなり私を見つけた2人は同時に叫ぶ。


 そんな二人を見た瞬間、ホッとして緊張の糸が解けた。


 だいぶ酔いは治まったと思ってたんだけどな。

 ザンクとダリウスの懐かしい声が聞こえて私は思わず意識を手放した。やはり無理があったのかもしれない。


 ぐるぐると白く世界が渦巻いている。

 気持ち悪いのだけど、もう流されるがままに身を任せるほかなく抵抗をあきらめる。


 *


 一面真っ白な視界。


 (あれ? 私はなにをしていたんだっけ?)


 奔流に飲み込まれるままに行き着いたのは光の中だった。


 キラキラと降りかかる金の粉が私を祝福するかのように美しく舞う。


 人の声が聞こえた気がして耳をすませば、先程まで真っ白でなにも無かったはずの自分の周りにひとがいる気配がある。私は幼子で、誰かに抱かれているみたいだ。


 目を凝らせば声の主の輪郭はだんだんとはっきりしてきて、セレナとしての母様と......父様だった。


 セレナの記憶ではアルデンヌ家に引き取られたときから父様とはほとんど会っていない。家を留守にすることが多かったからだ。でもきっと父様にちがいない。


 父様は、見たことのないような優しい顔で母様を見つめていて、母様も幸せそうに父様を見ている。


 母様は抱いているセレナの方を見て微笑み、父様に声をかける。


 「この子はきっと優しくて強い子になりますわ」


 父様が母様の肩を抱いている。


 「きっと魔力も豊富でしょう。あなたと私の子なら。そうすればこの子は安全ですね」


 父様は穏やかに首肯する。こんなころがあったんだ。セレナの記憶にも幼すぎてあまり残っていなかった思い出なのだろう。


 (セレナ。こんなに大切にされてた日があったんだよ)


 伝われ! そう強く思ってセレナに心のなかで呼びかける。


  しかし......


 声のトーンが一転する。おずおずと目を開けてみると、父様と母様が低い声で話し合う様子が見える。


 場面が変化したらしい。私は両親がいる部屋の扉をそっと開けて中の様子をみている。窓に映ったセレナをみると、きっと4才かそこらだろう。


 (急に魔力量が減った? どういうことだ)


 父様はさっきまでとは打って変わって厳しい声を出し、感情をあらわにしている。


 (わからないのです、私にも。こんなこと初めてなのです)


 (なにを言ってるかわかってるのか?)


 (わかっております!! でも本当ですの)


 母様は耐えられない、というように悲鳴のような声を上げる。


 (セレナの魔力量も減っています、私と同じ時刻に)


 (だから、なぜ!!!)


 (私にきかないで下さまいませ)


 (ではいつまで?!)


 そこまで言った父様は一旦テーブルに座り、オレンジ色の髪をガシャガシャしながらあたまを抱える。

 そしてフッと自嘲げに笑いながら呟く。


 「なぜなのだ。どうしてこんなことに。家のためにここまでしたのに。魔力のない小娘2人なんぞにどんな価値があるというのだ」


 母様は慌てて言い募る。


 「きっと魔力は戻ってきます。いえ、戻るに違いありません! どうかお助けください」


 父様は母様と私のかくれている場所に視線をあわせるとまたもや自嘲の笑みをこぼす。


 「いつ戻るか、果たして本当に戻るかどうかさえ確証のないのに、そなたら2人をやしなえと? 

  そなたは私に貴族たちの笑いものになれというのか? それだけのことなのだぞ?」


 「まあ魔力が戻ることがあるならばそのときには連絡するがいい」


 そう言ってわたしが覗いている扉をバタン、と開ける。父様の怒ったような目があう。

 一瞬でも慈愛の色が目に映ることを期待したが、ぐっといきをつまらせたような音がしたもののすぐに廊下に下がらせていた侍女から、預けていたマントを受け取ると、足早に去っていった。


 あとに残ったのは母様。

 母様は私が覗いていたことに気づくと、私をギュッと抱きしめてきた。


 なんでこんな薄情なことができるの? 


 私は先程まで優しかった父様のことを思いとってもかなしくなる。

 

遅くなりましたが、読んでくださった皆様には感謝しかないです!

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