神官長の呼び出し 後編
テストが終わりました!! 長らくおまたせしてすみませんでした!
ぐらっと歪む視界。どうにも力の入らない体。
(どうすれば......?)
体を柱にもたれさせ、ぼーっとした頭だけはなんとか必死に持ち上げる。正直、目を開けているのもかなり辛い。現在、流れる魔力と疲れにもう身を任せたい誘惑に襲われている。
「ははは。わざわざ僕が来たかいがあったよ。予期せず大収穫だよ」
ニッコニコの笑顔を浮かべるロズベルグ。こちらに近づこうとしている。
ピクリ。
そのとき、しばらく気絶していた男の手が動いた。
「......様。ロズベルグ様....どうか......」
従者らしい男は、怯えたようにロズベルクの足元に手を伸ばし、縋り付く。
ロズベルグは、男に近寄り、男の顎を持ち上げて目を合わせる。
タレ目っだったのが嘘のように冷たい鋭い眼光で男を捉えると、
「ああ、起きたんだね。ねえねえ、君は僕のことをよく知ってるよね。僕は弱いやつは仕方ないと思ってるんだ。弱いやつはなにをやっても強くならない。
ねえ、そうだろ? よわいやつ、落ちこぼれたやつはこの世に必要ない。弱いやつらがたくさんいたところでこの世はなにも変わらない。なんのためにいるんだろう。消えてもいいよね。
ふふふっ。君も案外弱かったんだね。もう僕には必要ない。知ってただろ?」
(思想が怖すぎるー。ツッコミどころ満載だよ!! どこのチートですか、あんた!!)
男もロズベルクの話を聞くにつれ、怯え、はくはくと声も出なくなっている。
パチっとロズベルグが指を鳴らすと、従者らしかった男の体が消える。
(ひっ)
私が思わず息を飲むと同時に、神官長も息を飲んだのが聞こえた。
にっこり。
消した男のことは気にも留めずに、ロズベルクはすでにこちらを振り返っていた。
ロズベルクは先程の冷酷さを嘘のように、遥か彼方にふっとばしたみたいだ。胡散臭いほどに、すごくいい笑顔である。ザンクもなかなかだけど、ザンク顔負けの豹変ぶりだ。
そんなキラキラの笑顔で私を見て、首をひょこっと傾ける。
ロズベルクは正直、タレ目っぽいけど顔のパーツは、全て整っている。前世ではかなり恋愛経験が薄かった私だ。こんな状況でなければ、キュン死していたかもしれない。
しかし、恋愛の心臓の高鳴りは訪れず、代わりに背中に悪寒が走る。吊橋効果も面潰れなほどに。
「ふふふ。やっぱりね、この感覚だ。ぞくぞくするなあ」
恍惚とした表情で、大げさなミュージカル俳優のように手を斜め上に掲げる。
「ぞくぞくして喜ぶなんて変わってるわね、あなた」
「心外だなあ。僕と君は同類だろう? 君の魔力が僕にはわかるんだ。つまり、僕らは近い力を持ち合わせている。君にもかんじられるだろう?
やっぱり、君にはすばらしい『強さ』がある。僕に匹敵できるほどの力を持つ君の存在が広くしられてないのが、不思議で仕方ないよ。
そして、僕らの更に深い繋がりは、『眼』かな」
「『眼』?」
私にはよくわからない。
(ザンクがなんか言ってたような気も....? うーん、やっぱ言ってないか)
ロズベルクが神官長のほうを見た、そう思った瞬間に床に倒れ込んだ神官長。
「ちょっと彼が知っていいことを超えているから眠ってもらうよ。消してもいいんだけど、君が嫌がりそうだからやめといてあげるんだ。でも君もできるんだろ? その『幻の仲介者』の眼で。
そうそう、現在この『眼』を持つのはこの世界で3人だからね。君に会うまで2人だったんだけどね。これは運命のめぐり合わせだよ、きっと。
この眼は女系で受け継がれるものだから、僕達の代で消えるかと思ってたんだけど、君が存在していてたすかったよ、ホント」
幻の仲介者? 目のこと?
女系? つまり母様から受け継いだものなの? そして
(なんでロズベルクと同じなの???)
こんな変態マゾと同類なのは、嫌だと思う。
「え? なんで僕と同類なのかって? えー、やっぱり血の繋がりは強いんだね、きっと。きみの顔立ちも僕たちと似ているし....」
ばりーん。
ロズベルクの話が遮られる。
神官長室のステンドガラス張りの大きな窓が割れて、長身の男の姿が現れる。
ロズベルクは怪訝そうにいう。
「やはりおまえも知っていたのか」
「この国にわざわざ、なにをしに来た?」
「え? お前ならもうわかってるんだろ? それよりも、セレナの存在を隠してたなんてひどいじゃないか、友よ」
「黙れ」
地を這うような、魔王のような声だったが、マゾのロズベルクには効かない。
敵の敵は味方。これは前世からの真理だ。おそらくは仲間だ、そうしんじよう。
慌ただしい足音とともに人の叫ぶ声も聞こえて来た。
「神官長の部屋だ!!」
懐かしのザンクとダリウスの声が聞こえる。よかった。ダリウスは逃げられてたんだ。
ロズベルクは肩をすくめる。
「あ〜あ。邪魔が入っちゃったね。ざーんねん。もう少し時間があったらもっと仲良くなれたのになあ。わきまえて気を利かせろよ、リヒト」
「その娘は我が国のものだ、連れて行くことは許さない」
「ねえ、セレナ。強引に奪われるのと、丁寧に迎えに来るの、どっちが好み?」
(そんなキラキラした目で言うことじゃないでしょうが!!)
ぎろっと睨むと、残念そうだけど嬉しそうに
「分かったよお。じゃあまた来るね♥」
膝をついてわたしの手を取るロズベルク。
「では、お嬢様。必ずやまた迎えに参ります」
ひっ。
そう言って甲に口づけを落とす。
「おい」
ひらりとマントを翻すロズベルクに対し、長身の男が鋭い光を放つのが見えたが、ロズベルクの周りに覆われた白がかった結界に防がれる。
「じゃあな。兄妹たちよ」
そう言って再びマントを翻したロズベルクはまたたく間にその場から消えた。




